スマートグリッド(smart grid)とは | EnergyShift

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スマートグリッド(smart grid)とは

スマートグリッド(smart grid)とは

2021年03月08日

次世代の電力ネットワーク「スマートグリッド」をご存知でしょうか?昨今、耳にすることが増えた「スマートメーター」や「HEMS(ヘムス)」は、実はスマートグリッドと密接な関係にあるのです。
ここでは、先進国を中心に推し進められているスマートグリッドの概要、および注目された背景や期待される影響をご説明します。

スマートグリッドとは

スマートグリッドは、IT技術をもちいて電力ネットワークを構築し、電力の需要と供給を最適化するためのシステム。次世代送配電網とも呼ばれます。

従来、電力供給は発電所から工場や一般消費者に向けて、一方向に送電されるものでした。対して、スマートグリッドは電力の供給側と需要家のあいだで、電力を双方向にやり取りできる特性を有しています。

また、これまでは電力メーターによって期間あたりの電力消費量を測定しており、電力消費をリアルタイムに把握することはできませんでした。このような既存の仕組みに対し、スマートグリッドはスマートメーターを導入することにより電力消費量を通信によって取得し、需要と供給をリアルタイムで把握してコントロールすることを可能としました。

スマートグリッドを構成する「スマートメーター」や「HEMS」とは?

スマートグリッドについて言及される場面では、必ずといって良いほど「スマートメーター」や「HEMS」が登場します。これらは、どういった機器なのでしょうか?

スマートメーターは、端的にいうと通信機能を備える電気メーターです。サーバーを通じて電力消費量を電力会社に送信できる点、電力の消費者自身もパソコン・モバイル端末から電気の消費量を確認できる点で、従来の電気メーターとは異なります。

一方のHEMSは、エネルギー消費量の最適化に役立つ機能を有したシステム。電気・水道・ガスの消費量を確認できるほか、自宅に設置している太陽光発電設備の発電量の把握を可能とし、照明機器やエアコンの操作にも対応しています。

 概要・主な特徴
スマートメーター消費者側が使える機能があるものの、基本的には電力消費量を電力会社に伝えるための機器
HEMS家庭におけるエネルギーの把握・最適化に長けた、消費者のためのエネルギー管理システム

スマートメーターやHEMSを標準搭載した住宅「ZEH」

スマートメーターやHEMSと同時に、エネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅である「ZEH(ゼッチ)」も覚えておきたいところ。

ZEHは、低炭素型社会(二酸化炭素排出量の少ない社会)を実現させるために普及が推進されており、スマートメーターはもちろんHEMSや省エネ家電の導入を前提としたエコ住宅。また、電力の自給自足を実現させるために蓄電池の併設も推奨されています。ZEHに代表される蓄電池を備えた住宅は、後述する「再生可能エネルギーの大量導入が可能となる」という観点から大変意義のある存在です。

スマートグリッドの推進にともない、今後は新築住宅の標準をZEHとする流れがあるため、スマートグリッドの概念はスマートメーターやHEMSなどの一機器を指した局所的なものではなく、各世帯の住宅や街全体を変えていく大きな概念だと認識しましょう。

スマートグリッドが注目された背景

日本における電力供給は諸外国に比べて安定しており、アメリカが行っている「停電対策の解消」を最優先課題とするスマートグリッドは不要だと考えられてきました。しかし、再生可能エネルギーの普及拡大を考慮した際、スマートグリッドによる電力供給の精度向上は大いに貢献するのです。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、二酸化炭素の排出を抑えられる環境に優しいエネルギー源として注目されてきました。

一方、いずれの発電方法も発電量が天候に左右されるため、供給できるエネルギー量が不安定になりやすい特性があります。その不安定さが、再生可能エネルギーを主力電源とする体制を構築する際のネックとなっているのです。

スマートグリッドにより電力網の制御が高水準で行われるようになれば、需給が最適化されて上述した「再生可能エネルギーは安定面に欠ける」という課題が改善されるため、再生可能エネルギーの主力電源化に注力する日本でもスマートグリッドは注目されています。

スマートグリッドに期待される役割

日本国内における、スマートグリッドへ対する期待は大きく3つに分類できます。

  • 電力供給の最適化
  • 再生可能エネルギーの大量導入が可能となる
  • 電気の視覚化により省エネに対する関心が高まる

それぞれ、順番にご説明します。

電力供給の最適化

スマートグリッドは電力を必要とする場所を察知し、そこへ必要な量の電力を送るといった電力供給の根本的な仕組みを最適化します。

遠隔地における電力需要のピークにあわせて、遠方から電力を供給することが可能となるのです。こうして細かく状況を把握して送電すれば、不用意に遠方から送電を行う機会を減らせるため、送電にともない電力が失われる「送電ロス」を最小化できます。

また、スマートグリッドが想定している電力ネットワークが完成すれば、各戸における電力の融通が一般的になるでしょう。自宅で使わない余剰電力を、電気を必要とする別の需要家に回すことが可能となるため、電力の地産地消が現実的なものとなります。

再生可能エネルギーの大量導入が可能となる

再生可能エネルギーの普及拡大にあたり、発電量の不安定さは大きなネックとなっていました。電力の供給不足だけでなく、電力の供給過多もネガティブな状況を招くからです。

電力の供給過多は電気の周波数を乱す原因となり、供給過多を放置すれば停電を引き起こします。電力の需給バランスを正常に保つため、電力系統の接続を制限する「出力制御」と呼ばれる施策は、電力の供給過多がもたらす問題を回避するために存在しています。

ここまでが、従来の体制が抱えていた課題です。スマートグリッドに関連した取り組みであるZEHの普及、ビルや工場に対する蓄電池の併設は、蓄電量を拡大して電力の供給過多に至るまでのキャパシティを増加させる点で、再生可能エネルギーの大量導入を実行するための基盤作りに貢献します。

結果として、スマートグリッドを推し進めることは、再生可能エネルギーの大量導入を後押しする要因になり得ます。

電気の視覚化により省エネに対する関心が高まる

スマートメーターやHEMSの導入にともない、電力消費者のなかで「省エネに対する関心」が高まることもスマートグリッドに期待される役割です。従来、電気の行き来は目に見えるものではなく、消費者が電力の消費量を意識する機会はほとんどありませんでした。

一方、スマートメーターやHEMSの導入により「電力消費量の視覚化」が日常のものになることで、消費者が電気の使い方を意識するタイミングは確実に増えます。

世界各国で展開するスマートグリッド

スマートグリッドに対し、世界各国はどのように捉え、動いているのでしょうか。ここでは先進国を中心として、各国のスマートグリッドに対する姿勢、スマートグリッド推進の背景をご説明します。

アメリカ

アメリカは長らく停電問題に悩まされており、たびたび長時間にわたる停電が発生しています。こうした電力供給の問題は、設備老朽化により引き起こされるものです。

下記画像のうち、左から2番目はアメリカのニューヨーク州における1軒あたりの停電時間を示しており、1軒あたり平均で年間20.9分の停電が起こっていることが分かります。左から3番目はアメリカのカリフォルニア州における停電時間を示しており、こちらは1軒あたり平均で年間357.7分の停電が起こっているようです。

これに対して日本の平均停電時間は、1軒あたり年間16分です。

*東京電力ホールディングス「停電時間の国際比較」(数値は2016,2017年の実績)

ニューヨーク州における年間の平均停電時間は短いものの、カリフォルニア州ではニューヨーク州の約15倍に相当する長い停電が起こっていることから、いまだ電力供給が未改善の地区は大きな課題を抱えているのだと分かります。

アメリカは、オバマ元大統領のもといち早くスマートグリッドに注力し始めた国ではあるものの、政権交代が一因となり現時点では発展途上となっています。

EU

アメリカが抱える停電問題とは異なり、EUはエネルギー供給の最適化を実現するためにスマートグリッドに注力しています。

EU諸国はエネルギー自給率が低いことから、再生可能エネルギーによる発電へ力を入れているのですが、ここまでにご説明した通り再生可能エネルギーによる電力供給は不安定。エネルギーを輸入せず、二酸化炭素の排出量が多い発電方法に頼ることを避けるとなれば、電力供給の最適化へ効果を発揮するスマートグリッドの整備は不可欠なのです。

また、EUには電力供給の最適化やIoTによる生活インフラの整備を図り、環境に優しく継続的な経済発展を可能とする「スマートシティ」を構築する計画があり、その一環としてもスマートグリッドの推進は避けて通れません。

このような背景からスマートグリッドへ大きなリソースを割いており、先進国のなかでも特に同構想が進んでいるといえます。

日本

日本は、スマートグリッドへの注目・注力が遅かったといわれるものの、これは安定的な電力供給を行う体制がすでに完成されていたからです。年間の平均停電時間は世界的に見ても非常に短く、スマートグリッドの構想を取り入れなくても快適なインフラ環境が用意されていました。

しかし、日本もEUと同様にエネルギー自給率が低いという問題を抱えており、現時点ではエネルギー資源の大部分を海外の輸入に頼っています。これを解決するには、再生可能エネルギーを主電源とするべく発電設備の大量導入が必要となるため、結果としてスマートグリッドが必要となるのです。

現在、再生可能エネルギーやZEHの普及率が高まっており、徐々にではあるもののエネルギーの自給自足に向かい進んでいます。

おわりに

それぞれ理由こそ違いますが、スマートグリッドは先進国を中心に各国が力を入れています。日本も決して例外ではなく、この頃耳にすることの増えた「スマートメーター」や「HEMS(ヘムス)」は、まさにスマートグリッドを構成する大切な一要素なのです。

そして、スマートグリッドによる豊かでエコな世界の実現には、電力の消費者である私たちがスマートグリッドを前向きに捉え、その考え方を自身の生活に取り入れていく必要があります。今後、次世代の社会を創造するスマートグリッドに要注目です。

EnergyShift編集部
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