今さら聞けない「フェアトレード」とは? | EnergyShift

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今さら聞けない「フェアトレード」とは?

今さら聞けない「フェアトレード」とは?

2021年03月02日

グローバル化社会では世界中の国や地域で作られた原料や製品が取引されています。手頃な価格で購入可能な製品は、先進国よりも人件費の安い国や地域で原料生産されていることが多々あります。
しかし安さの裏には取引上不利な立場に置かれ交渉手段すら知らない労働者が存在します。そんな不均衡な取引を是正し、理不尽な格差をなくそうと生まれたのが「フェアトレード」です。

フェアトレードとは?

フェアトレード(Fair trade)は、直訳すると「公正・公平な貿易」という意味。歪んだ取引構造を是正し、対等な取引を実現するしくみです。具体的には、以下のような取引を指します。

  • 発展途上国の生産者など貿易取引上弱い立場に置かれている人たちに公正な対価が支払われること
  • 継続的に適正価格での取引をすることで、労働水準や生活環境の向上、経済的自立が図られること
  • 自然環境や人の健康に配慮された生産が行われていること
  • 長期にわたって持続可能な取引を行うこと

近年、フェアトレードという言葉は若年層を中心に浸透してきています。2019年に一般社団法人日本フェアトレード・フォーラムが実施した意識行動調査の結果によると、フェアトレードの認知度は32.8%で、前回2015年調査時の20.3%から3.5ポイント上昇したことがわかりました。年代別では10代の認知度が78.4%と最も高く、30代以下の認知度は上がっています。一方、40代以上では低下していることから、若い世代を中心にフェアトレードの認知が進んでいると受け取ることができます。

フェアトレードが必要とされている背景

歪んだ取引の歴史とフェアトレードの誕生

フェアトレードという言葉が生まれた背景には、不公平な貿易取引が行われている現実があります。私たちが購入する食品や衣料品などは、時に安すぎると感じるほど低価格のものが存在します。その安さの裏側には、生産者の労働力に対する過剰に安い賃金や、経済効率を優先し自然の生態系や人の健康を無視した生産体制などがあります。

歪んだ取引構造のはじまりは古く、大航海時代にヨーロッパの国々が南米やアジアの大陸を発見し、その後の植民地政策の一環で行われた奴隷貿易や、大規模農園経営(プランテーション)による労働力搾取や土地奪取などの歴史に辿り着きます。

20世紀中頃になると、搾取で多くの人が苦しんだ歴史から学び、労働しても貧困から抜け出せない人たちを守るための取り組みが生まれました。1946年にアメリカのTen Thousand Villages(旧formerly Self Help Crafts)という団体がプエルトリコの村から手工芸品を購入したのがはじまりで、1958年にアメリカにフェアトレード商品の販売店が正式にオープンしました。ヨーロッパでは1959年代にイギリスのOxfamが中国の難民の手で作られた工芸品を販売しはじめ、1964年にフェアトレード組織が設立されました。その後は工芸品以外の食料品などの商品も取り扱われるようになり、フェアトレードの波が世界に広がっていきました。

フェアトレードが必要とされている理由

しかし現在でもチョコレートの原料であるカカオ豆や、コーヒー豆、コットン製品などの生産現場ではさまざまな問題を抱えています。

例えばコーヒー豆やカカオ豆を生産する農家の生計は現在も不安定で、経済的な苦境から子どもたちに労働を強いているケースがあります。本来なら学校で勉強をする時間に労働を強いられた子どもたちは、将来の選択肢を広げるための知識を身に付けることができなかったり、成長期の過酷な肉体労働で体を壊してしまったりと、貧困のために未来の可能性を狭められてしまいます。

そもそもコーヒー豆やカカオ豆の国際相場の値決めは、原則ロンドンとニューヨークの先物取引市場で行われており、産地の天候や作柄、政情や治安状況、チョコレート消費状況など、さまざまな要素を取り込みながら日々変動しています。このように取引相場は生産地と遠く離れた場所で決められてしまうため、農家はなるべく高く買い取ってくれる業者に売る以外に選択肢がなく、どんなに質の良いコーヒー豆やカカオ豆が収穫できても自分たちで価格を設定することができないのです。

またコットン農家も根深い問題を抱えています。その1つが過度な農薬使用です。コットンの農地面積は世界の耕作面積の3%程度にもかかわらず、世界中で使用される殺虫剤の16%、農薬全体の10%がコットン農家で使用されるといわれています。さらに先進国では使用禁止となっている成分が入った農薬が、途上国の農家ではいまだに使われている実態もあり、環境への影響が危惧されるとともに、農業従事者の健康被害も露呈しています。

西アフリカやアジア地域の国々にとってコットンは重要な生産品ですが、生産コストをカバーできないほどの安値で取引せざるを得ない不利な構造があるため、害虫を駆除してコットン栽培の生産効率を上げる方法が優先されてしまいます。この問題を解決するためにはオーガニックコットン栽培への切り替えが求められますが、それには栽培手法の見直しや農薬使用していない農地への移転などの生産コストや手間が増加します。持続可能な取引を実現するためのコスト増加分の負担を生産者だけに強いるのではなく、購入業者側が買取価格に上乗せし、生産者の労力や地域の環境保護対策に見合った適正価格が設定されるのがフェアトレードです。

国際フェアトレード基準

フェアトレードの取り組みが広まる中、フェアトレードに関する基準が作られるようになりました。その1つが「国際フェアトレード基準」です。この基準は国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)が設定しており、認定対象は「商品」です。

フェアトレード最低価格とプレミアム(奨励金)

国際フェアトレード基準の最たる特徴は「フェアトレード最低価格」と「フェアトレード・プレミアム(奨励金)」です。

「フェアトレード最低価格」は生産者の持続可能な生活を守るために取引の最低価格を保証するしくみで、トレーダーは市場価格が下落しても、取引する生産者には最低価格を支払わなければなりません。なお市場価格がフェアトレード最低価格を上回る場合は、それに連動してフェアトレードの買入価格も上がります。

「フェアトレード・プレミアム(奨励金)」は品物代金とは別に生産者組織に支払われるもので、生産地域の社会発展や環境的な開発などの使途に用いることができます。

認証の対象となる製品

認証対象となるおもな製品は以下の通りです。

コーヒー、生鮮果物、カカオ(チョコレート)、スパイス・ハーブ、蜂蜜、ナッツ類、オイルシード・油性果実、サトウキビ糖、茶、野菜、加工果物・野菜、穀類、繊維(コットン)、花、スポーツボール、金

認証の対象となる生産者の地域

2019年4月時点における国際フェアトレード基準の対象国は138ヵ国です。

北アフリカ地域(6ヵ国)、中東地域(7ヵ国)、西アフリカ地域(25ヵ国)、東アフリカ地域(11ヵ国)、南アフリカ地域(14ヵ国)、西アジア地域(3ヵ国)、中央アジア地域(5ヵ国)、南アジア地域(9ヵ国)、東南アジア地域(9ヵ国)、太平洋地域(18ヵ国)中央アメリカ・メキシコ地域(8ヵ国)、カリブ海地域(11ヵ国)、南アメリカ地域(12ヵ国)

生産者側のフェアトレード基準

生産者側の基準は小規模農家向けの基準と、プランテーションなど労働者を雇用している農園向けの基準の2つに分かれていますが、大枠は以下の通りです。

  • 社会:組合を作透明性のある民主的な活動を行うこと、安全な労働環境、人権の尊重、人種差別・児童労働・強制労働の禁止などILO条約(国際労働条約)を守ること
  • 経済:商品代金と別に支払われるプレミアム(奨励金)を民主的に運用し、組織と地域全体の社会・環境にとって持続可能な発展に取り組むこと。付加価値の向上や品質管理への取り組みなどを通して生活向上を目指すこと
  • 環境:農薬・薬品の使用規制、農薬・薬品を取り扱う生産者・労働者の健康・安全対策の強化、廃棄物の適正管理、リサイクルの促進、土壌・水源の保護、生物多様性の保全と向上、遺伝子組み換え作物の禁止などの環境に関する基準を守ること

トレーダー側(輸入・製造・卸組織)のフェアトレード基準

トレーダー側が守るべき基準の要約は以下の通りです。

  • 監査を受け認証を得ていること
  • フェアトレード原料と通常品を混ぜずに区別して管理すること
  • 契約者双方合意のもと透明性のある契約を結ぶこと
  • 持続的な取引を促進すること
  • 生産者のリクエストがある場合は代金の前払いを保証すること
  • 不安定な市場に左右されない価格を保証すること

国際フェアトレード認証ラベル

このラベルが付いている製品は、国際フェアトレード基準を満たしているという目印になります。認証ラベルにはいくつか種類があるので、以下の表でラベルの見方を確認しましょう。

*fairtrade japan

WFTO(World Fair Trade Organization:世界フェアトレード連盟)は、各国のフェアトレードを推奨する組織や機関の連合体です。76ヵ国に広がり2019年末までに361のフェアトレード企業が参加しています。

WFTOに加盟してフェアトレード事業を行う企業として認定されるためには、セルフアセスメント(自己評価)や訪問監査などのプロセスを経て認証を受ける必要があり、加盟後も定期的な監査が実施されます。また以下のWFTOのフェアトレード10指針を遵守することを約束します。

フェアトレード10の指針 (10 Principles of Fair Trade)

1. 生産者に仕事の機会を提供す
2. 事業の透明性を保つ
3. 公正な取引を実践する
4. 生産者に公正な対価を支払う
5. 児童労働および強制労働を排除する
6. 差別をせず、男女平等と結社の自由を守る
7. 安全で健康的な労働条件を守る
8. 生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する
9. フェアトレードを推進する
10. 環境に配慮する

WFTOの保証マーク

WFTOに加盟している企業は、メンバーであることを示す「MEMBER」マークを企業の広報物などに使用することができるようになります。加盟企業は事業全体がフェアトレード取引で行われている企業ということになりますが、自社製品にマークを使用する場合には、さらに別の認証取得が必要です。

WFTOのメンバーになるメリット

WFTOに加盟した企業は、以下のメリットを享受することができます。

  • メンバーは無料でフェアトレードラベルを使用できます。使用時にライセンス料はかかりません。さらにミッション主導型のフェアトレード企業として認定されると、すべての製品でマークを使用することができます。
  • 取引額5億ユーロ以上のフェアトレード商品の購入に取り組むWFTO卸売業者とつながることができます。
  • フェアトレード商品の購入に取り組むWFTO小売業者(1,500以上のショップ)とつながることができます。
  • 加盟企業はWFTOのウェブサイトとソーシャルメディアに掲載されるため、フェアトレードに関心のある購入業者や消費者に発見されやすくなります。
  • メンバー同士はお互いをサポートして取引し、社会やフェアトレードについて発言したり、グローバル・地域コミュニティの関係を深めたり、協力し合っています。

今後の課題と対応

国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)の2018-2019年次報告書によると、世界のフェアトレード小売売上高は推定で98億ユーロにのぼるとされています。2008-2009年の同報告書では29億ユーロと推定されていたことから、この10年で市場規模は3.4倍ほど拡大しました。着実に広まりを見せているフェアトレードですが、課題もあります。

  • フェアトレード商品の割高感

フェアトレードの製品は、生産者に適正賃金が支払われる約束に加え、厳格なサプライチェーン管理も必要となります。そのため同じ品質の非フェアトレード製品よりもコストが高くなり、それが消費者に向けた販売価格にも反映されます。割高になる理由を消費者が理解し選択されるようになること、品質や価格だけでなく目に見えないストーリーに価値があることを広く知ってもらうことが課題です。

  • 認証制度の課題

フェアトレード認証を受けていなくても、各企業の独自基準で「フェアトレード」を宣言することは可能です。近年、フェアトレード機関の認証から独自認証へ移行する企業が増えてきているといいます。その理由は、上乗せ価格の使途がフェアトレード機関から詳細に報告されなかったことや、同じ地域の非認証農園の方が良い労働条件だったことが発覚したなどの問題点にあります。今後は認証マークだけに頼らず、企業独自の取り組みを消費者が見定めて、本当にフェアトレードなのか判断するセンスが必要になりそうです。

  • 必要な人たちの手にお金が届いているか

消費者がフェアトレード商品に支払うお金が、それを受け取るべき人たちの手に届くことが大切です。しかしフェアトレード団体が行うお金の流れの追跡には限界があることから、フェアトレードとされている取引の一部ではわずかなお金しか生産者のもとに支払われないケースもあるといいます。また途上国側の報告や管理のしくみに課題があるケースもあります。

日本で販売されているフェアトレード商品

日本で販売されているフェアトレード商品を紹介します。

ピープルツリー(People Tree)

WFTOの認証を受けているため、ピープルツリーで取り扱うすべての商品がフェアトレード保証です。製品はすべて自然素材かつ生産地で採れる素材を用い、それぞれの国や地方、民族の伝統的な手法を受け継いだ手仕事で仕上げられています。オーガニックコットン製品にも注力。ファッションアイテム、雑貨、食品、書籍まで幅広い取扱いがあります。(https://www.peopletree.co.jp/index.html

ワンプラネットカフェ(One Planet Café)

日本でWFTO認証を受けているもう1つの団体がワンプラネットカフェ。「ワンプラネット・ペーパー®」と呼ばれる日本初のフェアトレード認証の紙、バナナペーパーを扱っています。これは日本の越前和紙の工場とアフリカのバナナ農家や村の人々とのコラボレーションによって誕生した、人、森、野生動物を守る紙です。名刺や包装紙、大学の卒業証書をはじめ幅広い商品に使われています。 現在、世界11ヶ国で展開。(https://oneplanetcafe.com/paper/sample-page/

フェアトレードジャパンの認証ラベル付き商品

国際フェアトレード基準を満たしている商品は、日本国内で国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業、製品認証事業などを行うフェアトレードジャパンのサイトで確認することができます。( https://www.fairtrade-jp.org/products/licensed_goods.php )

おわりに

SDGs(持続可能な開発目標)の17のゴールには、「目標1.貧困をなくそう」が掲げられています。しかし2030年までに貧困に終止符を打つ目途はたっていないといわれています。

また「目標10.人や国の不平をなくそう」に関しては、データが得られる92ヵ国の半数以上で最貧層40%の所得が全国平均を上回る伸びとなっていますが、その一方で世界の多くの国では1%の最富裕層に所得の大部分が集中し、最貧困層40%が受け取っているのは所得全体の25%程度です。

「目標12.持続可能な消費と生産のパターンを確保する」では、先進国が開発途上国と同じ経済生産を行うために使用している天然資源は約5分の1と発表されています。つまり、途上国は自国の貴重な資源を先進国に輸出しなければ経済が成り立たず、一方で先進国は自国の資源を温存しながら優位な経済活動をしている実態があるといえるでしょう。 SDGs達成にはさらなるフェアトレードの広まりが必要です。フェアトレードを成立させるためには、生産者や購入業者の努力だけでなく、製品を購入する消費者側の意識変化も欠かせません。今、家庭で使っている製品のうちひとつでも、フェアトレード製品はありますか?まずはフェアトレードについて興味を持つことが第一歩。SDGsを実現した後の世界では、すべての取引がフェアトレードになっているかもしれません。

EnergyShift編集部
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