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水素エネルギーとは?普及拡大の鍵を握る水素ステーション

水素エネルギーとは?普及拡大の鍵を握る水素ステーション

2021年03月10日

燃焼時に二酸化炭素を排出しない「水素エネルギー」は、次世代エネルギーとして最近耳にすることが増えました。実際のところ、水素エネルギーはどれほど画期的であり、どんな方法で活用できるものか知らない方が多いのではないでしょうか。なぜ、水素エネルギーが私たちに必要な存在となるのか、確認していきましょう。

水素エネルギーとは

水素エネルギーとは、エネルギーとして利用する水素のことです。水素を作る方法は多く、電気を使って水から取り出せるほか、以下の資源からも生み出せます。

  • 石油
  • 天然ガス
  • エタノール
  • メタノール
  • 下水汚泥
  • 廃プラスチック

また、製鉄や苛性ソーダ製造などの工業の副産物として、水素を取り出すことも可能です。

水素をエネルギーとして活用する仕組み

水に電気を加えて電気分解することで、水を水素と酸素に分けられます。学生時代の理科の授業で、実験した記憶がある方もいるのではないでしょうか。

一方、水素をエネルギーとして利用する際は、水の電気分解とは反対の工程を踏みます。水素を燃焼させると空気中の酸素と反応し、電気と水を発生させるのです。反応によって生まれる電気はエネルギーとして活用できます。

水素エネルギーが注目される理由

水素はエネルギーとして利用した際、二酸化炭素を排出しません。酸素との反応によって発生するのは電気や水、熱エネルギーです。燃やせば二酸化炭素を排出する化石燃料とは違い、水素をエネルギーとして利用しても環境に負荷を与えることがないのです。

また、水素はさまざまな方法によって取り出せるため、現状ではエネルギー調達を海外からの輸入に頼っている日本にとって貴重なエネルギー源となります。エネルギーを海外輸入に依存している限り、以下のような課題を抱えることとなりますが、水素エネルギーの活用が本格化することで課題の解決が期待できます。

  • 国際情勢によりエネルギー調達にかかる費用が変動する
  • 化石燃料の調達コストが高騰すると、電気料金も高騰する
  • 輸入が途絶えた場合、国内のエネルギー供給が滞る懸念がある

まず、日本はエネルギー自給率が低く、特に石油はその大半を中東地域からの輸入に頼っています。そして、石油が国際情勢の変化によって高騰すると、比例して私たちの支払う電気料金が割高になるのです。電気料金の高騰による弊害は家計の圧迫にとどまらず、日本全体の経済に及びます。あらゆる商品やサービスの生産は電気を利用する前提で成り立っており、電気料金に比例して生産にかかるコストは変わります。簡単にいえば、電気料金が高くなることで、私たちが購入する製品の価格も高くなってしまうのです。

そして、もしも何らかの理由によりエネルギー輸入が途絶すれば、需要をまかなう量のエネルギー生産が難しくなり、国内のエネルギー供給が滞る懸念もあります。前例はありませんが、可能性の1つとして考えられるのです。あらゆる資源から取り出せる水素をエネルギーとして活用することで、以上の課題を解消できます。

水素エネルギーの安全性について

エネルギーとして活用する以上、水素は安全して利用できるエネルギーなのか気になるところです。実際、水素の化学反応を利用した兵器も存在するため、なおさらです。特に多量の水素を管理する水素ステーション(水素版ガソリンスタンド)は事故発生が懸念されますが、以下のような観点から安全対策を講じることで、安全に水素エネルギーを管理しています。

  • 水素を漏らさない
  • 漏えい時は早期に検知し、拡大を防ぐ
  • 漏えいした場所に水素を溜めない
  • 漏えいした水素への着火を防ぐ
  • 火災発生時に影響を最小化する

水素は燃焼速度が速く、軽いため拡散が早い気体であるものの、ガソリンよりも自然発火はしづらい特性があります。そのため、密閉された空間で一定以上の濃度になるなど、限定的な条件下でなければ着火しません。水素が漏れたとしても、拡散が早いため着火の条件は揃いづらいのです。これらの特性を考慮して、水素エネルギーを管理する水素ステーションではガス検知器や冷却設備、換気設備や散水設備といった火災事故を防止する安全対策を講じています。

水素エネルギーの主な活用方法

水素エネルギーは、FCV(燃料電池自動車)やエネファーム(家庭用燃料電池)のエネルギー源として活用されています。

主な活用方法概要
FCV(燃料電池自動車)ガソリンや軽油の代わりに水素をエネルギー源にして走行する、いわゆる水素自動車
エネファーム(家庭用燃料電池)都市ガス・LPガスから取り出した水素と、空気中の酸素を化学反応させて電気を作る家庭用設備

上記のうち、ここでは水素自動車に焦点をあてて、水素エネルギーの現状について解説していきます。

水素自動車のメリット・デメリット

水素エネルギーで走行する水素自動車は、水素を燃焼させて走行するものと燃料電池を使って走行するものに分かれます。おおむね、以下のようなメリットとデメリットがあります。

水素自動車のメリット水素自動車のデメリット
二酸化炭素を排出しない自動車の価格、水素の価格は高い傾向
有限資源である化石燃料を使わない水素ステーションはガソリンスタンドより少ない
わずかな改良で既存のエンジンを流用できる少量のNOx(窒素酸化物)を発生させる

水素自動車は地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出せず、有限資源である化石燃料を使わないエコな自動車です。ガソリン自動車のエンジンを多少改良するだけで、水素自動車用のエンジンとして流用できる点でも無駄が少ないといえるでしょう。

一方、水素自動車や燃料としての水素そのものは、いまだガソリン自動車の場合よりも高額な傾向にあります。地域によっては水素ステーションが普及しておらず、既存のガソリン自動車と使い勝手が同等とはいえません。また、ガソリン自動車より少ないものの、わずかながら有害物質を排出する点もデメリットでしょう。

水素自動車は日本でも普及する?

現状、ガソリン自動車よりも自動車価格や燃料価格が高く、水素エネルギーの安全性に疑問を持つ声も多いことから日本では普及が遅れています。前述の通り、運用されている水素ステーションの数が少ないことも、普及の遅れにつながっていると考えられます。実際、2020年12月時点における「燃料電池自動車新規需要創出活動補助事業」の交付決定を受けて運用されている水素ステーションの数は、全国でわずか137ヶ所です。

*一般社団法人 次世代自動車振興センター「水素ステーション整備状況

以上の理由から水素自動車の普及は思わしくありませんが、電気自動車に比べて燃料補給1回あたりの走行距離が長く、行政が補助金を打ち出していることから市場拡大が期待されています。

2020年10月、菅首相が表明した「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」といった宣言を考慮すると、行政による水素自動車の普及推進が強化される可能性もあるでしょう。

中国がエンジン車の販売禁止を公表

2020年10月、中国工業情報化省により「2035年に新車販売のすべてを新エネルギー車(NEV)やハイブリッド車(HV)にする」といった主旨の発表がなされました。新エネルギー車はプラグインハイブリッド車やEV(電気自動車)、水素自動車などガソリンに代わるエネルギーを燃料とする自動車を指します。具体的に、中国は2035年に新車販売の50%以上を新エネルギー車へ、新車のガソリン自動車をすべてハイブリッド車とするよう目指すようです。

日本の自動車輸出相手国上位10カ国の推移」によると、2019年度に日本が自動車を輸出した国として、米国に次いで2位に中国が上がってきています。大市場である中国が新エネルギー車の優遇を進めることで、日本の自動車メーカーも自ずと水素自動車を含む、新エネルギー車の開発に注力する道筋が予想されるのです。消費者の動向は読めない部分が大きいですが、生産国として日本の水素自動車の分野が盛り上がる可能性は大いに考えられるでしょう。

普及拡大の鍵を握る水素ステーション

水素自動車を普及拡大させるためには、より多くの水素ステーションを設置する必要があります。そのために、日本では規制改革が進んでいます。具体的には、以下のような対策の実施を前提として、水素ステーションのセルフ化が検討されているのです。

  • 水素ステーションや顧客の状況を遠隔監視する
  • 緊急時に遠隔監視所から運転を停止する装置を設ける
  • 異常に対して自動的に作動する制御装置・安全装置を設ける
  • 停電時の保安対策を講じる

欧米の水素ステーションは遠隔監視による無人設備が一般的ですが、日本では水素自動車への水素充填を従業員が行うこととなっています。高圧ガスの取り扱いに対して高圧ガス保安法が適用されるため、高圧ガス設備の無人運転ができないからです。

そのため、高圧ガス保安法の適用下において、一般顧客が水素自動車へ安全に水素を充填するための策を考案し、これに対応した基準・規定・ガイドライン等の作成が急がれています。一連の問題が解決し、日本国内に無人の水素ステーションが増加すれば、水素自動車の普及拡大は加速するものと予想されます。

水素社会実現に向けた取り組み

2019年3月12日に更新された、新たな「水素・燃料電池戦略ロードマップ」によると、以下のような目標の達成を目指した施策を産学官連携で進めていくとのこと。

水素利用の分野目標・目標達成に向けた取り組みの一例
水素自動車・2025年頃に水素自動車とハイブリッド車の価格差を70万円に縮める
・2025年頃に燃料電池システムを約75%コストダウン
・2025年頃に水素貯蔵システムを約60%コストダウン
・2025年にボリュームゾーン向けの車種展開
水素ステーション・2025年に320ヶ所、2030年に900ヶ所まで拡大
・2025年頃までに整備費を3.5億円から2億円に削減
・2025年頃までに年間運営費を3,400万円から1,500万円に削減営業時間・土日営業の拡大
・ガソリンスタンドやコンビニに併設する水素ステーションの拡大
燃料電池バス・2030年に1,200台まで拡大
・2020年代前半に車両価格を半減
・バス対応の水素ステーションを整備
定置用燃料電池・2030年までに530万台に拡大
・2030年頃までに投資回収年数を5年にする

*資源エネルギー庁「水素・燃料電池戦略ロードマップ(概要)」を抜粋・改編

このほか水素大量消費社会に向けて、水素製造コストの低下、貯蔵・輸送効率化のための技術開発が行われる見込みです。いずれも具体的な目標達成を2025年から2030年のあいだに定めているため、近い将来に水素エネルギーの利用は一般的となっている可能性も大いにあります。

おわりに

水素エネルギーは化石燃料とは異なり、地球環境に優しく持続可能な社会の実現にふさわしいエネルギーです。現状では水素エネルギーを利活用するための設備、および水素エネルギーそのもののコストが高額な傾向にありますが、政策が順調に進めば大幅なコストダウンが期待できます。

水素エネルギーの活用は、エネルギーを海外輸入に依存している日本の課題解決につながるため、今後の動向に注目が集まります。

EnergyShift編集部
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