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資源不足が深刻なEVを本当に普及させることができるのか?  シリーズ:資源問題の“今” 後編

資源不足が深刻なEVを本当に普及させることができるのか?  シリーズ:資源問題の“今” 後編

2022年02月02日

リチウムイオンバッテリーに不可欠な希少金属(レアメタル)の1つであるコバルトについて、前編ではいかに需要が拡大するか、中編ではコンゴ民主共和国からの供給依存における問題なのか、これらについて解説してきた。後編では、自動車会社がコバルトリスクをいかに低減し、あるいは回避していこうとしているのかについて紹介していく。引き続き、週刊「レアメタルニュース」編集長の吉竹豊氏による解説をお届けする。

自動車会社のコバルトリスク対策

自動車会社はコバルトの供給リスクを軽減するため、主に3つの対策を取っている

①LIBの正極材は、コバルトの省資源や代替材料の活用といったコバルトレス・コバルトフリーを実施。

②LIB搭載量を抑えたPHV、マイクロBEV、HEVなどラインナップの拡充。

③全固体電池のほか、燃料電池車(FCV)、水素エンジンなどのLIBに頼らない発電・駆動方式などの実用化。

①については、自動車各社は、コバルトやニッケルを調達できないリスクを軽減するため、異なる正極材を搭載したLIBを複数そろえ、航続距離に応じたグレードを設定する動きが出ている。高級グレードは三元系正極材のLIBを搭載し、コバルトやニッケルを使用するものの、長距離の走行が可能だ。一方、低価格グレードはリン酸鉄(LFP)系正極材などのLIBを搭載し、コバルトやニッケルを使用しないかわりに、航続距離が短くなる。コバルトの需給が引締まり相場が高騰すれば、自動車会社は三元系正極材のLIBを搭載する高級グレードを大幅に値上げし、高級グレードを買うユーザーを減らす。結果としてコバルトが調達できなくても、販売への影響は最小限で済むということになる。中国では政府による支援策もあり、安価なLFP系LIBの生産比率が20年から回復。21年1〜11月は車載LIB全体の56%と、通年は4年ぶりに過半数に回復する見込みだ。

自動車業界では2010年初めまでは、安全性の高いマンガン酸リチウム(LMO)などの正極材が採用されてきた。だが、テスラは正極材にコバルトやニッケルなど高価な原料を用いるニッケル酸リチウム(NCA)系LIBを搭載し、ガソリン車並みに航続距離を伸ばしてきた。LIBは正極の活物質がリチウムイオンの供給源となることから、容量が正極材の性能に大きく左右されるが、正極材はNCA系のほか、三元(NCM)系が主流となった。容量密度を高めるため、コバルトの含有率を減らしニッケルを増やす正極材の開発も進んだ。NCM111(Ni、Co、Mnの原子比が1:1:1)のコバルト比率は正極材重量の20%ほどだったが、NCM811は6.1%まで低下。NCAも2%以下に低下した。コバルトを使用せずにNCM系やNCA系に匹敵する新正極材の開発も進んでいる。

一方、LIBの価格が下がれば、BEVやPHVの普及がさらに進むとされる中、三元系LIBは100ドル/kWhを前に価格引下げが限界に近づいていた。このため、価格を下げられるLFP系正極材のLIBが見直され、中国を中心に搭載量が2020年から回復している(図7)。

図7:中国の車載LIB生産量とLFPシェア(中国汽車動力電池産業創新連盟)


出所:中国汽車動力電池産業創新連盟

LFP系LIBは、中国メーカーのマイクロBEVに採用されるほか、アメリカ・テスラも「モデル3」のエントリーグレード(中国・上海製造)に採用。世界最大手の中国CATLがテスラ向けに販売するLFP系LIB価格は60ドル/kWh台と100ドルの壁を割ったとの見方も出ている。フォルクスワーゲンなども、最も安価なエントリーグレードのBEVでLFP系LIBを採用する意向を示すなど、先進国でも採用が広がる可能性もある。

②については、LIBの平均搭載容量を減らすため、マイクロBEVやPHVなどの比率を高める方法もある。中国などの新興国では、航続距離が短く、車体価格も抑えられたLFP系正極材のLIBを搭載したマイクロBEVのシェアが高まっている。通勤の足となってきた電動自転車から、乗車人員と荷物を増やせるマイクロBEVに乗換える形で普及が進んでいる。PHVは充電がなくなれば、ガソリンエンジンなどでHV走行をできるため、BEVにくらべLIBの搭載量を減らせる。

一方、ヨーロッパなどはガソリン車のほか、エンジンを搭載するPHVの製造・販売の禁止も早める可能性もある。EUの執行機関・欧州委員会は、内燃機関を搭載したガソリン車やハイブリッド車(HV)、PHVの生産・販売を2035年までに禁止する政策案を発表し、立法機関・欧州議会の承認や加盟国の批准によって実施される可能性もある。一方、日本や中国などは電動車としてハイブリッド車を認める可能性もあり、地域によってハイブリッド車、PHV、BEVを禁じる時期が異なるとみられている。

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吉竹豊
吉竹豊

有限会社アルム出版社代表取締役/「週刊レアメタルニュース」「年刊工業レアメタル」編集長。慶応義塾大学政治法学部中退。福岡県福津市出身。 レアメタルとは、自動車や航空機、産業機器、電子機器、家電製品などに微量に含まれ、現代社会に欠かせない元素の総称。1955年にレアメタルという言葉を日本に持ち込み、定着させた唯一の専門メディアのジャーナリストとして活躍中。 ホームページ https://www.raremetalnews.co.jp/ E-mail: info@raremetalnews.co.jp

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