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「私たちの家はもう燃えている」グレタ・トゥーンベリとFridaysForFutureのはじまりから今まで

「私たちの家はもう燃えている」グレタ・トゥーンベリとFridaysForFutureのはじまりから今まで

EnergyShift編集部
2019年07月20日

地球温暖化と気候変動への歯止めを求める#FridaysForFuture(FFF)。16歳のスウェーデン高校生の「たった1人の反乱」が政治を動かしている。

日本ではまだあまり知られていないが、いまヨーロッパの若者の間では、地球温暖化と気候変動が最大の関心事の一つとなっている。今回はスペシャルとして、若者の運動とそのアイコンとなったグレタ・トゥーンベリについて、紹介する。

一人で気候保護のためのストライキを始めた

そのきっかけは、スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが去年(2018年)8月20日に、たった1人ではじめた抗議運動だった。

彼女はスウェーデン政府が二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすことを求めて、3週間にわたって学校の授業をボイコットして、ストックホルムのスウェーデン議事堂前で座り込みを続けた。彼女が持つ手書きのプラカードには、「Skolstrejk för klimatet(気候のための学校ストライキ)」という文字があった。当時彼女はまだ15歳だった。

学校の教師らから授業に出るように命じられると、グレタさんは「地球温暖化と気候変動のために世界が台無しになるかもしれない。それなのに、学校で知識をつめこむことに何の意味があるのでしょうか」と反論した。9月以降、グレタさんは毎週金曜日にプラカードを持って路上に立つようになった。

その後フリーの写真家やブロガーらがグレタさんの活動をインターネット上で取り上げ始め、メディアが注目し始めた。彼女はヨーロッパ各地で地球温暖化に反対する集会に招かれ、演説をするようになる。

去年10月にヘルシンキで行われた集会で彼女はこう言った。「我々は従来の規則に従っていたら、世界を変えることはできません。我々は規則を、あらゆる物を直ちに変えなくてはなりません」。これが、グレタさんが学校での義務教育をボイコットした理由である。彼女は就学義務をあえて破ることで、世間の注目を集めることに成功した。

グレタさんは、このストライキのヒントを米国から得た。去年2月にフロリダ州のある高校で発砲事件が起きたが、一部の生徒は同州の政府が銃規制を強化することを求めて、一時的に登校を拒否した。彼女は規則を破らなければ、大人たちの関心を集めることはできないと考えたのだ。去年12月には、ヨーロッパを中心に世界の270ヶ所で約2万人が金曜ストに参加した。

全世界に運動が拡大

彼女の抗議活動はフライデーズ・フォー・フューチャー(FFFのツイッターのハッシュタグは#FridaysForFuture)という、若者によるグローバルな環境保護運動に拡大し、世界中で多くの生徒、学生たちが金曜日の授業をボイコットしてデモに参加するようになった。

FFFは各国に支部を持つ。FFFドイツ支部は、同国政府に対して2030年までに脱石炭を完了すること、2035年までに再生可能エネルギーの消費比率を100%に高め、温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすることなどを要求している。

今年3月15日には、世界中で約179万人の若者がデモに参加して、地球温暖化に歯止めをかけるよう求めた。今年7月12日の時点で、グレタさんのツイッターアカウント(https://twitter.com/GretaThunberg)を約73万人がフォローしている。

2019年3月15日、全世界でFridasForFutureのデモンストレーションが行われた。写真はベルリン。

歯に衣を着せない語り口

去年秋以来、グレタさんは様々な国際会議に招かれて講演を行うようになった。彼女の講演が聞く者の心に響くのは、歯に衣を着せない語り口のためだ。

彼女は去年11月にストックホルムでの会議でこう語った。

「私は8歳の時に気候変動が起きていることを初めて知りました。しかしなぜこの大変な問題がメディアに大きく取り上げられないのかを非常に不思議に思いました。気候変動について科学者たちが研究したり、意見を発表したりしているのに、多くの人々は気候変動を否定したり、行動を拒否したりしています。私がいつか子どもや孫を持った時に、彼らから『2018年にはまだ手遅れではなかったのに、なぜ行動しなかったの』と問い詰められたくないと思いました。だから私はあえて規則を破って行動を始めたのです」。

TEDxStockholm

彼女は学校での気候変動に関する授業で、北極などの氷が解けてシロクマが生息できなくなるかもしれないと聞いた時に涙を流した。他の生徒たちは授業の後、すぐに頭の切り替えをできたが、グレタさんの場合には気候変動のことが頭から離れなくなった。

一時うつ病に近い状態にも陥り、医師からはアスペルガー症候群と診断された。グレタさんはドイツの新聞とのインタビューの中で、「私がこの運動を始めたのは、アスペルガー症候群であることと無関係ではありません。一つのことを考え始めるとそれだけに集中してしまい、他のことを考えられないのです。私は、言うこととやることが矛盾している人が耐えられません。世の中には、環境保護を重視する人か、重視しない人の2種類しかいません。その中間はありません。嘘をついている人が、はっきりわかるのです」と語っている。

グレタさんは飛行機に乗らず、外国での集会に参加する時には電車しか利用しない。さらに家畜が出すメタンガスが地球温暖化の一因になるとして、野菜以外は食べない。両親とも娘に説得されて飛行機に乗ることをやめたほか、自宅の屋根に太陽光発電パネルを取り付け、菜食主義に切り替えた。

環境保護を無視する経済成長を拒否

グレタさんは去年12月にポーランドのカトヴィツェで開かれた国連気候会議(COP24)で、「誰でも気候を守るために行動を起こせる」と訴えた。

「多くの人はスウェーデンは小国で、重要ではないと思っています。しかし私は、大きな変化を起こすためには、国が小さすぎるとか年齢が低すぎるということはないと思います。子どもたちが学校をボイコットするだけで、新聞が大きな見出しを載せるのであれば、みんなが力を合わせたらどれだけ大きな変化を生むことができるでしょうか。しかしそのためには、どんなに不愉快なことであっても、包み隠さずに語ることが重要です」。

YouTubeCOP24でのスピーチ

さらにグレタさんは経済成長だけを目指すことは十分ではないと指摘した。

「多くの人々は経済成長のことしか考えていません。しかし皆さんのそうした考えが、(地球温暖化と気候変動という)大問題を引き起こしました。今我々に残されている唯一の手段は、非常ブレーキをかけることです。皆さんがこのようにはっきりと発言できないのは、皆さんがまだ大人にはなっていないからです。皆さんは、この問題に真剣に取り組まず、我々子どもたちにこの難しい課題を任せています。私は、有名になるためにこの運動をやっているわけではありません。私にとって重要なのは、地球を守るために気候変動を食い止めることです。我々の文明は、沢山のお金を稼ごうとしている一握りの人たちのために、犠牲にされています。富裕層が贅沢な暮らしをできるようにするために、我々の生態系は台無しにされています」。

「家はすでに燃えている」

グレタさんの言葉には、しばしば悲観的なトーンと大人たちに対する不信感がにじむ。「大人たちは、我々子どもを愛していると言いますが、実際には(地球温暖化と気候変動を放置することによって)我々の未来を盗んでいます。皆さんが行動を起こさない限り、希望はありません」。

「我々は化石燃料を地中から掘り出すべきではありません。今日の経済システムでは(非炭素化が)不可能だというのならば、システム全体を変えるべきです。私は各国の政治家たちに、行動してくれとお願いするためにここに来たわけではありません。皆さんはこれまで我々の言うことを無視しましたし、これからも無視するでしょう。しかしもはや我々若者にとって残された時間は刻々と過ぎ去っており、大人たちが行動をしないことを釈明する理由づけもなくなりつつあります。私がこの会議に来た理由は、皆さんが望むと望まないにかかわらず、変化がやって来るということを伝えるためです。本当の権力は、人々にあります」。(COP24でのスピーチ)

グレタさんは今年1月、多くの政治家や企業経営者が参加する世界経済フォーラムでも演説。飛行機に乗ることを拒否する彼女は、ストックホルムから35時間かけて電車でダボスにやってきた。その言葉は辛らつだった。

「私は、皆さんにパニックに陥ってほしいです。私が毎日(気候変動について)抱いている不安を、皆さんにも感じてほしいです。私は、皆さんの家が火事になっているかのように思って、行動してほしいのです。実際に私たちの家はもう火事になっているのですから」。

ノーベル平和賞候補に推薦された

グレタさんは今年2月にEU議会で演説。2015年にパリで開かれた国連の気候会議で、195の参加国は工業化開始からの地球の平均気温の上昇幅を2度未満に抑えることに合意した。EUはこの目標を達成するために2030年までに温室効果ガスの排出量を90年比で40%減らす方針だ。

しかしグレタさんは「パリ協定の目標を達成するには、EUの目標は不十分です。2030年までに温室効果ガスの排出量を80%減らすべきです。もしも皆さんがパリ協定の目標を達成できなかったら、皆さんは最大の悪人として歴史に名を残すことになるでしょう」と警告した。

彼女の知名度は高まる一方だ。今年に入ってからはローマ教皇と握手し「その調子で頑張って下さい」と激励されたほか、今年5月には米国のニュース雑誌「タイム」から「次の世代のリーダー」の一人に選ばれ、カバーストーリーで取り上げられた。スウェーデン議会とノルウェー議会の一部の議員たちは、グレタさんをノーベル平和賞候補に推薦している。

左から米Time誌(2019年5月27日号)、英i-D誌(2019年夏号)、英WIRED誌(2019年7−8月)

ドイツには「グレタさんは一人で行動しているのではなく、誰かが入れ知恵をしているに違いない」と不信感を抱く勢力もある。彼女の下には沢山のヘイトメールも届く。

今年7月には石油輸出国機構(OPEC)のムハンマド・バルキンド事務総長が「フライデーズ・フォー・フューチャーの主張は非科学的。我々の業界にとって大きな脅威となっている」と批判すると、グレタさんはツイッターで「OPECに批判されるのは、我々にとって最高の賛辞だ。どうもありがとう」と反撃した。16歳の高校生が、石油業界から恐れられているのだ。

欧州議会選挙にも「グレタ効果」

グレタさんの活動は、政治にも影響を及ぼし始めている。たとえばドイツでは、地球温暖化や気候変動についての市民の関心の高まりを背景に、今年5月の欧州議会選挙で、緑の党の得票率が前回に比べて約2倍に増加した。

緑の党の得票率は前回(2014年)10.7%だったが、今回は20.5%に跳ね上がった。同党に票を投じた市民の数は、5年前の約313.9万人から約767.7万人に急増した。緑の党が全国規模の選挙で第2党となったのは、結党以来初めてのことである。

これに対し大連立政権を構成しているいわゆる国民政党の得票率低下には歯止めがかからなかった。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の得票率は前回の35.4%から28.9%にダウン。これはCDU・CSUが全国規模の選挙で記録した過去最低の得票率である。また社会民主党(SPD)の得票率は27.3%から15.8%に11.5ポイントも下がった。これらの党は、選挙戦で緑の党ほど地球温暖化問題を積極的に取り上げなかった。つまりドイツでは地球温暖化問題を軽視する政党は、得票率が下がるのだ。

ドイツの欧州議会選挙で驚異的だったのは、投票率が前回(2013年)に比べて約13ポイントも増加して61.4%に達したことだ。このことは若者たちを中心として、気候変動に危惧を抱く人々が、投票所へ足を運んだことを示している。日本に比べるとドイツの若者の間では、政治への関心が高まっている。

*欧州議会選挙結果

ヨーロッパ全体でも投票率が約8ポイント増え、選挙前に危惧されていた右派ポピュリスト会派の大躍進は阻止された。多くの世論調査機関は、フライデーズ・フォー・フューチャーに代表される若者の直接行動が、欧州議会選挙の投票率に影響を与えたと見ている。

欧州を襲う異常な猛暑

ここ数年、ドイツでも気候変動の影響が目に見えるようになってきた。昨年の年間平均気温は過去最高に達し、旱魃のために農作物に大きな被害が出た。さらに暴風低気圧のために樹木が倒されたり、降雨量の減少のためにライン川の水位が大幅に下がって大型の船舶が一時航行できなくなったりするなどの影響が出た。原油やガソリンの運搬に支障が出たため、一時ドイツでは自動車燃料の価格が高騰し「ミニ石油危機」が起きた。

今年6月にヨーロッパは去年を上回る猛暑に襲われた。6月27日にはフランス南部で45.9度という中東並みの気温を記録したほか、ドイツでも一部の地域で39.6度という過去最高の気温が観測された。

私はこの直前にイスラエルに出張していたが、私が住むミュンヘンの気温はテルアビブとほぼ同じだった。

イスラエルではほぼ全ての部屋にエアコンがあるのに対し、ドイツなどヨーロッパ諸国でエアコンがある住宅、オフィスは非常に少ない。私はドイツに29年前から住んでいるが、同国で今年の6月ほど厳しい暑さを経験したことは一度もなかった。

ヨーロッパの気候の変化を肌で感じると、グレタさんの言葉に共感を抱く若者が急増している理由が理解できる。ヨーロッパの多くの政治家は、彼女の言葉を完全に無視続けることはできないだろう。

#FridaysForFurure https://www.fridaysforfuture.org/

Greta Thunberg på Mynttorget, Stockhom Wikipediaより

この記事の著者

熊谷 徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。
ホームページ: http: //www.tkumagai.de
メールアドレス:Box _ 2@tkumagai.de Twitter:@ToruKumagai

Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/
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