大手商社で加速するブルーアンモニア生産 三井物産、1,000億円超投じ、豪州で年産100万トン | EnergyShift

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大手商社で加速するブルーアンモニア生産 三井物産、1,000億円超投じ、豪州で年産100万トン

大手商社で加速するブルーアンモニア生産 三井物産、1,000億円超投じ、豪州で年産100万トン

2021年10月05日

石炭火力に代わって、燃焼時にCO2を出さない発電として期待される「アンモニア発電」の実用化に向けて、大手商社によるアンモニアの生産プラント建設などの動きが活発化している。三井物産は10月4日、豪州におけるアンモニア生産に関する事業化調査を実施すると発表した。1,000億円超を投じ、日本に年産100万トンの輸出を目指すとされ、2030年に国内導入量年間300万トンを掲げる政府目標の実現にはずみがつく。

2030年政府目標「アンモニア年間300万トン調達」

CO2を多く排出する石炭火力をめぐっては、ヨーロッパを中心に全面廃止の動きが広がっており、フランスは2022年、イギリス2024年、ドイツは2038年までに廃止する方針だ。

日本においても、2030年までに効率の悪い石炭火力を廃止する方針だが、2020年7月時点でもまだ150基の発電所があり、電源の32%を占める主力電源のひとつである。さらに、天候などで出力が変動する再生可能エネルギーを調整する役割があるとして、2030年時点でも国内の電力需要の19%を石炭火力に頼らざるをえない状況だ。

そのため、燃焼時にCO2を出さないアンモニア発電の実用化が急がれている。

経済産業省では、大手電力会社が持つ石炭火力発電所において、石炭に20%アンモニアを混ぜて発電すると、CO2排出量を1割削減でき、アンモニアを100%燃料に使うと、電力部門のCO2排出量を5割削減できると試算している。

また発電コストも、水素発電が10%混焼で1kWhあたり20.9円、100%で97.3円に対し、アンモニアは20%混焼で12.9円、100%で23.5円と安い。そのためアンモニアは、水素発電が本格実用されるまでの切り札とされ、政府は2030年に国内導入量300万トン、2050年には年間3,000万トンまで増やす方針だ。

アンモニアが抱える2つの課題とは

しかし、アンモニア発電には課題も多い。

そのひとつがアンモニアの生産量の少なさだ。世界全体での生産量は年間約2億トンで、貿易量は約2,000万トンにとどまる。日本のアンモニア消費量は2019年で約108万トンであり、そのうち2割をインドネシアやマレーシアなどからの輸入に頼っている状況だ。

一方、20%の混焼発電だけでも火力発電1基(出力100万kW)あたり、約50万トンのアンモニアが必要になる。150基の需要をまかなおうとすれば消費量は約2,000万トンにのぼり、世界の貿易量に匹敵する。100%アンモニア発電を実現しようとすると、約1億トンのアンモニアが必要となり、世界生産量の半分を一国で消費する計算になる。

アンモニアの生産量はまったく足りず、本格導入に向けては世界規模での生産体制の拡大が欠かせない。

また、アンモニアはその製造過程でCO2を排出してしまうという課題もある。

天然ガスなど化石燃料から水素をつくり、窒素と反応させて合成するのが一般的だが、アンモニアを完全な脱炭素燃料とするには、再生可能エネルギーを使った電気で水を分解してつくった水素から合成する「グリーンアンモニア」、あるいは製造過程で出たCO2を回収、貯留(CCS)する「ブルーアンモニア」を合成しなければならない。

商社3社で年間300万トンに届く勢い

こうした中、三井物産は「ブルーアンモニア」の製造に向けて、1,000億円超を投じ、西豪州でアンモニア製造プラントを建設する。具体的には、100%子会社であるMitsui E&P Australia Pty Ltd(MEPAU)が50%の権益を持つ西豪州ウェイトシアガス田の天然ガスを原料にアンモニアを製造し、発生したCO2は回収し、近隣の自社廃ガス田に貯留するというもの。

年間100万トンのブルーアンモニアを日本に輸出する計画であり、実現すれば、2030年の政府目標がグッと近づく。10月4日には、CO2の回収、貯留の実現に向けて、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同調査を実施することで合意している。

ブルーアンモニアの国内需要が高まりつつある中、伊藤忠商事も2026年から、カナダでブルーアンモニアの生産を開始する計画だ。年産100万トンのプラント建設に向けて、マレーシアの国営石油大手ペトロナスのカナダ子会社などとともに検討を進めており、投資額は13億円(約1,400億円)にのぼる。稼働すれば、発電用アンモニア工場としては世界最大規模になる。

三菱商事は9月21日、2020年代後半から、アメリカ南部のメキシコ湾岸で年間100万トンのブルーアンモニアを製造し、日本に輸出すると発表した。CO2の回収量は年間で最大180万トンになる見込みで、CCSなどを手がけるデンバリー社によって地下に貯留される計画だ。

一方、丸紅は今年5月からIHIや、豪州の大手エネルギー企業Woodside Energyと組み、豪州タスマニア州で「グリーンアンモニア」の製造に向けた調査を進めている。同社が狙うのは、現地に豊富にある水力発電を使ったアンモニア製造だ。CCSなどの技術開発や回収・貯留に向けた設備投資も必要とならず、コスト競争力があがると期待されている。

大手商社によるアンモニア製造が実現すれば、2030年の政府目標を達成できる見込みだ。ただし、2050年目標の実現にはもう一ケタ生産量を増やす必要があり、大手商社を中心にして、今後もアンモニア生産は活発化する模様だ。

Text:藤村朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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