雲の彼方でバイオガスの現場を見る(その1) | EnergyShift

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雲の彼方でバイオガスの現場を見る(その1)

雲の彼方でバイオガスの現場を見る(その1)

2021年10月04日

前回は、足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(足温ネット)事務局長の山﨑求博氏が、中国におけるバイオガス(バイオマスによるガス)利用について、強い関心を抱き、実際に中国に視察に行った話だった。今回はそこからさらに、農村におけるバイオガス利用の現地視察に向かったときの報告となる。農村でのバイオガス利用については、意外な日本人の支援もあったことがわかった。農村のバイオガスの現場はどのようになっていたのだろうか。

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我々の持つ全てをお見せする

前回、コラムで紹介したように、中国での視察を通じてすっかりバイオガスに魅せられた私は、ぜひ農村での利用の現場を見たいと思い、北京での調査をアレンジしてくれた中国農業部の方に「ぜひ現場を見たい」とお願いしました。すると、国立バイオガス研究機関がある四川省は受け入れが整わないとのことで、代わりに雲南省政府が受け入れてくれることになりました。私は雲南省でローテク活用の素晴らしさに触れることになります。

雲南省は、1991年冬に大学の卒業旅行で訪れた際に、温暖な気候で様々な民族が独自の文化を維持しながら暮らす様を気に入って何度となく訪れており、何となく土地勘? がありました。当時、訪れたのは大理石で知られる大理、ビルマ系の仏教徒ダイ族が暮らす亜熱帯の西双版納(シプソンパンナ)などです。

2004年2月に省都昆明の空港を降り立った私たちは、1週間の予定で茶花賓館に投宿し、今回視察を受け入れてくれた昆明市農村エネルギー弁公室の方々とお会いしました。彼らは開口一番こう言いました。

「あなた方は農業部課長の友人という資格だから、我々の持つ全てをお見せする」

親方日の丸ならぬ「親方五星紅旗」でしょうか? 決意表明のような強い口調に驚くとともに、この国の人脈の持つすごさを見せつけた思いです。こうして、2日間にわたる視察が始まりました。

青山に抱かれた美しい村で

1日目に訪れたのは昆明市から東に約100km余り、有名観光地・石林の近くにある阿着底という農村です。少数民族サニ族の言葉で「青山に抱かれた美しい場所」を意味し、80世帯300人が暮らしています。村の入り口に塘子(ため池)があるので、かつては漢語で干塘子村と言いましたが、観光資源として先住民族文化を復権させる動きの高まりから名前を変えました。アグリツーリズムのモデル村であり、バイオガス利用は重要な構成要素になっています。

刺繍も鮮やかなサニ族の衣装に身を包んだ女性村長の案内で村をめぐります。すると村の入口に「神内雲南生態村」と刻まれた石碑がありました。この村は、日本人実業家の神内氏が80万元を寄付して作られた10ヶ所のエコビレッジのひとつとして、バイオガスタンクが村内53戸に建設されたそうです。この神内氏、実は消費者金融プロミスの創業者で、農政に携わった経験から資産を農業支援に使っていたことを後から知りました。

案内されたどの農家も豚5~6頭を飼育し、家族の分も合わせて日に30kgの糞尿をトイレから地下に埋設したバイオガスタンクに投入、バイオガスと液体肥料を取り出します。厨房でコンロに点火してみましたが臭いはしません。なお、コンロには圧力計があり、8まである目盛りのうち1以上であれば使用可能とのことでした。


バイオガス専用コンロ


バイオガス設置農家


バイオガスタンク残渣取出口


設置事例図

村長さん宅で家庭料理を振る舞われます。テーブルの上には、ジャガイモスープに焼いた羊のチーズ、乾燥豚肉と豆の煮物、川魚の揚げ物、羊肉の塩ゆでがところ狭しと並べられ、グラスになみなみと注がれたトウモロコシを蒸留した酒(アルコール度数58度!)で乾杯! 村長から酒を勧められ、歌も飛び出し、楽しいひとときとなりました。

200名が学べるバイオガス利用訓練施設

2日目は、昆明市農村エネルギー弁公室で昆明市におけるバイオガス利用状況について説明を受けてから、郊外の嵩明県にある「昆明生態農業示範区」に向かいました。1980年代に設置された示範区には、バイオガス利用技術について学ぶ訓練設備があり、一度に200名がトレーニングを受けることができ、校舎の前にあるコンクリートの広場では、受講者が図面を広げたり黒板代わりに使ったりします。その奧にはバイオガスタンクを作るためのレンガ積みや表面にコンクリートを塗る実習場があり、鉄筋コンクリート製の組立式バイオガスタンクの実物が展示してありました。


昆明生態農業示範区

さらに奥には7種類のバイオガスタンクが地下に埋め込まれた状態で並び、種類ごとに学べるようになっています。中でも、昆明市農村エネルギー弁公室が開発した「曲流布料型」は、タンクの床が緩やかに傾斜し、人為的な力を加えなくとも自然に内容物が汲み取り口に行くように設計されていることが特徴で、中には、途中の発酵段階で糞尿投入や残渣汲み取りができるタイプや、糞尿を予め濾過でき発酵後の残渣を強制循環させて再利用できるタイプもあり、興味深く拝見しました。

「発酵菌は予め材料の30%を投入し、豚糞なら30日で発酵しますが、中に草が入っていると発酵が遅れます。内容物のpH値は6.5~7.5が適当ですが、酸性度が高くなると生石灰を投入してpHをコントロールしています」


実習場にて


組立式バイオガスタンク

昆明市におけるバイオガス利用は1970年代初めから行われており、現在(2004年当時)では農業世帯の12.6%を占める10万世帯に設備が設置されているとのことでした。昔からあるローテクですが、政府方針の下で施工技術者を訓練し、面として普及させることで全く新しい展開ができることに感嘆しきりでした。

この雲南行、実はもうひとつの出会いがあったわけですが、それはまた次回で。

山﨑求博
山﨑求博

1969年東京江東区生まれ。東海大学文学部史学科卒。現在、NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ事務局長。自分をイルカの生まれ変わりと信じて疑わないパートナーとマンション暮らし。お酒と旅が大好物で、地方公務員と環境NPO事務局長、二足の草鞋を突っかけながら、あちこちに出かける。現在、気候ネットワーク理事、市民電力連絡会理事なども務める。

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