ボルボら大手三社、長距離トラックの充電インフラ整備に5億ユーロ投資 | EnergyShift

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ボルボら大手三社、長距離トラックの充電インフラ整備に5億ユーロ投資

ボルボら大手三社、長距離トラックの充電インフラ整備に5億ユーロ投資

2021年07月27日

重い荷物を積み長距離を走る商用トラックは、航続距離や充電インフラの課題から電動化には向かないとするのが通説だ。しかし、欧州では電動トラックによる物流の脱炭素化に必要な充電インフラ拡充を目的に、トラックの大手3社が異例のタッグを組み、積極姿勢をみせている。燃料電池トラックとともに、欧州における大型輸送の脱炭素化が今後どのように進展していくのか、要注目だ。

グリーン電力による充電拠点の拡充に5億ユーロ

7月5日、ボルボグループとダイムラートラック、フォルクスワーゲンの商用車部門であるトレイトングループが、欧州全域で電動商用車向けの高性能な充電インフラを拡充することに合意した。充電ポイントを設置・運営する合弁会社の設立に向けた意思確認のため、法的拘束力のない契約を交わしたという趣旨だ。

3社による合弁会社は、高速道路や物流拠点、目的地などの近隣に、グリーン電力による高性能な充電ポイントを少なくとも1,700ヶ所設置する。そのために、設立から5年以内に5億ユーロを投資するとした。1,700ヶ所という目標数は、パートナーや公的資金によって増加する可能性もあるという。なお、合弁会社の拠点はオランダ・アムステルダムの予定だ。

ボルボグループのプレスリリースでは、合弁会社は出資する3社とは独立したアイデンティティで運営されるとわざわざ言及している。ライバル同士が、商用車の脱炭素化においては会社の垣根を超えて手を組んだという点に注目だ。

また、高性能な充電インフラを整備し電動トラックの長距離輸送を可能にすることは、費用対効果の高い排出削減の方法だとしている。輸送セクターは欧州全体のCO2排出量の4分の1を占める。大型かつ長距離を移動する商用トラックの排出量を削減することは、脱炭素化に大きく貢献する。

燃料電池車でもライバルと合弁会社設立

ボルボは充電ポイントの拡充だけでなく、燃料電池車の開発においてもライバルとタッグを組んでいる。今年4月には、ダイムラーとの合弁会社Cellcentricを立ち上げ、燃料電池車の開発を進めている。大規模な燃料電池車のシリーズ生産を計画しており、2022年中に明らかにするという。

両社の認識は、電動トラックは比較的軽く近距離の輸送向け、重量物の長距離輸送には水素による燃料電池車が適するということで一致している。

航続距離300kmで欧州の輸送の約半数をカバー

ボルボグループ傘下のボルボトラックは、電動化や燃料電池車の導入に力を注いでいる。ボルボは電動化の利点として、脱炭素化に資するほかに3点を挙げている。排気ガスがないため窒素化合物(NOx)などを排出しないこと、騒音が少ないため都市でも夜間の輸送が可能になり、日中の渋滞緩和につながること、騒音の軽減によるドライバーの労働環境の改善の3点だ。

一方、充電アプリケーションという点では、将来の長距離輸送にあわせ、トラックの運転手の休息時間に合わせた、45分の急速充電や夜間充電が活用できるようになることも考えられている。

2019年2月、同社初の電動トラックで欧州向けの中型モデルであるFLエレクトリックとFEエレクトリックを納品した。これらは都市向けの輸送用トラックとゴミ取集車だ。近距離輸送用トラックのFLエレクトリックは、リチウムイオン電池パックを6つまで搭載でき、最大容量317kWh、航続距離は最大で300kmだ。充電時間は急速充電で2時間、普通充電で11時間とされている。

さらに、2021年4月には欧州でのラインナップに大型の3車種を追加した。新たなFHエレクトリック、FMエレクトリック、FMXエレクトリックは、いずれも最大540kWhという大容量が特徴だ。航続距離は最大300kmと変わらず、普通充電時間が若干短縮されたものの大きくは縮まっていない。欧州での発売は2022年後半を予定している。

2年ぶりの新車種の発表となったが、航続距離は300kmから伸びなかった。これについてボルボは、欧州統計局ユーロスタットによる2018年の統計「Road Freight Transport by distance」を提示し、欧州で輸送される全商品のうち約45%が300km未満の移動距離であると述べている。

業界団体も大型車のインフラ充実を欧州委員会へ要望

さて、トラックを含む大型車の充電インフラの拡充に関しては、欧州自動車工業会(ACEA)によるポジションペーパーが発表されている。ACEAとは、1991年に設立された自動車業界の業界団体で、メンバーはボルボグループのほか、BMWグループやルノーグループといった欧州勢に加え、米国のフォード、トヨタやホンダも含む15社だ。

2021年5月、ACEAはポジションペーパー「Heavy‐duty vehicles: Charging and refuelling infrastructure requirements(大型車:充電および給油インフラストラクチャの要件)」において充電ステーションの設置目標数を示し、電動化を進めるためにはインフラ整備が重要であると主張した。2025年までに1万5,000ヶ所、2030年までに4~5万ヶ所の高出力の充電ポイントと1,000ヶ所以上の水素燃料の補給ポイントを拡充する必要性などを主張している。

さらに深堀すると、このポジションペーパーは欧州委員会の 「代替燃料インフラストラクチャ指令」のレビューに対する意見表明という位置づけだった。2014年に発効したこの指令では、ガソリン車から電気や水素といった代替燃料への移行を促しているが、ACEAは大型車の充電インフラ整備の目標値を盛り込むよう求めている。

日本国内ではトラックの脱炭素化について、経済産業省の「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」などで議論が始まっているが、日本物流団体連合会によると電動の長距離トラックの導入例はまだないという(2021年4月16日現在)。地理的な条件などさまざまな違いはあれど、日本でも輸送セクターの脱炭素化が加速することはまちがいない。早急な取組みが必要だろう。

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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