モータージャーナリスト、大田中秀一が、ポルシェ・タイカン4Sにややロングに乗ってみた。タイカンがスポーツカーなら、テスラは・・・ | EnergyShift

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モータージャーナリスト、大田中秀一が、ポルシェ・タイカン4Sにややロングに乗ってみた。タイカンがスポーツカーなら、テスラは・・・

モータージャーナリスト、大田中秀一が、ポルシェ・タイカン4Sにややロングに乗ってみた。タイカンがスポーツカーなら、テスラは・・・

2021年10月10日

今回、試乗するのは、ポルシェ・タイカンである。米国では、テスラから乗り換えるドライバーも多いと言われている。とはいえ、EV(電気自動車)には、ポルシェらしさは残っているのかどうか、そこも気になるところ。モータージャーナリストである大田中秀一氏が、あくまで自動車としてのEVにこだわってみた試乗レポートをお届けする。今回は、レーシングサーキットでの試乗も行ったということである。

シリーズ:EVにややロングに乗ってみた

公道+筑波サーキットでポルシェを試乗

クルマ好きの私、不肖オオタナカが予備知識を持たずにEVに乗ったら、クルマとしてどんな印象を持つのか? EVに興味がない身として何を感じたのか?

こんなスタンスでEVに乗ってみた印象を感じたままに綴るシリーズを何台かお届けいたします。

あくまでも“旧来のクルマ好き”という観点を土台にしていることを予めお断りいたします。

4台目はポルシェ・タイカン4Sという1,462万円のモデルです。正規ディーラーの試乗車を借り出しました。

走行ルートは、街中→都市高速→カーブや上り下りのある3ケタ国道→都市高速→街中。小一時間の試乗でした。

加えて今回は筑波サーキット・ショートコース(コース1,000)でのチョイ乗り一瞬インプレッションとの二本立てでお届けいたします。

 

実は4ドアのポルシェには元々興味がない

外見は、サイズもムードも4ドア4人乗りポルシェであるパナメーラとほぼ同じで、車内空間も似ています。全長5メートル幅2メートル級の巨大なセダンです。

古い私は、1964年発売の歴史と伝統あるリアエンジン・リアドライブ(RR)スポーツカーである911こそがポルシェ、広げたとしても1996年から始まったミッドシップ(MR)のボクスター(カブリオレ)、2005年から始まったケイマン(クーペ)というスポーツモデル3モデルのみがポルシェだと思い込んでいます。

従ってそれ以外のモデルに興味はありません。パナメーラ、SUVのマカンやカイエンという4ドアモデルのカタログを見ようと思ったこともありません。

モータージャーナリスト界の大先輩で、CG(カーグラフィック)誌創刊編集長の故小林彰太郎氏にある試乗会で会ったときに

「パナメーラの意味がわからない。4ドアだったらベンツでいいじゃない。存在意義もわからない。乗ってみたけどやっぱりわからない」

と、仰っていたことが強く印象に残っています。私もそう思いました。

これはポルシェそのもの!

そんなことなのでEVであるタイカンにはさらに興味はありませんでした。しかし、これまでの試乗で自動車メーカー製EVの印象が変わったことと、メカニカル的なところに興味を持ったこともありとりあえず乗ってみることにしました。

果たして・・・ディーラーから出て数百メートル走ったところで「これはポルシェだ!」と思いました。

首都高速道路に乗り入れ、料金所を通過するころにはかなり印象が変わっていました。

合流してまずはじんわりペダルを踏み込み、続いて“ぐいん”という感じで強めに踏んでみました。そうしたらもう!

加速がスゴいことは言うまでもありませんが、踏み込み量と感覚的な加速がリニアに一致しているので走らせてとても気持ちいいのです。

エレクトリック・スポーツ・サウンド(後述)が奏でる音がまた気持ち良さを加速します。このサウンドが疑似エンジン音ではなくEVが発する元々の音を増幅しているのでなんとも未来的な感じがして気持ちいいのです。古舘伊知郎氏が実況をしていたころのF-1をテレビ観戦していた人なら記憶にあると思いますが、ホンダF-1マシンの音を「ホンダミュージック」と表現していました。

それをマネすると、車内外で聞こえる「タイカンミュージック」がいいんです。ポルシェ伝統のフラットシックス(水平対向6気筒エンジン)のサウンドもいいですがこれもまた。オフにもできるので、気分によって好きな音楽をかけてのドライブも楽しめます。

さらに、気のせいかもしれませんが、トランスミッションのギヤが切り替わった感触があり、そこから先の加速が気持ちよさをより加速します。

もはや笑いが止まらなくなっていました。

どんな人がタイカンを買うのか? 気になったのでセールス氏に訊いてみました。

「もちろん、ポルシェオーナーが多いですが、初めてのポルシェとしてタイカンに興味をもたれる方も多くいらっしゃいます。これまでのポルシェには何か近寄りがたい感覚があったけれどタイカンならという感じらしいです。また、アメリカではテスラからの乗り換えも多いと聞いています」

サーキットで思う、これはもしかしたら911か?!

別の日、別の車体にサーキットで乗る機会がたまたまありました。

レーシングスクールでのデモ用にディーラーが持ち込んだ試乗車を受講生向けのコース案内に使ったのですが、そのついでの試乗でした。

1周約1キロメートルの筑波サーキットショートコース数周の本当のチョイ乗りなので何を語れるわけでもありませんが。

興味があった点は次の2点です。

①サーキットで走らせるとスポーツカーとしてどうなのか

②バッテリーはどうなるのか

コースインして、公道ではできないアクセルべた踏みで全開加速をしました。

脳が置いていかれて頭蓋骨に当たる感覚、目がめり込む感覚はすごいものがあります。それはもうレーシングカーの領域。カタログ上の0-100メートル加速は4.0秒。ちなみに先日乗ったテスラ・モデル3は3.4秒でした。

ブレーキがまた素晴らしい。最初のタッチ、踏み込み量と効き具合のフィーリングの自然差そして絶対的なブレーキの力、当然でしょうけれどこれはポルシェのブレーキです。

「ポルシェのブレーキは宇宙一」

と、言う評論家がいますが、それはタイカンにも当てはまります。クルマは走ることより止まることの方が重要なのでブレーキの性能はとても大事です。

カーブでのハンドリングも何も言うことはありません。レーシングスクールで教える通りの理想の操作ができるしその通りに走ってくれます。その時、

「あれ、もしかして911?」

とも思いました。

もはやエンジンか電気かなんてもうどうでもいい気がしました。

またも笑いが止まりません。

サーキット走行したら航続距離はどうなる?!

さて、もう一つの注目点のバッテリーですが、走行前後でバッテリー残量を確認したところ次のようになりました。

走行前=オドメーター:9,335km・残量:301km

走行後=オドメーター:9,353km・残量:202km

一回4周の走行を5セット走ったのでちょうど20キロ走ったことがメーターからも読み取れます。この間、受講生のコース案内のために本気の80%くらいの走らせ方だったので本気ならもっと減ったでしょう。

メーター上の残量が一般道で普通に走った場合の値だと仮定して単純に計算すると、このコース1キロ走るのに一般道5キロ分の電力を消費したことになります。

同じコースをガソリンエンジンの911で走ると燃費が一般道比3分の1になるので、タイカンの方がエネルギー消費量が多いことになります。

ちなみに、カタログ上の満充電航続距離が374キロなので、このコースでは74キロ走行、つまり74周走れる計算になります。

東京都港区からここまで来てサーキット走行を楽しむ場合はこんな計算になります。

満充電航続距離(374キロ)―筑波サーキット往復(140キロ)=サーキットで使える航続距離(234キロ)÷サーキット電費係数(5)=46.8キロ≓46周

速い人の1周タイム43秒で計算すると、連続走行を33分楽しめることになります。このレーシングスクールでのワンセッションは6分なので5セッション走れます。連続走行だとちょっと短いですが、レースのような全開走行ではなくレーシングスクールを楽しむなら充分でしょう。

尚この結果は、コースはレイアウトの特性から回生機会がほとんどないからだと思います。

これが例えば富士スピードウェイクラスの大きなロングコースだと回生する区間も長くなるので結果は変わると思います。機会があったら試してみたいですね。

今回乗った4Sというモデルは4輪駆動ですが、先ごろ2輪駆動(後輪駆動)モデルが追加されました。もしかするとそちらはもっとポルシェっぽいのではないかと試乗できる日を楽しみにしています。

自動車メーカーが本気で作ったEVはすごい

テスラ・モデル3、Honda e、アウディe-tron、トヨタ・MIRAI、タイカンに試乗しての結論です。

「タイカンがスポーツカーならテスラはママチャリだな」

と、テレビで言った評論家もいます。私もそう思います。

しかしママチャリがダメだということではありません。ママチャリにはママチャリの存在価値がありますから。

比べておいて言うのもなんですが、テスラと、自動車メーカー製のEVを同列で比べることにきっと意味はないし、さらに言うとEVとエンジン車を同じ評価軸で比べることにも意味がない。別の評価軸が必要だと思いました。

タイカンのEVとしてのトピック

機構面でのトピックが2つあります。

1.EVとしては異例の2段変速を搭載している

EVに変速機があれば、電費でも最高速でも有利になるので、搭載しようとしたメーカーはテスラをはじめあったのですが、モーターが瞬間的に発する強大なトルクを受け止められるものがなかなかできなかったと言います。しかしポルシェはなんとかしました。

余談ですが、なるほどと思わせるエピソードを紹介します。

ホンダが二輪車EVのPCX ELECTRICの実証実験をフィリピンとインドネシアで行っていました。インドネシアでの実験参加者の反響を聞いたことがあるのですが、その中に、

「スピードが伸びないのがイマイチ」

と、言う声が少なくありませんでした。

インドネシアの人たちはパワフルが好きなこともあり、100ccから始まったスクーターの排気量が今や150ccになっているくらいです。アクセルをひねればどこまでもパワフルに加速していく感覚が大好きです。

ところがEVスクーターにはそれがないというのです。

これは、エンジンでは回転数が上がるほどパワーとトルクが上がるのに対して、モーターはいきなりトルクが出ますがそれ以降は頭打ちになるという出力特性の違い故。パワフルなエンジン車のどこまでも加速する気持ち良さに慣れている彼の地の二輪車ユーザーにはこの点がとても気になったようです。トランスミッションがあればこのような感想にはならなかったでしょう。

2.EVシステム電圧が800Vアーキテクチャー

一般的なEVのシステム電圧は400Vなのに対しタイカンは800Vです。ユーザーが感じるメリットとして最も大きいのが充電時間の短さ。電圧が高くなるほどに充電時間が短くなるためですが、ポルシェのスペック値では5分で100キロ走行分の充電ができることになっています。

ただしこれは270kW、850VのCCS急速充電器を使うことが基本です。残念ながら日本にはありません。クルマのスペックにインフラが追いついていないということですね。

(取材・写真・文:大田中秀一)

大田中秀一
大田中秀一

乗りもの、特にクルマ好きで、見ること、乗ること、買うこと、しゃべることすべてが好き。特に運転が好き。ハンドルを見るととにかく運転したくなる。世界各国のディーラーを中心に試乗台数したクルマはのべ1,000台を超える。5年間のレース参戦経験を活かし、レーシングスクールインストラクター(見習い)も時々務める。大型二種免許も所持していて、運転技術や安全運転に関しての研究も行なう。モビリティに関わることすべてを興味のままに取材、自動車専門誌並びにweb、経済ニュースサイトなどに寄稿している。世界のマイナーモーターショーウォッチャー、アセアン・ジャパニーズ・モータージャーナリスト・アソシエーション会長、インドネシアにも拠点がある無意識アセアンウォッチャー。実は電池の世界もちょっとだけ知っている。

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