省エネ法改正ではじまる「再エネ争奪戦」 1.2万社に再エネ導入目標の設定義務化、余った太陽光発電の利用拡大で迫られる日中操業 | EnergyShift

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省エネ法改正ではじまる「再エネ争奪戦」 1.2万社に再エネ導入目標の設定義務化、余った太陽光発電の利用拡大で迫られる日中操業

省エネ法改正ではじまる「再エネ争奪戦」 1.2万社に再エネ導入目標の設定義務化、余った太陽光発電の利用拡大で迫られる日中操業

2022年01月13日

経済産業省は脱炭素社会の実現に向け、エネルギー使用量が多い国内企業約1万2,000社に、二酸化炭素(CO2)を排出しない太陽光発電や水素・アンモニア、原子力などの非化石エネルギーの導入目標の設定を義務づける。さらに再生可能エネルギーを無駄なく使うため、太陽光発電の発電量が多く、電力あまりが生じる昼間に企業や家庭に電力使用を促す新たな枠組みもつくる。2022年の通常国会に省エネ法改正案を提出し、2023年4月の施行を目指すが、電力多消費産業には「再エネ争奪戦がはじまる」「日中操業シフトは生産効率を落としかねない」といった危機感が広がっている。

なぜ、省エネ法を改正するのか

2050年の脱炭素、2030年CO246%削減に向けては、徹底した省エネと再エネや水素・アンモニアなどの導入拡大が欠かせない。脱炭素実現に向け、経産省は省エネ法を改正する。

再エネなど非化石エネルギーの導入目標の設定義務が課されるのは、エネルギー使用量が原油換算で年間1,500キロリットル以上の企業、通称「特定事業者」が中心となる。特定事業者は鉄鋼や化学、セメント、紙・パルプ、石油、電力、ガスのほか、自動車や鉄道、不動産、小売店など多岐にわたり、その数は1万2,000社を超える。

1.2万社は経産省が今後策定する基準にしたがって、2030年度に向けた数値目標を設定する義務を負うとともに、年1回、取り組み状況を国へ報告しなければならない。国は企業の取り組みが不十分だと判断すれば、立入検査や指導をおこない、したがわなければ企業名の公表や罰金を科す罰則も設ける方針だ。

特定事業者はこれまでも省エネ法のもと、エネルギー使用量を年1%以上減らすよう努力することを求められてきたが、現行の省エネ法では石油や天然ガスなど化石燃料によるエネルギーの合理化が目的だった。一方、水素・アンモニアなどは国内生産が限定的で、天然ガスや原油などの資源国からの大量調達が主流となる見込みだ。供給制約などエネルギーの安全保障の観点から、需要サイドでの効率的な利用が欠かせない。そのため、これまで省エネ法の対象外だった再エネや水素・アンモニアなどすべてのエネルギーを対象に加え、省エネの深掘りによって、安定供給や経済性の向上も狙う

5電力会社で出力制御のおそれ、太陽光発電を無駄なく使うには

さらに再エネを無駄なく使うため、太陽光発電の発電量が多い昼間など、電力余りが生じる時間帯に企業や家庭に電力を使ってもらう新たな枠組みも導入する。

太陽光発電や風力発電などは天候によって発電量が左右される。特に太陽光発電は晴れた日中に多くの電力を生み出すが、冷暖房需要が少ない春や秋などは需要を上回る量を発電し、余剰電力が増えつつある。電力は需要と供給のバランスが崩れると電力設備が故障し、最悪の場合、停電するおそれがある。そのため、太陽光発電の導入ラッシュに沸いた九州電力エリアでは、需給バランスが崩れるのを回避しようと、2018年10月、太陽光発電の電力受け入れを一時停止する「出力制御」を全国ではじめて実施した。

九州電力による出力制御は、2021年度にはすでに200回を超えており、制御率は4.6%になる見込み。2022年度の制御率は5.2%に増える見通しで、7億3,000万kWhの電力を捨てざるをえない状況だ。そのため「せっかく再エネで発電した電力が無駄になっている」「CO2排出量を減らす目標に逆行する」との指摘が増す。さらに2022年度は、九州以外に北海道・東北・四国・沖縄の4電力会社エリアでも出力抑制が発生する可能性が高まっている。

5電力会社における2022年度の出力制御見通し

 北海道東北四国九州沖縄
出力制御率見通し(2022年度)
100%連系線利用の場合
出力制御率(%)
[制御電力量(kWh)]
-0.33%
[3,137万kWh]
0.01%
[44万kWh]
5.2%
[73,000万kWh]
0.2%
[97.6万kWh]
仮に、エリア全体がオンライン化した場合
出力制御率(%)
[制御電力量(kWh)]
-0.07%
[674万kWh]
-4.9%
[68,000万kWh]
0.05%
[20.8万kWh]

出典:経済産業省

ただし、こうした時間帯では電力卸価格が1kWhあたり0.01円とタダ同然となっており、直近では春、秋だけでなく12月にも0.01円をつける時間帯が発生しつつある。

政府は、再エネの最大限導入を掲げ、2050年には電源構成に占める再エネ比率を5〜6割に高める考えだ。だが、再エネ比率18%(2019年時点)の現在ですら出力抑制が頻発していることから、最大限の導入にはタダ同然の余った再エネ電力をうまく使いこなすことが欠かせない。

一方、これまでの省エネ法は、夏と冬の昼間の時間帯の電気需要は抑えて、夜間にシフトする需要の平準化を求めてきた。平準化を進める限り、再エネを無駄なく使うことは難しい。そこで、経産省は再エネの出力制御時には電力消費量を増やす、需給がひっ迫しているときには消費量を減らす枠組みを構築するため、省エネ法の規定を見直す。

具体的には、電力会社に0.01円をつける時間帯の電気料金を安くしたり、ダイナミックプライシングなど新たな料金プランの導入を義務づける。また、家電メーカーに対しては、電力ひっ迫時にエアコンや給湯器などの稼働を自動的に抑える機能を持たせることを努力義務化する。

時間帯別料金プランの拡充や、自動制御機能付きエアコンなどの普及によって、消費者側からも電力需給の安定化を図る。

工場の操業を日中にシフトする動きも出ているが解消されない根深い課題・・・次ページ

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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