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英国はなぜ、日本の浮体式洋上風力市場に熱い視線を向けるのか?

英国はなぜ、日本の浮体式洋上風力市場に熱い視線を向けるのか?

EnergyShift編集部
2021年03月12日

英国は石炭火力発電にとって代わる主力電源として、洋上風力発電の開発を進めている。2030年までに40GWを建設する目標だ。日本もまた英国と同じ島国であり、洋上風力に対する期待は高い。2021年3月2日、英国大使館主催による洋上風力のオンラインセミナーが開催された。

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英国の浮体式風力のポテンシャルは20GW

セミナーでは最初に、英国国際通商省洋上風力スペシャリストのBruce Clements氏による基調講演が行なわれた。

英国は明確な政府のポリシーに基づいて、グリーン成長を目指している。2050年にはカーボンゼロにしていく。洋上風力については、2030年までに40GWを開発していくが、浮体式洋上風力についても1GWを見込んでいる。見通しとしては、洋上風力は2035年には50GWを超えるという。

洋上風力の地点としては、北海南部を中心に、スコットランド沖の大西洋、アイリッシュ海などに広がっている。中でも英国北東部の海岸から130~190km沖に位置し、面積はロンドン市に匹敵するDogger Bank(ドッガーバンク)は、1.2GW×3区画の世界最大の洋上風力発電所になるという。

とはいえ、着床式の洋上風力が設置できる遠浅の海は、英国であっても無限にあるわけではなく、その先を見据える形で浮体式の洋上風力も必要となってくる。英国の浮体式洋上風力は2040年までには20GWが開発されるというシナリオも描かれている。


Source: 4C Offshore

また、洋上風力の課題の1つが送電線だ。しかし、遠洋となれば、水素を製造するために利用する方が優位性がある。英国も日本も島国であり、浮体式風力をめぐって経験の共有や技術開発などでのパートナーシップが期待されるということだ。

洋上風力で最も注意すべきは送電ケーブル

続いて、3つのパネルディスカッションが行われた。最初のテーマは、送電ケーブルについてだ。

海洋エンジニアリング企業TekmarのJack Simpson氏、大型海洋機器のソリューションプロバイダーであるMotive offshore GroupeのEddie Moore氏、ワイヤー・ロープのサプライヤーであるBridon BekaerのGreg Mozsgai氏、海洋での建設における製品・サービスを提供するActeonのL J Pan氏が参加。

Pan氏からは、日本は浅瀬が少なく、浮体式の導入が重要だが、コストと運営効率性が重要となると指摘がなされた。さらにMozsgai氏からは台風や地震といったリスクが指摘され、これについて高いコスト効果で事業を行うことが必要だとされた。

Simpson氏からは、台湾と異なり、日本近海は海水温の変化が大きいため、送電ケーブルにダメージを与えやすいという指摘がなされた。実際に保険の請求の70%は送電ケーブルに関するものであるという。Moore氏からは、送電ケーブルの信頼性が重要であり、EPCの事業者と共同で注意を払うことが、台湾での建設の成功につながっていると報告された。

台風だけではなく、地震や津波、地質リスクが高い日本近海

2番目のパネルディスカッションのテーマは海洋・海底だ。パネラーは、地質コンサルティング会社Cathie GroupeのGareth Ellery氏、海洋再エネ開発のソリューション企業SeaRocのNeil Pittam氏、洋上風力向け保護製品を扱うBalmoralのIan Milne氏ら。

浮体式風力について、Pittam氏は、中長期的には世界的にも開発してくことは避けられず、主流になるのは時間の問題だと指摘。一方Ellery氏はコストについて、大型化すれば下がるという見通しを述べた。課題としては、Ellery氏は海底の地質や津波のリスクがあり、リスク評価やプロセス管理を事業にかかわるすべての事業者で合意をとっていく必要があるとした。

Pittam氏は建設段階をモデル化して視覚化し、天候などのリスクを設計段階で織り込むことだとした。また、Milne氏も日本の地形が一番のリスクだと指摘。対応としてはデータが重要となってくるという。

着床式に不利な海だからこそ、浮体式をいち早く商用化に

3番目のパネルディスカッションのテーマは、浮体式風力のエンジニアリングだ。パネラーは、エンジニアリング・コンサルティング会社ArupのPeter Thompson氏、洋上設備機器の設計・製造をしているOsbitのBen Webster氏、浮体式洋上風力に特化した開発企業Flotation EnergyのTim Sawyer氏、エネルギー事業のプロジェクトマネジメントやテクニカルサービスを提供しているODEのPhil Smyth-Tywell氏。

浮体式の特異な点として、Thompson氏は、浮いていて固定されていない構造物ゆえのタービンなどへの影響をはじめとするサバイバビリティが課題だとした。Webster氏は建設コスト削減よりもメンテなどに効率的なアクセスが可能なレイアウトにしていくことが重要だとした。

Sawyer氏は大規模化したときのソリューションを検討しており、たとえば港湾でモジュラー化して持ち込むことも検討しているという。Smyth-Tywell氏は送電ケーブルやアンカーが大きな問題で、設置地域で漁業ができなくなるため、地域の人々に伝えていく必要があるとした。

課題が多い浮体式洋上風力だが、Thompson氏は日本に対し、新しい技術に長けていると評価、最初に商用化できる国だと述べた。またSawyer氏は着床式とは関係なく浮体式に取り組む可能性を示唆。

遠浅な海が少ない日本ゆえに、着床式以上にポテンシャルが高い浮体式をいち早く商用化し、世界市場に出ていくという将来像が、英国から示されたセミナーとなった。

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