太陽光発電のFIT認定、運開期限から最大3年で失効へ:未稼働FIT認定失効制度の全貌を追う | EnergyShift

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太陽光発電のFIT認定、運開期限から最大3年で失効へ:未稼働FIT認定失効制度の全貌を追う

太陽光発電のFIT認定、運開期限から最大3年で失効へ:未稼働FIT認定失効制度の全貌を追う

2020年09月15日

FIT認定の失効リスクを懸念した一部金融機関が、プロジェクト・ファイナンスの組成を中断・停止するなど、太陽光発電事業者に大きな波紋を呼んだ「FIT認定失効制度」の詳細設計が経産省の審議会で了承された。発電事業者の融資リスクを回避するため、認定失効までの猶予期間を運転開始期限の2倍にするという。
ファイナンスの停止という事態まで生んだFIT認定失効制度の経緯とこれからを解説する。

2016年から始まった未稼働対策

8月31日に開催された再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会(第19回)および再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第7回)の合同会議。ある委員は「今回の未稼働案件に対する対応によって、過去との戦いに一定の終止符が打たれようとしている」と語った。まずは「過去との戦い」を振り返ってみる。

経産省では2016年から、太陽光発電のFIT制度認定を受けながらいつまでも運転開始しない、いわゆる未稼働案件に対して追加的ルールを設け、制度の健全性を保持しようとしてきた。背景には調達価格の下落がある。

2012年7月のFIT制度開始以降、10kW以上の事業用太陽光発電は急速に認定量・導入量ともに拡大していった。普及にともない発電コストも低下し、2012年度40円/kWhだった調達価格は半額以下の水準にまで下落していった。一方で、FIT認定を受けながらも、運転開始しない大量の未稼働案件によるゆがみも指摘され始めてきた。

経産省では、高い調達価格の権利を保持したまま、運転を開始しない案件の大量滞留を放置すれば、次の3つの弊害をもたらすと指摘する。

  1. 国民負担の増大:高額案件が稼働することで、国民負担が増大。一方、その国民負担が事業者の過剰な利益となる。
  2. コストダウンに歯止め:事業者は入札による新規案件の価格競争より、未稼働高額案件の発掘・開発を優先する。
  3. 系統容量の圧迫:未稼働案件に系統が空押さえされることにより、新規案件の開発が停滞してしまう。

再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立を図る措置が必要だとして、経産省では、2017年4月施行の改正FIT法において、無理筋な未稼働案件の排除に動き出す。

具体的には、次の3つの対策を講じた。

  1. 2016年7月末までに一般送配電事業者と系統接続契約締結 →運転開始期限なし
  2. 2016年8月1日以降に接続契約締結 →認定から3年の運転開始期限を設定し、運開まで3年を超過した場合は、その超過分だけ調達期間(20年間)を短縮
  3. 2017年3月末までに接続契約締結できず →失効

この改正FIT法の施行によって、2012〜2016年度までの総認定量10,161万kWのうち、2,049万kWが失効し、一定程度の効果が現れている(2020年3月時点)。

ところが、接続契約を結んだ案件の中にも、大量の未稼働案件が存在することが明るみとなり、2018年には新たなルールが追加された。

2018年時点で1,000万kW以上が未稼働のまま

2018年10月に公表された資料によれば、2012年度のFIT認定案件(40円/kWh)のうち、335万kW(23%)が未稼働だ。2013年度FIT認定案件(36円/kWh)では、そのうち1,284万kW(49%)が未稼働、2014年度FIT認定案件(32円/kWh)のうち733万kW(59%)が未稼働であった。

当時の経産省は「2016年7月末までに系統接続契約を締結したものは、早期の運転開始が見込まれるため、その当時、運転開始期限を設定しなかった。しかし、設定しなかったことが逆に規律が働かないままになり、未稼働になっている」と指摘。とりわけ2012年度〜2014年度にFIT認定を受けた案件は、すでに4〜6年(2018年当時)が経過し、運転開始までの目安とした3年を大きく超過していると問題視した。

そこで2018年12月、新たな追加措置をとることになる。2012年度〜2014年度にFIT認定を受けた事業用太陽光発電のうち、運転開始期限が設定されていない1,000万kW以上を対象にしたもので、次のようになる。

  1. 過去(認定時点)の高いコストではなく、運転開始時点でのコストを反映した適正な調達価格を適用させる。ただし、一定期限までに運転開始準備段階に入ったものは、従来の調達価格を維持するが、間に合わなかったものは、運転開始準備段階に入った時点の2年前の調達価格を適用する(例:2019年度受領→2017年度21円/kWhに引き下げ)。
  2. 「運転開始に向けた工事への着工申し込み完了から1年」の運転開始期限を設定し、超過した場合は、その超過分だけ調達期間(20年間)を短縮する。

一般送配電事業者によって系統連系工事着工申し込みが不備なく受領されたもの。

参照:経済産業省「FIT 制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応を決定しました」2018年12月5日

さらに認定から4年以上運転開始していないものに対し、早期の運開を促すべく、1年ごとに対象年度を拡大していくことが決まる。

参照:経済産業省「既認定案件による国民負担の抑制に向けた対応」2018年10月15日

この追加的措置によって、1,000万kW以上あった未稼働案件のうち、208万kWが調達価格の引き下げが確定する。また431万kWは運開期限が設定され、超過分の調達期間が短縮され(2020年3月時点)、一定の成果をあげている。

一部金融機関が、プロファイ組成を中断・停止する事態に

そして迎えた2020年。経産省は未稼働案件という過去の遺産との戦いに終止符を打つべく、6月に成立した「再エネ特措法改正法」に認定失効制度を盛り込む。

その内容が、

  • 認定日から起算して、一定期間を経過しても運転を開始しない場合は、認定が失効する
  • 失効期間は、省令において再エネ発電設備の区分等ごとに定める

というもので、2022年4月の法施行に向け、今夏より具体的な詳細設計を行うというものだった。

ところが失効制度の対象や期間など、詳細なルールが何ら決定していないにも関わらず、認定失効リスクや調達価格の引き下げを懸念した一部金融機関が、2MW以上の大規模太陽光発電所に対するプロジェクト・ファイナンスの中断・停止に動き出してしまう。

金融機関からの資金調達が滞った発電事業者は工事に着手することができない。
この失効制度は、太陽光発電業界に大きな波紋を呼んだ。

事態を重く見た経産省は、再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会(第18回)および再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第6回)の合同会議(7月22日開催)において、次の具体策を諮る。

事務局は「プロジェクト・ファイナンスの対象となる、2MW以上の太陽光発電に対し、金融機関からの融資が行われず、工事に着手できないという意見が複数寄せられている。早期に制度設計の見通しを示すことで、資金調達を含めた事業準備進捗を妨げることを排除していく」と述べ、次の具体策を挙げた。

  • 2022年4月の改正法施行日までに、開発工事に着手済みであることが公的手続きによって確認できた2MW以上の太陽光については、失効期間を20年間とし、運転開始までの失効リスクをゼロとする。
  • 改正法施行日までに開発工事への着手が確認できない場合、運転開始期限から1年後に認定を失効し、系統容量が適切に開放される仕組みとする。

参照:資源エネルギー庁「「再エネ型経済社会」の創造に向けて 〜再エネ主力電源化の早期実現〜」2020年7月22日

一部委員から「失効期間20年は長い」との意見が出るも、この具体策は決定された。

失効制度に危機感募らす事業者は、エネ庁に事態の深刻さを訴える

しかし、この7月22日の詳細設計では完全に融資リスクを排除することはできなかった。

発電事業者からは、「金融機関は、工事着手済み案件であっても、工事期間中にFIT認定の有効性やFIT単価に影響するような法令改正や運用改訂が実施される可能性があると見ている。そのため、ノンリコース(非遡及型融資)が原則であるべきプロジェクト・ファイナンスの組成に際し、長期間にわたるスポンサーサポートなどを要求されている」。「こうした事態が恒常化すれば、日本国内の再エネ案件について、ノンリコースでのプロジェクト・ファイナンスの組成が不可能になる」という危機感が募っていった。

事態を打開しようと、一般社団法人 日本再生可能エネルギー事業者協議会(Japan Sustainable Energy Counsil:JSEC)は、7月30日、経産省資源エネルギー庁新エネルギー課の清水淳太郎課長らと意見交換会を開催。失効制度がもたらす深刻な実態や要望などを訴えた。

意見交換会での焦点発議は3点に集約される。

失効期間の起算日となる認定日とはいつ時点を指すのか?」
「太陽光以外の風力、地熱、バイオマス、中小水力など他のFIT電源の失効制度はどうなるのか?」
「発電事業者の責に依らない開発・工事工程における遅延に対し、救済措置を講じるのか?」

失効期間の起算日となる認定日とはいつ時点を指すのか?

まず、失効期間の起算日となる認定日だが、過去の案件は旧FIT制度の下での旧認定(事業者認定)のほか、改正FIT法施行(2017年4月)に伴う、新認定(設備認定)の2つを持つ。

たとえば、2015年度に認定を取得した日が起算点となれば、失効期間は2035年となる。ところが、2018年12月の追加的措置において、2MW以上の太陽光に対し、2020年9月末を発電開始日(運開期限)とみなしたことで、最長2040年までの買取期間が制度上、保証されている。一口で認定日といっても案件ごとにそのステータスはさまざまだ。

そのため、「2035年以降、FIT単価が減額されるような事態は起こってしまうのでは」という疑問が事業者、金融機関それぞれから噴出した。

この疑問に対し、エネ庁清水課長は「運転開始した案件に関しては、失効制度から適用除外となるため、FIT単価が変わることはない」と明言した。

太陽光以外の失効制度はどうなるのか? 発電事業者の責に依らない遅延に対する救済措置は?

次に「太陽光以外の他の電源の失効制度はどうなるのか」。この質問に対し、エネ庁清水課長は、「次回以降の審議会で早期に検討する」と述べた。

最後の救済措置だが、今年は新型コロナウイルスの影響により、住民説明会が実施できない事態が発生している。相次ぐ激甚災害による工事遅延や、送配電事業者における系統連系工事の遅れなども今後、起こりうるだろう。複数の事業者が、「災害や不可抗力など、発電事業者の責に依らない工事遅延事由を鑑み、一律に認定を失効するのではなく、個別事情に応じた救済措置を設定してほしい」との要望を伝えた。

この要望に対し、清水課長は、「コロナ禍の中でも、住民説明会を実施している事業者もいますし、コロナ禍など関係なく、そもそも住民説明会を実施できない事業者もいます。一部事業者の方へ配慮することは、全体の公平性を損なう。あるいは、国民負担を増大させるという問題を抱えているため、救済措置を設定することは、現時点では難しい」と回答した。

失効期限を運開期限の2倍にする事務局案を承認

そして迎えたのが、冒頭の8月31日の合同会議である。今夏2回目となる審議会で、太陽光以外のFIT電源を含む、失効制度の詳細設計が議論された。
適切な調達価格の適用、系統利用のため、新陳代謝を促す仕組みをどう設計すべきか。

この問題に対し、「まずは発電事業の実現可能性が高い案件と、無理筋な案件を明確化する。そのうえで、それぞれの電源に設定されている運開期限の1年後の時点の進捗を見る。その進捗いかんで失効の判断をする」という事務局案が提案される。

具体的には次のようになる(図も参照)。

  • 原則:あるタイミングでFIT認定を受けた各電源には、それぞれ運開期限が設定されている。その運開期限を過ぎて1年経った時点でも、系統連系着工申し込みが提出されていない場合は、失効させる。
  • 原則:系統連系着工申し込みが提出された場合は、運開期限の2倍の猶予期間を設け、それまでに運転開始に至らなければ失効させる。
  • 例外措置:大規模案件にかかるファイナンスの特性を踏まえ、運転開始期限+1年後までに、電事法に基づく工事計画届出など、開発工事が公的手続きによって、確認された一定規模以上(太陽光なら2MW以上)の案件については、失効期間は調達期間の終期までとし、実質的に失効リスクを取り除く。

経産省では、認定取得から運開までの所要年数を調査し、運開期限の2倍の期間内にほぼすべての案件が運開した実態を踏まえ、認定から運開期間の2倍の期間があれば、十分に運開に至ると判断した。つまり、太陽光であれば6年、風力、地熱、バイオマスなら8年あれば必ず運開するだろう、というわけだ。

再エネを最大限導入するという、FIT制度の基本理念に基づき、運転に向けて努力する事業者は、失効リスクから実質的に排除する(リスクをなくす)。一方、運開に取り組まない事業者に対しては、速やかにFIT認定を失効し、系統を解放するという制度思想である。

以上が新たな失効制度の全体骨格だ。審議会では、この失効期限を運開期限の2倍とする事務局案を了承し、今後、早期にパブリックコメントに付す予定である。

先述のとおり、審議会の席上である委員は、「今回の未稼働案件の対応が、調達価格の適切性および、系統の適切利用、そして事業者の予測可能性に配慮してバランス良く、統一的に定められる。過去との戦いに一定の終止符が打たれようとしている」と語った。

2016年から始まった未稼働案件対策は、新たな失効制度のもとで、適切に処理されていくのだろうか。あるいは、追加的措置の必要性が出てくるのか。まずはパブリックコメントの推移を見守りたい。

(Text:藤村朋弘)

参照
経済産業省「総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会(第19回) 基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第7回)合同会議」2020年8月31日
資源エネルギー庁「既認定案件による国民負担の抑制に向けた対応」2018年10月15日
経済産業省「FIT 制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応を決定しました」2018年12月5日
経済産業省「既認定案件による国民負担の抑制に向けた対応」2018年10月5日
資源エネルギー庁「「再エネ型経済社会」の創造に向けて 〜再エネ主力電源化の早期実現〜」2020年7月22日
資源エネルギー庁「長期未稼働案件に係る対応について」2020年8月31日

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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