トヨタ自動車、豊田章男氏の発言と、モータージャーナリストのEV推しに対する懸念  | EnergyShift編集部

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トヨタ自動車、豊田章男氏の発言と、モータージャーナリストのEV推しに対する懸念 

トヨタ自動車、豊田章男氏の発言と、モータージャーナリストのEV推しに対する懸念 

エナシフTVスタジオから(1)

YouTube番組「エナシフTV」のコメンテーターをつとめるもとさんが、番組では伝えられなかったことをお話しします。今回は、トヨタ自動車と日本のEV導入についてです。

日本のEV導入目標とトヨタ自動車に対する違和感

エナシフTVでは、しばしばTeslaをはじめとするEV関連ニュースをとりあげています。比較的、関心が多いようですが、そのせいか、エナシフTVでのコメントに対して否定的な意見もあります。

昨年末は、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)の記者会見に対し、批判的なコメントをさせていただきました。

豊田氏がどのような話をしたのかは、該当するニュース記事などを読んでいただければいいのですが、問題としたのは、豊田氏がガソリン車やハイブリッド自動車(HV)を擁護しすぎたことです。

豊田氏によると、現在、日本の電源の中心は火力発電なので、電気自動車(EV)を導入しても、CO2削減にはならないし、EVの出荷時には、一般家庭1週間分の充電をしなくてはいけない、など、EVだけではCO2削減にならないといいます。一方、HVの技術は極めて高く、十分にCO2排出削減になっているということです。

また、EVによる充電が増えれば、電力消費のピークが上昇し、発電所がもっと必要になるということです。

背景としては、日本政府は目標として、2030年代中に、販売する自動車を、すべて電動車にするとしていますが(2021年1月18日の所信表明演説では2035年)、この中にはHVも含まれています。欧米ではEVとプラグインハイブリッド自動車(PHV)、そして燃料電池自動車(FCV)に限っており、すでにクリーン自動車から除外されているHVは含まれていません。

豊田会長「EVはCO2削減にならない」は本質ではない

豊田会長に対して、それは違うと思うのは、まず、「EVではCO2削減にならない」、と言っている点です。もちろん、火力発電の電気を使ってEVに充電しても、CO2排出にはなりますし、実際にはそれでも排出削減になるという計算もあるのですが、本質的なことではありません。

本質的な問題は2つあります。第一に、いつまで火力発電、とりわけ石炭火力発電を運用していくのか、そこの認識の問題です。第二に、太陽光発電など変動する再生可能エネルギーの電気だからこそ、充電する機器がこれに対応し、余った電気を吸収してくれるということです。

EVが増加すれば、電力消費は増えます。しかし、EVのための電力は再エネとの親和性は高いし、もっと言えば、EVが増加することで、再エネを増やすことができるということです。

自工会会長としてのメッセージ

しかし、HVに対しては充電することができません。したがって、仮に火力発電所が多い状況で、EVとHVのCO2排出量が同じだったと仮定しても、CO2排出削減を進める力は、EVとHVでは圧倒的に異なるのです。

問題は、トヨタ自動車の社長が、日本自動車工業会の会長として、こうしたメッセージを発してしまったことです。

日本ではHVが許容される、そういった環境をつくりだすことによって、日本の自動車業界が世界の潮流に遅れかねません。2030年代にHVをつくっても、日本と中国でしか売れない、ひょっとしたら中国ですら売れない、ということにもなるでしょう。そうしたときに、日本の自動車メーカーは生き残れるのでしょうか。

その意味で、豊田会長の発言は、罪深いものだと思います。トヨタ自動車自身は、多少なりともEVにも取り組んでいるだけに、なおさらです。

豊田章男氏の自工会2021年年頭挨拶 カーボンニュートラルに関しても触れられている(9:40ごろから)

視野の狭い、日本のモータージャーナリスト

ところが、日本のモータージャーナリズムでは、「豊田会長はよく言った」という論調が多かったと思います。

でも、その気持ちもわかります。エネルギー業界においても、業界ジャーナリストは、どうしても業界からの視点でものを見てしまいます。

したがって、モータージャーナリストも、自動車としてどうなのか、という視点で、EVとHVを比較しているのだと思います。

ですから、EVの航続距離や充電性能といった点にどうしても目がいってしまうこともわかりますし、何より自動車としての快適性、使いやすさなどを重視することでしょう。

しかし、EVは単なる自動車ではなく、エネルギーシステムの一部でもあるのです。つまり、EVについて語るということは、社会が、インフラがどのように変わるのか、ということを語ることにもなるのです。

そうした視点を持たないモータージャーナリストもまた、社会から取り残されかねないということを指摘したいと思います。

アップルのEV参入をどう捉えるか

最近では、アップルがEV事業に参入するというニュースに対し、日本のジャーナリズムはどのような「自動車」になるのか、というコメントをしていました。

しかしアップルという会社は、iPhoneに代表されるように、人に「新しい体験」を与えてくれました。ですから、アップルがつくるEVについても、単なる自動車ではなく、新しい体験を提供してくれることを期待してもいいと思います。

逆にTeslaがエアコンに参入するかもしれない、という記事では、日本の空調メーカーのダイキン工業を心配するコメントがなされていました。しかし、エアコンは再エネの変動を多少とも吸収できる「分散型エネルギー資源」でもあるのです。

Teslaは自らをEVメーカーではなくエネルギー会社だと定義しています。そうだとしたら、Teslaのエアコンは単なる空調機器なのではなく、エネルギー機器である可能性は高いといえるでしょう。

世界は急速に変化している

2020年は世界が2050年カーボンニュートラルに向けて大きく舵を切った年でした。そうした中、とりわけEVの拡大は、急速に進んでいます。

携帯電話が急速にスマートフォンにとってかわったように、自動車がEVにとってかわるのも、急速かもしれません。少なくとも、そういったシナリオを織り込んでおくことは必要です。

欧米や中国では毎月のようにEVのシェアが拡大しています。GMですらEVを中心とし、エンジンはホンダにまかせる、という決断をしました。エンジンをまかされたホンダを含め、日本の自動車メーカーは生き残れるのでしょうか。

豊田会長や日本政府の誤ったメッセージに引きずられていったら、未来はないかもしれません。

(Text:本橋恵一/もとさん)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など

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