電力取引の「守護者」・取引監視等委員会 第1回「電力・ガス取引監視等委員会の検証に関する専門会合」 | EnergyShift

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電力取引の「守護者」・取引監視等委員会 第1回「電力・ガス取引監視等委員会の検証に関する専門会合」

電力取引の「守護者」・取引監視等委員会 第1回「電力・ガス取引監視等委員会の検証に関する専門会合」

2020年12月04日

審議会ウィークリートピック

2020年8月4日、「第1回電力・ガス取引監視等委員会の検証に関する専門会合」が開催された。その名の通り、電力・ガスの取引が適切に、中立性や公平性が守られる形で行われているのかどうか、その監視等委員会はどう活動していたのか、検証が行われた。今回は、電力に絞って、どのような検証が行われたのか、紹介する。

電力・ガス取引監視等委員会のミッション

すべての需要家に、低廉・安定・多様なエネルギーを
そのため、すべての事業者に、公平・多様な事業機会を

これが「電力・ガス取引監視等委員会」が目指すエネルギーシステムであり、そのミッションでもある。

電力小売市場や卸市場の公正性の確保や取引の活性化、送配電部門の中立性確保等、電力システム改革の根幹を担う専門的組織が今回の主役「電力・ガス取引監視等委員会」(以下、監視等委員会と呼ぶ)である。その名称のとおり、監視等委員会ではガスもその監視対象としているが、本稿では電力に絞った報告を行う。

通常、電力市場等を監視する側に立つ監視等委員会であるが、今回の専門会合では「検証される側」に立っている。

発足から約5年が経過した監視等委員会の活動について、中立性や公平性の観点を含め、第三者により検証する場がこの「電力・ガス取引監視等委員会の検証に関する専門会合」(以下、専門会合と呼ぶ)である。

監視等委員会は、当初期待されていた役割を十分に果たしているのか。また、さらなる市場活性化等に向けて、同委員会が果たすべき役割はどのようなものか。今回の「審議会ウィークリートピック」では、専門会合での議論の一部をご紹介したい。

監視等委員会の概要・歴史

電力システム改革の大きなマイルストーンとして、2015年4月に電力広域的運営推進機関が設立され、同年9月には監視等委員会が設立された。

監視等委員会の役割は、監視や指導を通じた適正な取引の確保のほか、ガイドライン等のルール整備もその重要な役割となっている。

適正な取引の価格
① 取引等を監視し(報告徴収、立入検査等)、必要に応じて事業者への勧告等を行う
  • 消費者被害、新規参入者の阻害、取引所におけるインサイダー取引や相場操縦の監視
  • 送配電部門による中立性を欠く行為の監視
② 料金等の審査
  • 託送料金や経過措置小売料金の審査及び事後評価
  • 小売事業者の登録の審査
ルール整備等
③ 競争促進や消費者保護のルールづくり(経済産業大臣への建議等)
  • 各種ガイドラインの作成
  • 電力・ガス改革の詳細制度設計
  • 競争状況の評価や市場活性化策の検討
④ 広報・消費者保護の取組
  • 消費者や事業者向けの周知、相談の受付
  • 国民生活センター等との連携
  • 世界のエネルギー規制機関との連携

規制機関としての中立性・公平性と並び重要な論点が、「独立性」の観点である。
監視等委員会は、国家行政組織法第8条に基づくいわゆる「八条委員会」である。監視等委員会の設立前の議論では、これを三条委員会とすべきという意見もあった。

※三条委員会とは:庁と同格の行政機関であり、高い独立性を保つために予算や人事を自ら決定し、独自に規則や告示を制定することができ、それを命令、公表する権限が与えられている。三条委員会には、公正取引委員会、公害等調整委員会、原子力規制委員会などがある。

八条委員会は、所管省庁の配下に置かれている組織のため、予算や人事のうえで組織自体の独立性は三条委員会ほど高くはない。また、問題のある事業者などへ直接命令や勧告を下すことはできず、第三者的機能を有する組織の権限として、強制力をもたない範囲で行政機関・大臣に対する勧告や意見、建議などを行うにとどまる。この、直接的な強制力を持たないということが、後述する多数の様々な「要請」というかたちで表れている。

今回の第1回専門会合事務局資料においては、監視等委員会が「八条委員会」であることに関する記述は見当たらないが、事務局からの口頭説明の中では、(「八条委員会」という言葉は用いていないが)、「八条委員会」であることによる制約は生じておらず、現実に上手く機能している趣旨の説明があった。

このように高度に専門的な業務を担う規制機関でありながら、その実務を担う事務局は本省約60名、地方局約50名と少人数の組織である。筆者個人としては、「八条/三条」の議論の前に、事務局職員数の拡充を願っている。

なお、監視等委員会の下には、これまでも「審議会ウィークリートピック」で取り上げてきた「制度設計専門会合」や「送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ」、「料金制度専門会合」などの委員会や、「競争的な電力・ガス市場研究会」などの研究会が設置され、専門的視点から詳細な議論・検討がなされており、これも監視等委員会の重要な業務の一つとなっている。

監視等委員会の主な取り組み

今回の専門会合では、電力システム改革の当初の狙いに立ち返り、小売市場、卸市場、送配電、それぞれの分野ごとにその進展状況を評価するとともに、監視等委員会が果たしてきた役割を評価することとしている。第1回専門会合では、電力システム改革の進捗についても幅広く報告されたが本稿ではこれは割愛し、監視等委員会の主な取り組みについて取り上げたい。

小売市場での取り組み

監視等委員会と一般消費者・需要家との接点としては、相談窓口の設置、相談対応がある。国民生活センターや消費庁と共同で、消費者から寄せられている相談事例と消費者へのアドバイスを公表している。なお、通信(携帯電話やインターネット回線)事業などの他の分野と比べ、相談件数は相対的に少ないものとなっている。

図1.電力自由化に関する相談窓口への相談件数

電力・ガス取引監視等委員会「電力システム改革の進捗と委員会の取組について」2020年8月4日

小売電気事業者に対しては、何と言っても「電力の小売営業に関する指針」の制定・改定と、これに基づく指導である。事業者の不適正な行為に対して、監視等委員会からは業務改善勧告を6件、これ以外にも多数の文書指導・口頭指導を実施している、とのことである。

また監視等委員会では2019年9月から、小売市場の競争状況を重点的に監視する「小売市場重点モニタリング」を開始している。

公共入札情報や競争者からの申告に基づき、3,000件以上の小売契約を精査し、小売価格が市場価格を下回る237件につき事業者へのヒアリング等を実施したとのことである。ただし、マスコミ報道や筆者が個人的に耳にする範囲では、競争者からの申告をなかなかタイムリーに取り上げてもらえないなどの滞留が生じているようである。

今回の第1回専門会合ではこの課題への「評価」が全くおこなわれていないが、筆者としては大いに改善すべき課題として正面から取り上げるべきであると感じている。

卸市場での取り組み

参入障壁の低い小売市場と比較して相対的に参入が難しく、市場支配力の行使がおこなわれやすいのが卸市場である(ここでは、取引所・相対取引の両方を含めて市場と呼んでいる)。監視等委員会に対して一層大きな役割が期待される分野がこの卸市場であることが、専門会合でも指摘されている。日本では、電源の大半を旧一般電気事業者(以後、旧一電)が保有していることのほか、地域間連系線の容量が小さいことにより、エリア内での競争が制限されやすいという構造的な問題が存在するためである。

まずは、取引所スポット取引における公正性の確保と取引量拡大である。

監視等委員会は旧一電に対して、余剰電力の全量を限界費用ベースでスポット市場に供出することや、グロスビディング(発電-小売間の社内取引を、取引所を経由して売買する行為)の実施を要請してきた。

この施策だけが理由ではないが、以前と比べスポット取引量は著しく増大し、市場の流動性が向上したという成果は明らかであろう(電力需要に占めるJEPX取引量の割合:2016年4月時点2% → 2020年3月時点36%)。

また「適正な電力取引についての指針」の改定により、相場操縦やインサイダー取引に対する規制を追加したことも重要な成果と言えるだろう。

他方、卸市場分野で活性化があまり進展していない課題としては、時間前市場や先渡市場、電源開発株式会社(J-POWER)の電源の切り出し、自社エリア内でのグループ外他社への相対取引卸売、などが上げられる。卸電力市場の活性化としては、まだ道半ばであるものが多いと言えるだろう。

事務局資料では、監視等委員会から旧一電に対して「自主的取り組み」を「要請」した、という表現や「考え方を整理した」、「明確化した」などの表現が多く見られる。現実にそのとおりであり、やや間接的なアプローチを取らざるを得ない制約が存在することが伺われる。
現時点では、「要請」に従わないことによる問題等は生じていないようであるため、現実に「上手くいっている」と判断・評価可能であるかもしれないが、評者によっては判断が分かれる部分であろう。

朗報:不当な内部補助の防止に関する大きな進展

別稿【発電・小売間の不当な内部補助を防止する為に 第48回制度設計専門会合】でご報告したとおり、旧一電の発電・小売間の不当な内部補助の防止は、非常に重要な課題であった。

監視等委員会から旧一電各社に対し、「中長期的観点を含む発電利潤最大化の考え方に基づき、社内外・グループ内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に電力卸売を行うこと」へのコミットメント等の要請をおこなったところ、全社からコミットするとの表明があったことが第1回専門会合で報告された。

このコミットメントどおり、常に内外無差別に卸売をおこなうならば、上述した「自社エリア内でのグループ外他社への相対取引卸売が少ない」といった問題は自ずと解消されることだろう。

今後、監視等委員会は上記コミットメントの実施状況を定期的に確認する予定である。
本稿タイトルの「守護者:ガーディアン」は、やや監視等委員会を贔屓した表現かもしれないが、その高度な専門性を発揮し、電力市場の一層の公正性の確保、活性化の実現を期待したい。

参照

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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