2050年カーボンニュートラルを宣言した菅政権。これまでの動きと実現のヒント ーアマゾンと英石油大手BPの事例 | EnergyShift

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2050年カーボンニュートラルを宣言した菅政権。これまでの動きと実現のヒント ーアマゾンと英石油大手BPの事例

2050年カーボンニュートラルを宣言した菅政権。これまでの動きと実現のヒント ーアマゾンと英石油大手BPの事例

2021年01月18日

本日(2021年1月18日)、通常国会がはじまる。2020年10月での所信表明演説では、カーボンニュートラル宣言が日本のエネルギー業界に刺激を与えた。それ以後の動きを改めて追うことで、日本のカーボンニュートラルに必要な問題点を整理する。鍵となるカーボンニュートラルが企業競争力となりえるかという問いに、大野嘉久氏は、BPとアマゾンの協業をあげ、日本企業の戦略モデルになると提案する。

急旋回する菅内閣の環境政策を改めて追う

菅首相は自民党の総裁選で「安倍政権の継承」を掲げ、自民党総裁選に代わる両院議員総会で新総裁に選ばれた際の挨拶でも「安倍路線の継承が自分の使命」だと述べていたが、地球温暖化政策では早々に自らの使命を変更した模様である。

菅首相の温暖化政策を追ってみると、2020年9月16日の就任挨拶ではおよそ半分を新型コロナウイルスやそれにまつわる経済対策に費やしたほか、待機児童や不妊治療への保険適用、あるいは外交・安全保障そして規制改革など幅広い政策に触れたものの、環境の分野には一言も触れていなかった。

そもそも、“お手本”となるはずであった安倍政権では、パリ協定を離脱した米国トランプ政権を意識していたのか、2016年に策定した地球温暖化対策計画において「2050年までに80%削減する事を目指す」という長期目標を掲げたほか、2019年にも「今世紀後半のできるだけ早い時期に“脱炭素社会”を実現する事を目指す」としていた。

つまり自らの在任中における行動については何も挙げないという誠に緩い姿勢であったが、米国の政権交代が濃厚となったせいか、菅首相は就任の翌月から環境やエネルギーそして産業の分野において強い政策を打ち出している。

まず10月26日の所信表明演説では、「脱炭素社会の実現」に向けて「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明した。この目標そのものは菅首相のオリジナルというものではなく、既に2019年9月の時点で世界の73ヶ国が目標にしているターゲットであるため、日本が世界の潮流に合わせたということになる。

一方で安倍政権がタイムリミットとしていた“今世紀後半”からは大きく踏み込んだ形となっているが、12月17日に首相官邸で開かれた若者らと意見交換の場において菅首相は(2050年温室効果ガス排出実質ゼロの表明について)「反対されるから誰とも相談しなかった」ことを明らかにしており、このことから実現に向けた強い意思が感じられると言えよう。

菅首相は続いて10月30日に開催された第42回地球温暖化対策推進本部で「2050年カーボンニュートラルへの挑戦は、日本の新たな成長戦略です。この挑戦を産業構造や経済社会の発展につなげ、経済と環境の好循環を生み出していきたいと思います」と述べ、梶山経済産業大臣にはエネルギー・産業分野の変革を、そして小泉環境大臣には国民のライフスタイルの転換などを通じて2050年カーボンニュートラルの実現に向けて取り組むよう指示した、と明かした。

さらにこのあと、菅首相は世界に向けて2050年カーボンニュートラルの姿勢をアピールしている。例えば日本時間の11月22日にオンライン開催された主要20ヶ国・地域首脳会議(G20サミット)において「2050年カーボンニュートラル」を示し、実現に向けた決意を表明。このほか、日本時間の12月12日にオンライン開催された「気候野心サミット(Climate Ambition Summit)」でも「2050年カーボンニュートラル」政策を改めて紹介したうえで「気候野心同盟(Climate Ambition Alliance)」に参加することと、官民あわせて約1.3兆円(約118億ドル)の支援を行う事を表明した。

カーボンニュートラル、通常国会での行方は

企業もこの動きに反応しており、経団連は菅首相の所信表明演説を受けて12月7日に「2050年カーボンニュートラル実現に向けて」という提言を公表した。ここでは菅首相の宣言を“英断”として称賛し、「主要産業の生産プロセスの革新、運輸・民生部門の革新的製品の大規模な普及など、経済社会全体を根底から変革し、新しい経済社会を実現することが不可欠である」「経済界としては、政府と共に、不退転の決意で取り組む」と、カーボンニュートラル達成で経済成長を実現させることを公言している。

とはいえ、「脱炭素を成長に結びつける」なんて言うのは簡単かもしれないが、実際には可能なのだろうか?

海外ではまさしくカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みが企業競争力の強化に直結した事例が発表されており、日本企業の参考になるかもしれない。一例として米アマゾンと英石油大手BPの事例を紹介する。

アマゾンとBPがカーボンニュートラル達成に向けて協業

2020年12月10日、英石油大手BPは米ネット通販大手アマゾン・ドットコムとの低炭素化に向けたパートナーシップの延長を発表した。

まずBPは、アマゾンが提供しているクラウドサービスプラットフォーム「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」のデータセンターで使うための再生可能エネルギー(風力発電)を2019年から170MW分を供給しているが、今回の協業拡大を受けて2022年から追加で404MW分を増加させることになった。うち275MWはスウェーデンに新規建設する風力発電設備から、そして129MW分は英国スコットランドで新設される2件の風力発電設備から送電する。

一方、アマゾンはクラウドベースの音声サービス「アレクサ」の自動AI(人工知能)補助システム「Talk2Me」を導入することでBPがヘルプセンターにかかってくる電話の件数を40%も削減させた。さらに単位時間あたりの処理量を3倍~5倍にまで増加させることができるアマゾンのクラウド・データベース「オーロラ」をBPの取引に用いることでパフォーマンスを飛躍的に向上させた。

このほか、アマゾンのマシン・ラーニング(機械学習)を応用したビジネス・インテリジェンス・ツール「クイックサイト」を使うことでBPの購買とサプライ・チェーンの記録を自動的に追跡させ、支出傾向の分析を可能にもした。

このようにBPとアマゾンは両者の技術を利用することでBPは「2050年カーボンネットゼロ達成」の、そしてアマゾンは「2040年カーボンネットゼロ達成」にそれぞれ(自社目標に)大きく貢献している。もちろん日本国内の企業同士でも、あるいは海外の企業ともこうしたパートナーシップを組むことで、菅政権や経団連が掲げている「低炭素化と経済成長の両立」を目指せるのではなかろうか。

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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