洋上風力発電の「国産化」:期待と挑戦(二) | EnergyShift

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洋上風力発電の「国産化」:期待と挑戦(二)

洋上風力発電の「国産化」:期待と挑戦(二)

2020年04月02日

2020年1月、2025年までに完成・稼働予定の発電所における「国産化(産業関連効果)」の審査結果が台湾で発表された。連載第六回となる今回は、審査に合格した例だけでなく、厳しい状況に直面しているケースなどについて、JETRO・アジア経済研究所研究員で東アジアのエネルギー問題の専門家、台湾在住の鄭 方婷(チェン・ファンティン)氏が具体的な事例をもとに紹介する。

平坦ではない国産化審査合格への道程

2025年までに完成予定となっている台湾の洋上風力発電所は、「西島」、「彰芳」、「中能」、「海龍」、「台電」(第二回を参照)の5ヶ所である。これらのサイトに関する国産化審査は2019年11月に始まり、2020年1月になって結果が発表されている。

「西島」、「彰芳」両発電所を運営するのはデンマークのCopenhagen Infrastructure Partners(CIP)であり、合格はしたものの国産化審査は波乱に満ちた展開となった。
というのもCIPはMHI Vestas*1社の風力タービンを採用しているが、2019年8月に審査資料を提出した後、突然、風力タービン組立工場を台湾からデンマークに戻すと発表したのである。「国内での組立」は国内生産力の向上やサプライチェーンの形成という面で国産化に欠かせない重要なプロセスであり、CIPは国産化要求不履行で経済部から改善命令を受けることとなった。

一方、CIPの突然の決定の背景には、風力タービンの部品それぞれに事情があった。

  • 1:電力変換モジュールは排他的な国際特許で保護されておりデンマーク国外での生産が難しい

  • 2:エンジンルームアセンブリの生産拠点はコスト面で有利なデンマークに置きたい

  • 3:ノーズコーンカバーとエンジンルームカバーは台湾メーカーから購入予定だったが輸送コストが高く断念
  • 4:ギアボックスと発電機に関する一部の部品は台湾製品を購入したいが、国産化に関する契約条件が厳しく引き受けられる国内の工場はないと見込まれる


といった具合である。

事態の打開に向け、2019年末にCIPは「中能」発電所の開発に取り組んできた国営大手の中国鋼鉄公司(中鋼)と組み、オーステッドに続き国内2例目となる風力タービン組立工場の建設を決定した。
その他にも電力変換モジュール(PCM)組立工場とブレード製造工場の建設も約束することで、晴れて審査に合格となったが、前回の連載で触れたように、海底ケーブルについては国内業者が決まらず、輸入品を採用する予定である。
CIPと中鋼との協力には政府の強力な後押しがあるとされ、工場建設に関する手続きも政府の調整が入ると見られている。

そして「中能」発電所はこの流れを受けてCIPと中鋼の共同出資で開発されるようになり、国産化審査に合格している。このように国内外の大手開発業者の間では、部品調達と施設の使用を共同で行い、個別の資金力や技術力などを上回る規模の経済活動を実現しようとする動きが活発化している。
尚、CIP・中鋼連合は2020年3月上旬、主要取引銀行である台湾の中国信託銀行(CTBC)と日本の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)などから、合計900億台湾元(日本円で約3,150億円)に上る巨額の協調融資を受けることに成功している。

* MHI Vestas Offshore Wind A/Sは、三菱重工業とデンマークのヴェスタス社(Vestas Wind Systems A/S)の合弁による洋上風力発電設備専業の新会社であり、本社をデンマークのオーフス市に置く。

国産化審査の高い壁

一方で、(海底ケーブルを除き)全て満たす必要のある国産化要求を一部達成できず、審査に合格しなかった業者もいる。

「海龍」はカナダのNorthland Power Inc.(NPI)とシンガポールの玉山能源社が共同開発する洋上風力発電サイトであり、両社は現在、国産化要求を満たせず3ヶ月から6ヶ月間以内に改善策を提出するよう求められている。
その理由は、風力タービンにスペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(Siemens Gamesa Renewable Energy S.A.)の特殊なスペックが要求されるシステムが採用されており、発電機、変圧器、配電盤、ブレードが国内で製造できない、というものである。

また、国営大手の台湾電力公司(台電)は、入札により発電所建設を国内業者に発注しようとしているが、5回の入札でも落札されず合格していない。
台電は、発注額の増加や入札資格の緩和など国内業者と協議を持ちながら今後の入札を準備している。しかし、最終的に国産化要求を満たすことができなければ、買取価格の取り下げや保証金没収、最悪の場合は開発資格の取消もあり得るなど、予断を許さない状況である。

政府主導で推進される洋上風力開発だが、国産化の目標達成は各業者に委ねられており、開発の進捗も業者によって大きく異なる。国産化要求の達成には、官民一体で知恵を絞っていく必要がある。

「アジアの洋上風力発電集積地」を目指して

2020年3月上旬、二回目となる「Wind Energy Asia 2020」が高雄にて開催された。
この国際展示会は経済部や高雄市政府などのバックアップで開かれたものであり、欧州各国のナショナル・パビリオンも設けられるなど、政府の意気込みが反映されていた。

実際にこの場で台湾政府は自国を「アジアの洋上風力発電技術産業の集積地」にする意欲を表明しており、開催期間中は、台湾の強みである作業船の製造、設計、運用、人材育成などが大きな注目を集めた(写真1)。新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される最中での開催となったため、例年より規模は大幅に縮小されたが、来年も同じ時期、同じ場所にて行う予定という。

洋上風力発電建設事業に携わる作業船「Salvage Worker」。高雄の国際展示場にて展示、2020年3月5日撮影。出所:筆者撮影。

風力発電所国産化の今後の見通し

台湾では、風力タービン組立工場の建設に見られるように部品の国内調達環境は整備が進みつつあるが、川上にある風力発電所の開発・設計業者、すなわち総合建設コンサルタントなど優秀な洋上風力発電デベロッパーの育成については出遅れている。総合デベロッパーを育成し、例えば海上変電所の建設や運営など高い技術力を要する事業で実績を積ませることが、ひいては国産化の目標に大きく近づくことにつながるだろう。

さらに各国の国産化を見据えたサプライチェーン構築の動向も気になる。2020年2月下旬には日本で「日本洋上風力タスクフォース」が立ち上げられるなど、今後東アジア地域において新たな競合関係が生じる可能性は十分にあり、各国政府はこうした新たな課題にも積極的に対応していく必要がある。

今回は国産化の審査結果に焦点を当て、成功例と改善を模索する業者の例双方から、国産化の現状と課題を分析した。次回は国民、または市民社会の視点から、洋上風力発電など再生可能エネルギーに対する「世論」に目を向ける予定である。


屏東燈會(写真:中村加代子)
鄭方婷
鄭方婷

国立台湾大学政治学部卒業。東京大学博士学位取得(法学・学術)。東京大学東洋文化研究所研究補佐を経てJETRO・アジア経済研究所。現在は国立台湾大学にて客員研究員として海外駐在している。主な著書に「重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ」(現代図書)「The Strategic Partnerships on Climate Change in Asia-Pacific Context: Dynamics of Sino-U.S. Cooperation,」(Springer)など。 https://www.ide.go.jp/Japanese/Researchers/cheng_fangting.html

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