市場規模6兆円の都市ガスは脱炭素時代にどう戦うのか | EnergyShift

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市場規模6兆円の都市ガスは脱炭素時代にどう戦うのか

市場規模6兆円の都市ガスは脱炭素時代にどう戦うのか

以前、LPガス会社の脱炭素戦略について紹介しました。これに対し、都市ガス会社の脱炭素戦略はどうなっているのか、という質問をいただきました。同じガス会社のようですが、企業規模も組織形態も異なるため、戦略も大きくちがったものとなります。また、企業規模によっても異なります。今回はそのあたりを紹介していきます。

エナシフTVスタジオから(12)

都市ガスの業界構造

都市ガス会社は全国で約200社あります。ここでは、都市ガスを販売する電力会社など新規参入者や、配管を使ってLPガスを供給する旧簡易ガス会社はのぞくものとします。

最大の都市ガス会社は東京ガスで、需要家数は約1,000万件です。次いで大阪ガスで約700万件です。これに東邦ガス、西部ガス、京葉ガス、北海道ガス、広島ガス、北陸ガス、仙台市ガス局、静岡ガスが続きます。京葉ガス以下は、準大手都市ガスとよばれています。また、顧客の構成は会社によって異なっており、例えば静岡ガスの顧客は産業用の割合が高く、販売ガス量は京葉ガスと同じくらいの規模になっています。

一方、小規模な都市ガス事業者には1,000件に満たないという会社もありますが、小規模都市ガス会社の場合はLPガス事業の方が大きくなっています。それでも最小規模は2,000件くらいでしょうか。

大手都市ガスの場合、LNG基地を整備し、自らLNGを輸入して供給しています。一方、準大手都市ガスの場合は、他社と共同でLNGを調達する場合や、他社から卸供給を受ける場合があります。また、一部では国産天然ガスを供給している会社もあります。

地方都市ガス会社の多くは、大手・準大手都市ガス会社や電力会社、石油会社などから卸供給を受けてガスを供給しています。

都市ガス料金は会社によって大きく違っています。地方都市ガスは割高な料金というのが一般的です。LNGのタンクローリーでガスを運ぶため、割高にならざるを得ない面もあります。その一方で、千葉県の大多喜ガスはグループ会社の関東天然瓦斯開発から国産天然ガスの供給を受けており、比較的安価な料金となっています。

およそ200社ある都市ガス会社ですが、すべてが独立した会社というわけではなく、資本関係や卸供給など取引関係があります。ほとんどはLPガス事業も行っており、なかにはLPガス会社の子会社というケースもあります。

さらに、仙台市ガス局のような公営事業者もあり、決して業界構造は単純ではありません。

都市ガスへのこだわりは捨てない

都市ガスの主成分は、メタンです。化学式はCH4、燃焼すれば二酸化炭素(CO2)が排出されます。したがって、2050年にカーボンニュートラルを目指すということになれば、今のままで都市ガスを使うことはできない、ということになります。とはいえ、LPガス販売店のように、オール電化住宅の販売に力を入れる、といったようなことは考えにくいと思います。

ではどうするのでしょうか。

都市ガス会社はこれまで、石炭や石油から天然ガスへの燃料転換を推進することで、CO2排出削減に貢献してきました。しかし、これからは違います。

東京ガスでは、主軸として再生可能エネルギーの供給とカーボンゼロのガスの供給の2つを考えています。

再生可能エネルギーについては、基本的には電気です。実際に、2021年3月現在で、138.3万kWの再エネを取り扱い、これをさらに拡大していく予定です。新たな事業としては、洋上風力発電もあります。2016年の電力小売全面自由化以降、電気事業にも積極的だからこそできることだといえます。

カーボンゼロの都市ガスも想定しています。グリーン水素やブルー水素、およびこれとCO2で合成(メタネーション)した合成メタンによる都市ガスです。

水素の場合は熱量や漏洩など扱いにくいため、合成メタンの方が有力だという見方があります。その点、欧州では水素の供給を主体に考えており、日本とは異なっています。

しかし、再エネはともかく、カーボンニュートラルな水素や合成メタンの供給はまだ先の話です。したがって、2030年までは、引き続き燃料転換やエネルギー効率化を推進しつつ、カーボンクレジットでCO2をオフセットしたカーボンニュートラルLNGの供給を進めていく予定です。


出典:東京ガスグループ サステナビリティレポート 2021

大阪ガスは東京ガス以上に都市ガスへのこだわりをみせています。

電力ビジネスにおける再エネ化以上に、水素とメタネーションの存在感が大きいように感じられます。

また、同じメタネーションでも東京ガスと異なるのは、バイオマス発電から排出されるCO2の利用まで視野に入れていることです。


出典:Daigasグループ

地方都市ガスについても、基本的な方針としては、東京ガスや大阪ガスと変わらないでしょう。とはいえ、微妙な違いもありますので、そこは後ほど説明します。

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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