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UNOPSが提供するSDGs×スタートアップの未来

UNOPSが提供するSDGs×スタートアップの未来

2020年06月05日

UNOPS(国連プロジェクト・サービス機関)が、ソニーとの間で、今年(2020年)2月に、イノベーションを追求するための協力協定を結んだ。そして夏には兵庫県神戸市にUNOPSのスタートアップ育成拠点が設置される。現在、神戸市を拠点とする株式会社sonraku代表取締役の井筒耕平氏が、その背景、そしてこれからの期待について案内する。

UNOPSとは

UNOPS(国連プロジェクト・サービス機関)という組織をご存知でしょうか。日本ではあまり馴染みのない方もいらっしゃるでしょうが、1995年に独立した国連機関であり、平和構築、安全保障、人道支援、開発プロジェクトなど世界80ヶ国以上でプロジェクト展開を行なっています。

特に紛争や災害後の地域に物資やインフラを調達する役割を担う、非常に重要な機関なのです。

各国政府、民間、NGOでは難しい物資やサービスの調達を一気通貫で行うことができるために非常にニーズが高く、近年では年間約20億米ドルを調達する規模に至っています。

UNOPSウェブサイト

UNOPSによる新しいチャレンジ

今回、このUNOPSがSDGsを推進するため、新しい取り組みを始めました。グローバル企業との連携のもと、スタートアップ等の育成を通じて、最新のテクノロジーを活用したソリューションを生み出そうというものです。民間企業との連携は、UNOPSにとっては新しいチャレンジでありますが、こうした取り組みを実施するには2つの理由があるそうです。

ひとつは、SDGsの推進には革新的な技術が必要であり、スタートアップの育成が欠かせないということ。そしてもうひとつは、旧来の公的な援助のみならず、民間企業の果たす役割が大きくなっているということです。

近年は、民間企業としてもSDGsへの貢献をCSR(企業の社会的責任)の観点のみならず、事業競争力の強化につなげる取り組みが拡大しており、そうした社会情勢の変化も影響しています。

UNOPSは、スタートアップ育成に向けて様々なプログラムを検討しているとのことですが、中でも特筆すべきはグローバルイノベーションセンター(GIC)というリアルな拠点を世界で約15ヶ所設立する構想です。

そして、世界で3ヶ所目となるGIC Japanの開設都市に神戸が選定されました。オフィスは2020年夏以降の開所が予定されているのです。

UNOPSと神戸市との調印 UNOPSウェブサイトより

UNOPSのグローバルイノベーションセンター、日本では神戸に設立

それにしてもなぜ神戸なのでしょうか。UNOPSに対し、「スタートアップはそのエコシステムが非常に重要であり、その点で優位と考えられる東京ではなく、なぜ神戸なのか」と質問を投げたところ、実は「神戸のこれまでのスタートアップ支援が評価されている」という理由があることがわかりました。

神戸は、500 Startupsというシリコンバレー拠点のシード投資ファンドが展開しているアクセラレーションプログラムを、日本の自治体では初めて2016年から開始しており、2020年もwithコロナ、afterコロナに向けた医療、情報、物流、学習やリモートワーク、イベントなど多岐にわたるソリューションを提案するスタートアップを募るプログラムを走らせています。

また、Urban Innovation Kobeという、スタートアップと自治体職員が、ITを活用した課題解決型プロジェクトを行なっているように、複層的なスタートアップ支援を行なっているのです。さらに、兵庫県と連携した国内外のスタートアップ企業への支援施策も展開しています。

こうした自治体の姿勢を評価したUNOPS側、そしてUNOPSに早い段階からアプローチした神戸市と兵庫県、その両者が求めあった結果がGIC Japanの設立に繋がったのです。

初のグローバルメンバーはソニー

UNOPSのスタートアップ支援事業であるGlobal Innovation Challengeの初となる民間企業グローバルメンバーは、ソニー株式会社(以下、ソニー)でした。そして、GIC Japanではソニー、そして神戸の前にできた2ヶ所目のGIC Swedenではソニーヨーロッパが参画しています。

ソニー プレスリリースより 左から:ソニー株式会社 小田島 伸至 副部門長、UNOPSグレタ・ファレモ事務局長

GIC Japanでは、今年4月21日にGlobal Innovation Challengeへのビジネスプランの応募をスタートしています。AI技術やセンサー技術などのソニーの強みを、気候変動対策に活かせるような取り組みを支援したいとのこと。 募集テーマは「テクノロジーを用いた強靭なインフラを作り、気候変動への対処を強化する」 です。ここで選定されたスタートアップは、神戸で開催される(1)ブートキャンプ(4日間)に参加でき、その中からさらに選定された企業が(2) GIC Japanのオフィスへの入居(最大約12ヶ月)ができるのです。また、UNOPSのプロジェクト現場における(3)パイロット事業への支援を受けることができる場合もあります。

スタートアップ支援において、すでに実績のあるSony Startup Acceleration Program(SSAP)の知見やノウハウを活用し、アイデア創りから商品化、事業運営、販売・事業拡大まで様々な支援を受けられるとのこと。すでに世界中から多くの応募が来ているそうで、国内からの積極的な応募も歓迎したいとのこと。プログラムの提供は全て英語で行われますが、世界中から集まるスタートアップや企業と切磋琢磨して、ネットワークを構築する貴重な機会となるでしょう。

気候変動対策に関わる課題の中で、再生可能エネルギー、農業、環境、ヘルスケアなど、間口を広くしてアイデアを募集したいとのことで、何らかのアイデアがあればぜひ応募することをオススメします。

UNOPSのGlobal Innovation Challengeウェブサイト

UNOPSとビジネスのWin-Win関係を目指して

UNOPSが、ソニーのようなグローバルメンバーに期待することとしては、民間企業の技術や知見の提供による相乗効果の発現となります。一方で、UNOPSがグローバルメンバーに提供する価値としては、CSRのみならず、グローバルなスタートアップ企業との協業や、新たなビジネス機会の創出であり、ビジネスとしてのWin-Winの関係の構築を目指しているように受け取りました。UNOPS側は全体のプラットフォーマーとなり、かつ国連への物資やサービスの調達も具体的に支援できる点で、プレゼンスを高めていきたいと考えているようです。

UNOPSは、今後も協業するグローバルメンバーを募集しているそうで、UNOPSが強みとするインフラ、住居、ヘルスケアなどの分野でのSDGs貢献につながるイノベーション創出の取り組みを期待しているとのこと。

他方、GIC JapanではGlobal Innovation Challengeのような事業のみならず、「地域のエコシステムの強化に資するような事業に、兵庫県や神戸市とともに取り組んでいきたい」ともお伺いしました。国内企業によるビジネスを通じたSDGs貢献やUNOPSとのビジネス機会の創出支援、大学等と連携した事業も展開予定とのことで、今後のGICによる国内外での繋げる動きに期待です。

参照

井筒耕平
井筒耕平

1975年生。愛知県出身、神戸市在住。環境エネルギー政策研究所、備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て、2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。神戸大学非常勤講師。 岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」などがある

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