新たに求められる発電部門と小売部門の「発販分離」 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

経産省審議会ウォッチ:新たに求められる発電部門と小売部門の「発販分離」

新たに求められる発電部門と小売部門の「発販分離」

2020年05月08日

見送られた、旧一電の経過措置料金撤廃

東日本大震災後に立案された電力システム改革の第3段階として、2020年4月1日に大手電力の発送電分離が実施された。これにより送配電部門の中立性はさらに高まったが、小売市場での公正競争確保のために、メスを入れるべき大手電力の組織上の問題はまだ残っている。

発電部門と販売部門の意思決定の分離、いわゆる「発販分離」だ。電力・ガス取引監視等委員会(以下、監視委)の制度設計専門会合はその実現に向けた本格的な検討を今年2月に開始したが、一筋縄ではいかない現状が早くも明らかになっている。

「発販分離」を求める声は以前からあったが、政策課題として明確に位置づけられたのは1年ほど前からだ。小売料金規制を撤廃するかどうかの判断基準の策定作業を通して、問題意識が関係者に共有された。

大手電力10社の販売部門(みなし小売電気事業者)には全面自由化後も、消費者保護の観点から料金規制が残っている。規制は早ければ発送電分離と同時に撤廃される可能性があった。監視委は2018年9月に「電気の経過措置料金に関する専門会合」を新設し、発送電分離と同じタイミングでの小売料金規制撤廃の是非の判断に向けた議論に着手した。

同会合での半年以上に及ぶ検討の結果、10エリアとも発送電分離後も料金規制が存続することが決まった。その理由として、みなし小売電気事業者に伍する新電力が十分に育っていないことに加えて、競争の持続性が確保されていないことが挙げられた。

発電部門から小売部門への内部補助の懸念

「競争の持続性が確保されている」とは、どういう状況を指すのか。そこで浮上したのが「発販分離」の必要性だった。

会議では、エリア内の発電設備の大半を保有する大手電力の発電部門が、自社の販売部門と新電力を公平に扱い、最も有利な条件を提案した小売事業者に電気を卸すことが、競争の持続性確保の条件とされた。
別の言い方をすれば、発電部門が不当な内部補助により自社の販売部門を優遇しないということだ。それにより、複数の小売事業者が効率性を高め合う公正な市場競争が持続するというわけだ。

こうした経緯で、制度設計専門会合は2020年2月、大手電力の発電・販売部門間の不当な内部補助の防止策について議論を開始した。
2月の会合では、監視委事務局が不当な内部補助防止の具体策として、大手電力発電部門による卸価格の社内外の無差別性を確認することなどを提案した。具体的な確認方法として、新電力との相対取引価格やベースロード市場への供出価格などと、自社販売部門に対する社内取引価格との比較などを例示した。

もちろん、発電部門と販売部門が一体である大手電力には両部門間の法的な取引は存在しない。そのため、客観的に捕捉可能な社内取引価格が現時点で存在するわけではない。

とはいえ、自由化により卸市場の流動化が進み、電気事業法上のライセンスも分かれる中で、両部門間の取引価格に準じるものは社内で何かしら認識されていると推定された。それを参考にしつつ、各社共通となる社内取引価格の算定方法を設定するとの検討の方向性が共有された。

だが、3月末の会合で、こうした検討のプロセスはいきなりつまずいた。聞き取り調査の結果、大半の大手電力では、発電と販売の両部門間の取引価格に相当する販売部門の調達コストが社内で認識されていないことが明らかになったからだ。

発電部門と販売部門が分社化されている東京電力と中部電力を除く8社が該当すると推測される。これら大手電力では部門別に経営管理が実施されておらず、収益・費用の管理が全社規模でしか行われていなかった。つまり、発電部門は社内外の小売事業者の取引条件を比較検討するための合理的な材料をそもそも持っていなかった。

委員からは「全面自由化から4年が経ってもこうした状況であることにとても驚いている」(圓尾雅則・SMBC日興証券マネージング・ディレクター)などと怒りを通り越してあきれる声が相次いだ。

監視委事務局は社内外への卸価格の考え方や設定状況について、大手電力にあらためてヒアリングするが、「発販分離」を実現することの困難さが再認識されたと言える。

「発販分離」により、公平で効率的な電力市場を

新型コロナウイルスの感染拡大は審議会の日程にも影響を及ぼしており、議論の先行きはますます不透明になっている。だが、「発販分離」の徹底は、自由化にとどまらず電力システム改革全体の成否の観点からも強く求められている。発電・販売部門間の不当な内部補助が懸念されるのは、kWh価値の卸取引だけではないからだ。

2020年度から始まる非FIT非化石価値取引でも、売り手に回る事業者の発電・販売部門間で不当な内部補助が行われる可能性がある。同じく2020年度に初取引が実施される容量市場でも同様の構図が見られる。

制度設計専門会合の座長を務める監視委の稲垣隆一委員長代理は、大手電力に対して前向きに対応するよう求めている。

「発販分離」とは要するに、発電部門と小売部門が自部門の利益最大化を目的として行動することだ。そのことが結果的に、大手電力グループ全体の利益の最大化にもなると多くの識者が指摘している。
大手電力は経済的に不合理なことを押しつけられているわけではないのだ。

参照
木舟辰平
木舟辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本

エネルギーの最新記事