2040年洋上風力発電4.5GWで、広域系統整備はどうなるかをシミュレーション 第6回「広域連系系統マスタープラン検討委員会」 | EnergyShift

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2040年洋上風力発電4.5GWで、広域系統整備はどうなるかをシミュレーション 第6回「広域連系系統マスタープラン検討委員会」

2040年洋上風力発電4.5GWで、広域系統整備はどうなるかをシミュレーション 第6回「広域連系系統マスタープラン検討委員会」

2021年01月25日

電力広域的運営推進機関では、将来の電源構成に対応した、広域連系系統(全国規模の送電網)に関するマスタープランの作成を進めている。2021年1月15日には、第6回「広域連系系統マスタープラン検討委員会」が開催された。ここでは、官民協議会で掲げられた、2040年洋上風力30~45GWという目標を織り込んだ形での、広域系統整備が検討された。

2030年エネルギーミックス+洋上風力30~45GW

広域連系系統マスタープラン「1次案」策定に向けたシナリオ緒元、シミュレーションの前提条件が決定した。

マスタープランは「広域系統長期方針」と「広域系統整備計画」から構成されており、長期方針では広域連系系統のあるべき姿やその実現に向けた取組みの方向性が示される。

現在電力広域的運営推進機関(OCCTO)では、「広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会」(以下、マスタープラン委員会)において、広域系統整備の長期展望に基づいたマスタープラン「1次案」の検討を進めている。

「1次案」は、本来あるべきマスタープランとは、やや趣が異なるものである。

系統整備は決してそれ単独で存在するものではなく、発電側(電源種別・容量・立地等)および需要側とセットで一体的に検討することによって、はじめて効率的な系統形成が可能となる。ただしこれを実現するためには、エネルギーミックスで目指すべき長期目標や電源構成、需要等の網羅的な計画が同時並行的に必要となり、一定の検討期間を要するものと考えられる。よって本来のマスタープランは、第6次エネルギー基本計画や2050年カーボンニュートラルの実現と整合的なものとするため、複数のシナリオに基づいた検討をおこない、2021年度以降の完成を目指している。

この前段に位置付けられるのが「1次案」であり、その完成期限は2021年春頃と明言されており、時間的な制約が厳しいものである。よって1次案のシナリオはある程度の割り切りをもったシンプルなものとせざるを得ない。

その前提条件概要としては、現時点存在する2030年度エネルギーミックス水準をベースに、新たに国の目標として掲げられた洋上風力(官民協議会で掲げられた目標30~45GW)を織り込んだものである。

以下では、1次案のシナリオやシミュレーション緒元についてご報告したい。

系統増強案検討の基本方針

従来、地域間連系線やエリア内基幹系統の新増設の有無は、事業者からの要請等に基づき、その必要性が生じた際に個別に判断されてきた。今後は、将来のポテンシャルを踏まえたうえであらかじめ増強判断・投資をおこなうプッシュ型の仕組みに移行することが大きな変更点である。

マスタープラン1次案策定にあたって、国の「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」ではシナリオ緒元の概要を示しており、広域機関のマスタープラン委員会では、その緒元を用いることとなっている。つまり緒元の多くが所与のものとなっていることが1次案の特徴である。

その緒元の1つが洋上風力の長期的導入量である。「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」において国は、2040年までに浮体式も含む洋上風力3,000万kW~4,500万kW(30~45GW)の案件を形成することをコミットしている(※認定量ベース)。

図1.洋上風力発電 エリア別の導入イメージ


出所:洋上風力官民協議会

シナリオの前提とする洋上風力の約8割が北海道・東北・九州に集中していることから、まずは電力大消費地へ向けた潮流(北海道→東京、九州→関西・中部)を基調として、地域間連系線・基幹系統等の増強案の検討を進めることとした。

しかしながら、例えば北海道エリアの電力需要は270~540万kW程度であり、ここに1,500万kWもの洋上風力を接続することは困難であると考えられる。そこで、洋上から一度北海道に陸揚げするのではなく、洋上から関東まで直接送電する方策についても検討をおこなう。これを実現する技術が高圧直流送電(HVDC)であり、長距離送電でコスト面、系統安定度面で有利とされている。

なお「1次案」では、あくまで国が設定した緒元概要に基づきシミュレーションをおこなうため、洋上風力のロケーションを変更した際の費用便益分析等はおこなわない。

また後述するベースシナリオ1つだけでなく、燃料費・CO2対策コスト等の複数のパラメータを上下させた場合の感度分析もおこなうこととしている。

シミュレーションの基本的考え方

国の再エネ大量導入小委から示されたベースシナリオ緒元概要をもとに、広域機関では以下のようなシミュレーション前提条件を設定することにより、系統増強による費用便益評価をおこなうこととしている。なお分析にあたっては、シミュレーションツールに一定の制約があることに留意願いたい。

シミュレーションでは、広域メリットオーダーに基づく潮流想定をおこない、混雑系統を抽出するとともに燃料コスト等を算出する。混雑系統を増強した場合(With)の燃料コスト等を算出し、増強しない場合(Without)の燃料コスト等との差分から、燃料コスト等削減効果を算出する。費用便益比B/C(Benefit/Cost)が1を超えるものが、費用対効果があると判断される。

図2.シミュレーションの基本的考え方


出所:マスタープラン委員会

マスタープラン1次案 シミュレーション緒元

シミュレーションツールへの入力データとなる緒元には、需要や電源(種別、出力、制約)、系統データ(系統構成、インピーダンス、運用容量)等がある。

後述する電源構成等はあくまでインプットであって、シミュレーション結果ではないことに留意願いたい。

まずベースシナリオの緒元の1つめは需要である。

① 需要:
2030年長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)の需要9,808億kWhとする。
電化の進展による電力需要増加は1次案では見込まず、本来のマスタープランを検討する際には見直すものとする。

発電種別ごとの緒元は以下のとおりである。

② 再エネ:
2030年度エネルギーミックスと供給計画を比べ、大きいほうの数値を設定。ただし洋上風力については官民協議会の目標値30~45GWを設定し、設備利用率は約33%とする。

後述する表1の電源構成では洋上風力30GWが設定されている。

このベースシナリオのほかに、太陽光・陸上風力については導入量を増加させた感度分析をおこなう。

③ 火力:
供給計画をベースに設定。非効率石炭のフェードアウトが議論されているため、2030年度時点での経年40年以上と40年未満に区分して稼働率を設定する(経年40年未満は年間の約4割停止、経年40年以上は約7割停止として、2030年度kWh比率が26%となるように調整)。

そのうえで洋上風力等の再エネ増加分を反映し、仕上がりの発電量はエネルギーミックス水準よりも減少する。

④ 原子力:
2030年度エネルギーミックス水準(2030年度のkWh比率22%)で設定。

設備利用率について、パラメータにより感度分析をおこなう。

⑤ 電力貯蔵設備:
揚水発電のみを想定し、蓄電池は見込まない。

⑥ 地域間連系線:
決定済みの新々北本連系線、東京中部間FC増強、東北東京間連系線増強を反映。

高圧直流送電(HVDC)コストについて、パラメータにより感度分析をおこなう。

⑦ 燃料コスト・CO2対策コスト:
発電コスト検証WGの手法をベースに、「World Energy Outlook 2020」の想定値を設定。

いずれもベースシナリオに対して、パラメータによる感度分析をおこなう。

1次案シナリオにおける電源構成案

上記緒元を基に設定された電源構成(洋上風力の導入量を30GWとするケース)のうち、北海道エリアの電源構成(設備容量)は図3のとおりである。

念のため、これはシミュレーションへの入力データであり、結果ではない。

図3.北海道エリアの電源構成(設備容量)


出所:マスタープラン委員会

図3のように、第6回マスタープラン委員会で公表されている数値は電源種別の「比率(%)」のみであるため、これを筆者が設備容量(MW)に落とし込み、エリア別に発電種別設備容量を集計したものが表1である。参考までに最新の2020年度供給計画(2029年度)における設備容量も最右列に添えておく(表示単位変更済み)。

表1.エリア別・発電種別設備容量(MW)


出所:マスタープラン委員会の数値を基に筆者作成

表1の設備容量を基に、一定の設備利用率を乗ずることで発電電力量(GWh)を筆者が簡易的に試算したものが表2である。

マスタープラン委員会では、1次案シミュレーションにどのような設備利用率を用いる予定であるかは公表されていないため、ここでは供給計画(2029年度)の数値を用いると仮定した。

表2.エリア別・発電種別発電電力量(GWh)


出所:マスタープラン委員会の数値を基に筆者作成

この試算の場合、エネルギーミックスよりも設備容量が洋上風力で30GW増加しているため、合計発電電力量も上振れしており、緒元の需要電力量と一致しない。需要が一定であればメリットオーダーにより、火力の発電量は抑制されると予想される。

このため需要9,808億kWhに発電合計量を一致させるため、火力には一律の調整係数(約82%)を乗じることとした(ここでは簡易計算のため、所内率等は考慮していない)。

このようにして筆者が独自に試算したエリア別・発電種別発電量が表3である。

この試算の場合、全国の再エネ(揚水含む)の発電量比率は35.3%となる(北海道の再エネ比率61.9%、VRE(変動再エネ)比率49.7%)。

表3.「火力調整後」エリア別・発電種別発電量(GWh)


出所:マスタープラン委員会の数値を基に筆者作成

今後のスケジュール

今回設定した緒元に基づくシミュレーションの完了後、マスタープラン1次案の「骨子」は2021年3月頃の完成を目指し、春頃までの取りまとめが求められている1次案「完成版」は2021年4月頃となることが予想される。

現在国の基本政策分科会では2050年カーボンニュートラルを目指す中で、現時点の参考値として、2050年の発電電力量を約1.3~1.5兆kWh、このうち約5~6割を再エネで賄うことを置いている(再エネ0.65~0.9兆kWh)。

上記の1次案のシミュレーション「インプット」として設定される再エネ0.35兆kWhは、その1/2~1/3程度に過ぎない。

今回の1次案は貴重な第一歩であるが、本来あるべきマスタープランは1次案から大きなジャンプが求められる可能性が高い。また、必要性の高い系統増強計画は、マスタープランの策定を待たずに別途、「系統評価」の仕組みの中で整備計画を検討開始することとしている。

1次案や系統評価の仕組みが継ぎはぎ的な系統形成をもたらすことの無きよう、2050年、それ以降も視野に入れた長期的な全体最適が実現する検討を求めたい。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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