北尾トロの 知らぬがホットケない 第5語 エネルギー基本計画の巻 前編 | EnergyShift

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北尾トロの 知らぬがホットケない 第5語 エネルギー基本計画の巻 前編

北尾トロの 知らぬがホットケない 第5語 エネルギー基本計画の巻 前編

2021年05月28日

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの連載。カーボンニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。今回のキーワードは・・・

知らぬがホットケない 第5語 エネルギー基本計画 の巻 前編

「第1次」エネルギー基本計画を読んでみた

今回のお題がエネルギー政策に関係し、政府が日本の進むべき方向性を示したものであることは容易に想像できるだろう。

「うちとしては今後、こういう考え方と目標でやっていくんだからね」

そういうことが声高くブチ上げられた、国を挙げてエネルギー問題に取り組む姿勢を示した政策なのだ。

この計画は、2002年成立のエネルギー政策基本法に基づき、2003年に定められている。せっかくの機会なので、第1次エネルギー基本計画を読んでみよう

ここに2003年時点での我が国の進むべき道がしっかりと示されているはず・・・と思ったら想像と違うものが現れた。

いや、「はじめに」の部分は素晴らしんですよ。日本は石油をはじめとしてエネルギー資源の多くを海外、なかでも政情不安定な中東に依存しており、このままではまずいと指摘。地球温暖化問題に取り組んでいくにあたっては、我が国のエネルギーコストの高さを問題視し、効率的なエネルギー供給システムを確保するために、国が施策を総合的・整合的に進めていくことが必要だと言い切っている。

原子力についても、基本的には"推し"なのだけど、適切な安全確保が行われない場合、大きな危険が内在しているのだから安全確保に力を入れていくのだと明言。音楽に例えると、カッコいいイントロで始まった感じ。さぁ、どんな歌声を響かせてくれるかと身を乗り出しましたよ僕は。

かっこいいイントロではじまった!

第1章の「基本的方針」は、何をどうしていくべきかがコンパクトにまとめられた素晴らしい内容で、「はじめに」で語られたことが、より丁寧にわかりやすく書かれていると思った。文章も歯切れが良く、ここから日本のエネルギー計画を見直していくんだという熱気さえ感じられる。

問題は、基本方針を受けて具体的に語られるべき第2章「エネルギーの需給に関し、長期的、総合的かつ計画的に講ずべき施策」から最後の第4章「エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するために必要な事項」までの、第1次エネルギー基本計画のメインとなるパートである。

ここには資源確保と安定供給の総合的取組から低炭素型成長を可能とするエネルギー需要構造の実現、新たなエネルギー社会の実現、エネルギー産業構造の改革など、重要項目がひしめき合っている。日本の政府はどのように目標を実現しようとしているのかが、いよいよ明かされるとみて間違いない。

しかし、なんというのでしょうか、いくら読んでも、書かれていることが実現できそうな気がせず、もどかしい時間が過ぎるばかりなのである。書かれていることはいちいちごもっともなのだけれど、不思議なほど心に響いてこない。

なぜだろうと思ってもう一度読み返してみたら、理由がわかってきた。"計画"と名付けられている文書なのに、実際には堅苦しい言葉でふんわりした夢を語っているだけなのだ。

計画で思い出した、期末テスト10日前

計画で思い出すのは中間テストや期末テストである。期日の10日前になると、僕は勉強の計画を立てるのが常だった。この日は英語を何ページ分、翌日は社会を何ページ分、週末は全科目を2時間ずつやろう。そんなふうに心に決め、ノートに時間割を作っていく。ちゃんと休憩時間を入れ、テレビを見る時間も組み込むなど、練りに練るので、計画を立てるだけで一日がかり。1分たりとも勉強していないのに、これで好成績はもらったも同然だと興奮していた。

それなのに、計画は初日からもろくも崩れる。2日目に挽回するが、3日目にまたサボってしまい、見直しを迫られる。目論み通りに進んだことなど一度もない。僕にとって計画とは、立てたそばから修正を余儀なくされるものだった。

それでも、懲りずにまた計画を立てる。テストで好成績を収めるという目標を叶えるには、具体的に何をどのように進めていくかというタイムスケジュールが欠かせなかったからだ。

ライターになってからも、締め切りまでのスケジュールを考えながら仕事をする習慣は変わらない。相変わらず計画は狂いっぱなしだが、最終的にはなんとか取材を終え、原稿を完成させてきた。

夢と願望がてんこ盛りされた"企画書"

そんな僕からすると、具体性に乏しい第2章以降は計画ではなく、「国としてはこうしたいと思ってるんだよね」という夢と願望がてんこ盛りされた"企画書"にすぎない。具体的に語られているのは「新たなエネルギー革新技術ロードマップを2010年中に策定する」などごく一部である。

第1次エネルギー基本計画からたどっていかないと、この項目について語れそうもないと思ったら、すっかり長くなってしまった。

エネルギー基本計画は、2018年に第5次の計画が閣議決定されている。数値目標などを出すと後が面倒だから(?)、石橋を叩いて渡る精神で書かれた第1次エネルギー基本計画が、その後どう変わっていくのか。これは後を追いかけないと…、というわけでこの項、次回に続きます。

(次回に続く)

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北尾トロ
北尾トロ

ライター。1958年福岡県生まれ。体験・見聞したことをベースに執筆活動を続けている。趣味は町中華巡りと空気銃での鳥撃ち。 主な著書に『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『ブラ男の気持ちがわかるかい?』(文春文庫)『猟師になりたい!1~3』(信濃毎日新聞社、角川文庫)『夕陽に赤い町中華』(集英社インターナショナル)などがある。

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