事業構造の大きな変化をもたらす、新たな電力システム改革 | EnergyShift

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事業構造の大きな変化をもたらす、新たな電力システム改革

事業構造の大きな変化をもたらす、新たな電力システム改革

2020年01月22日

2020年4月の送配電分離によって、一連の電力システム改革が終わる。しかし、これで変革は終わりではない。むしろ、再エネの導入拡大やデジタル化など、電気事業の在り方を大きく変える必要はより高まってきている。実際に、新たな電気事業に資する制度の検討などをめぐって、現在、経済産業省資源エネルギー庁において、多数の審議会が開催されている。一連の審議会・委員会の動向から、どのようなことが示されるのか。エネルギージャーナリストの木舟辰平氏によるレポートをお届けする。

エジソン以来のビジネスモデル変革

「エジソン以来の電気を作って売るビジネスモデルがこれから変わっていく。新たな付加価値を生み出すための礎が(法的な面で)できるのではないか*1
電気事業は現在、大きな変革の入り口にある。2019年12月19日に開かれた経済産業省の「持続可能な電力システム構築小委員会(第4回)」で、委員の一人はその高揚感をこう表現した。

大規模電源から分散型電源へ変化することで、取引や制度は激変する

電力のビジネスモデルは、具体的にどのように変わるのか。従来は特別高圧接続の大規模電源から需要家への一方向しかなかった電気の流れが、高圧・低圧接続の分散型電源の設置が進むことで複雑化していく。それに伴い、物理的な電気の流れだけでなく取引形態の多様化も進んでいく。

重要なことは、こうした変化がエネルギー政策の目的である「3E(供給安定性、効率性、環境性)+S(安全性)」のより高い次元での両立につながることだ。

昨今頻発する自然災害が引き起こした大停電の際、再生可能エネルギーなど分散型電源の自家消費により施設等の機能を維持した事例が散見された。供給安定性確保の観点から分散型システムの有効性が確認されたわけだ。その結果、レジリエンス強化や脱炭素化といった電気事業への強い社会的要請に応える解は分散型電源の導入拡大に他ならないという認識が、関係者の中で共有されてきている。

電力ビジネスモデルの転換に直結するふたつの小委員会

経産省は昨秋、こうした認識のもと、新たな電力システム改革の実現に向けた議論の場として総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会内に、ふたつの委員会を新設した。

そのひとつ「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(再エネ主力電源化小委・2019年9月19日~)」は2019年12月12日の会合(第5回)で、同じく中間取りまとめ(案)が了承された。

もうひとつの「持続可能な電力システム構築小委員会(電力システム構築小委・2019年11月8日~)」も、12月19日の会合(第4回)に中間取りまとめ(案)が了承され、ともに議論をほぼ集約し終えた。

両委員会では、電力システムの分散化を確実に促すために必要な制度的措置が検討された。再エネ主力電源化小委では電源側、電力システム構築小委では送配電ネットワーク側における施策が主な議題になった。

再エネはFIPの「競争電源」とFITの「地域活用電源」へ:再エネ主力電源化小委

再エネ主力電源化小委で打ち出されたのは、FIT制度の抜本的見直しの具体的な絵姿だ。電源の特性に応じてFIT対象電源を「競争電源」と「地域活用電源」に区分する。

競争電源は、大型事業用太陽光発電や風力発電などが対象になる。一般送配電事業者の買取義務はなくなるため、再エネ発電事業者は売電先を自ら確保する必要があるが、市場価格に一定額(プレミアム)を上乗せした売電価格を保証する。いわゆる、ドイツなどで実績がある「フィード・イン・プレミアム(FIP)制度」だ。

地域活用電源は、平時から地域で消費され、災害発生時には地域の機能維持に役立つ電源種で、小規模事業用太陽光や小水力、小規模地熱などが対象になっている。固定価格での全量買い取りというFITのスキームは維持し、市町村の防災計画等に非常時の供給力として位置付けることなどが新たな要件になる。

経産省 再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会 資料より

託送料金のレベニューキャップ導入と配電事業のライセンス制:電力システム構築小委

一方、電力システム構築小委におけるネットワーク側の検討では、電源分散化などへの対応のため今後不可避的に増える投資額をいかに抑制するかが大きな議題になった。その対応策として、託送料金制度の抜本的見直しや、分散化の流れに対応した配電ライセンス制度の拡充などが打ち出された。

託送料金制度は新たにレベニューキャップ方式を導入する。現在の旧一電における総括原価方式は、収入と支出が原則的に常に一致する必要があるため、料金原価の認可後はコストを削減する誘因が一般送配電事業者に働かなかった。それに対して、一定期間ごとに収入の上限を設定する仕組みであるレベニューキャップ方式は、コスト低減努力が利益の増加に直結するという魅力がある。

レベニューキャップ制度による利用者還元のイメージ (総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 持続可能な電力システム構築小委員会 中間取りまとめ(案)より)

小売全面自由化に合わせて導入されたライセンス制度は現在、主に発電、送配電、小売の3種類からなる。それに加えて、配電事業とアグリゲーターというふたつのライセンスが新たに創設される。

配電事業は、既存の送配電網の一部の維持・運用を担える資格。地域の分散型リソースを活用したマイクログリッドとして運用することで、域内での経済性やレジリエンスの向上を実現する。一方、アグリゲーターは分散型リソースを束ねて供給力や調整力として提供する資格。VPPの運営者として小売事業者等と直接契約を結ぶ事業者が取得を求められる。

ふたつの法改正は発送電分離のインパクトを超える

両小委の成果は、法改正として結実する。経産省は2020年の通常国会に電気事業法とFIT法の改正案を提出する方向で準備を進めている。

東日本大震災後に立案された3段階の電力システム改革は小売全面自由化を実現し、2020年4月の発送電分離によって完結する。これが電気事業にとって戦後最大の大改革であることに間違いはないが、電力需給の物理的構造の観点で見れば大規模集中電源と長距離送電にもっぱら依存する従来型システムの枠に収まるものだった。

それに対して、今回の法改正は、そうした物理的構造の変革を迫るものだ。「エジソン以来」という冒頭の発言は、決して誇張ではない。

(次回へ続く)

木舟辰平
木舟辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本

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