ソーラーシェアリングの先頭集団から脱落していく日本 | EnergyShift

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ソーラーシェアリングの先頭集団から脱落していく日本

ソーラーシェアリングの先頭集団から脱落していく日本

2021年06月07日

ソーラーシェアリングは、日本が先駆的に進めてきた、より持続可能な太陽光発電といえるだろう。現在は海外での取り組みも拡大している。ところが、当の日本において、ソーラーシェアリングの拡大に向けた政策が充分なものとなっていないことが懸念される。千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏が、日本がとるべき政策について論考する。

連載:これからのソーラーシェアリング

現実的に高いポテンシャルで導入可能な太陽光発電

2021年1月に「ゼロエミッション達成に向けたソーラーシェアリングのポテンシャル」と題して記事を投稿させていただいたが、あれから5ヶ月が過ぎ色々とエネルギー政策も農業政策も動きがあった。

4月22日の温室効果ガス削減目標の引き上げは最も大きなトピックと言えるが、エネルギー政策では第6次エネルギー基本計画の策定と2030年の再エネ導入目標の見直し議論、農業政策ではみどりの食料システム戦略の発表が行われている。

私も各省庁からのソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)やエネルギー・農業政策に関するヒアリングを受け、環境省による国・地方脱炭素実現会議ヒアリングでの小泉環境大臣へのプレゼン、経済産業省・資源エネルギー庁の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会での意見陳述、農林水産省によるみどりの食料システム戦略に関するヒアリングなどが続いてきた。

それぞれの場で、再生可能エネルギー導入拡大の見通しへの見解、現実的に導入可能な電源としての太陽光発電のポテンシャル、そしてソーラーシェアリングが国家安全保障に果たし得る役割などを話してきたほか、4月23日には温室効果ガス削減目標の引き上げを受けた2030年を目標年次とする再生可能エネルギー導入拡大のための提言も一般社団法人太陽光発電事業者連盟(ASPEn)として公表した。

2030年に向けた再生可能エネルギー導入拡大のための提言

この提言では、前回の記事でも触れたように国内農地の約2%で国内発電電力量の10%に相当するソーラーシェアリングが可能になるとして、その実現に向けた現実的な議論が必要であるとした。

2030年に向けた残り9年足らずの時間で大量導入できる再生可能エネルギーは太陽光発電であることは、既に梶山経済産業大臣や小泉環境大臣も会見等で触れられているが、ボリュームが圧倒的に不足する住宅用太陽光発電などに対して、ソーラーシェアリングは十分なポテンシャルを備えている。

あとは、その方向に舵を切るという政治判断と、実現に向けた政策動員を図るかどうかと言う段階にある。

政策面では発電設備と農業の基礎研究拡充のほか、地域でのエネルギー利用を促進する蓄電池導入の規制見直し、そして何よりも旧来のエネルギーミックス目標に縛られたFIT/FIP制度の抜本見直しが必要である。従来の政策目標を大きく上回る数値目標が示されつつある以上、そこに向けた政策手段の全面的な見直しと再編は必須と考えるべきである。

カーボンゼロに向けて、再エネ産業の内製化できる政策を

こうしたアクションは可及的速やかに決断・実施される必要があるが、その理由はこれらの政策を迅速に修正・立案・動員し始めたとしても直ちに普及には繋がらないという点にある。

ソーラーシェアリングに限らず他の再生可能エネルギー電源種も同様だが、FIT制度下で一時的にプレーヤーも事業開発数も増加したものの、残念ながら適切な産業化と市場拡大を図る関連施策が取られなかったため、制度を整えても動き始めるまでに相当の時間を要することが予想される。

2050年という更に先を見据えると、2030年までの期間は再生可能エネルギーの大量導入を図りながら国内産業として育成・定着を進め、可能な限り資材から施工・運営管理までを内製化できるようにしていく必要がある。

エネルギー政策は国家安全保障の根幹の一つであるから、再生可能エネルギーも発電設備の資材・建設・運営管理まで含めて内製化していかなければならないが、残念ながらわが国のエネルギー政策ではその観点が抜け落ちたままで、かつて世界トップレベルだった立ち位置から転落した太陽電池も、国内メーカーを完全に喪失した風力発電も、産業政策の欠如が招いたものだと言える。


国産の技術としてソーラーシェアリングの発展と定着を図れるか

海外で活発化するソーラーシェアリングの支援策と遅れる日本

ソーラーシェアリングも2013年から段階的に普及が始まり、日本が取り組みとしては先駆的な地位だと国際的には認知されているが、現場レベルでの取り組みが全国に生まれ多様化したという特徴こそあれ、残念ながら産業化にまでは至っていない

アジア圏では韓国が、ヨーロッパではフランスやドイツなどでソーラーシェアリングをテーマとした国際フォーラムがいくつも開催され、研究開発への投資も活発に行われている。

今年1月にはイスラエル政府がソーラーシェアリングの研究開発に100万ドル(約1億900万円)の予算をつけ、4月にはイタリア政府が2GWのソーラーシェアリング導入に11億ユーロ(約1,450億円)の投資を発表し、5月にはポルトガル政府がソーラーシェアリング事業に1,000万ユーロ(約13億円)の補助金を交付すると発表した。こうした各国の取り組みを見るだけでも、日本政府の取り組みの遅れが目立つ

これらの国際動向を見るにつけ、民間から優位な技術が生まれてもそれを育成し産業化していく能力がもはや日本政府から完全に失われていることを、図らずもソーラーシェアリングの分野でも痛感することになった。先頭集団から脱落しつつある日本が巻き返しを図れるかどうか、この1年が正念場となる。

馬上丈司
馬上丈司

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

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