テスラ、急速充電器「スーパーチャージャー」の開放で変動料金制を検討、テスラ車はコネクテッド活用で優位性確保 | EnergyShift

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テスラ、急速充電器「スーパーチャージャー」の開放で変動料金制を検討、テスラ車はコネクテッド活用で優位性確保

テスラ、急速充電器「スーパーチャージャー」の開放で変動料金制を検討、テスラ車はコネクテッド活用で優位性確保

2021年08月25日

電気自動車の普及にあたって、インフラとしての急速充電器の拡大は、大きな課題だ。台数を増加させていくことも重要だが、統一されていない規格に対してどのように対応していくのかということも重要な課題だ。さらに、電力システムへの影響も考慮する必要がある。テスラはこの課題に対し、どのように解決していこうとしているのか。ジャーナリストの田中茂氏が報告する。

テスラ・ウォッチャーズ・レポート(7

インフラとして次の段階に向かう「スーパーチャージャー」

テスラのイーロン・マスクCEOが7月20日に開かれた2021年第2四半期の発表会で、今年の後半を目処に同社の充電器システムを他社のEV(電気自動車)でも使用できるようにするとコメントした。同社では、「充電器(スーパーチャージャー)ネットワーク」を独自の規格で整備し、2012年から世界中で整備してきたが、いわば、この技術を他社に対し開放することになる。米国では、バイデン政権が6月24日に超党派議員と合意した1兆2,000億ドル規模のインフラ投資法案で、充電設備などEV向けに約75億ドルが支出されることになっており、これがマスク氏の発言を後押ししたとも言われている。

現在世界では、EVの充電器のコネクターでまだ統一された規格がなく、日本で開発された「CHAdeMO」、北米で使用される「CCS1」、欧州で使用される「CCS2」、中国で使用される「GB/T」、テスラが独自で設けているSCの5種類が併存して使用されている。

テスラの充電設備「スーパーチャージャー」はEVが普及する以前の2012年から設置が開始されており、2021年第1四半期においては2,966ヶ所の充電ステーションに、2万6,900台のスーパーチャージャーを設置している。傾向としては、米国カリフォルニア州と東北部、中国、欧州での設置が多い。最近では、自宅で充電することなくEVの所有を可能にするため、主に都市部に配置されているケースが増えてきている。

テスラのスーパーチャージャーは、特に2019年3月から導入しているV3バージョンが配備されてからは導入が加速しているという。V3は、1台あたり最大出力250kWの充電を可能にし、テスラの「Model3ロングレンジ」なら、5分で最大120km分の充電が可能になる。第1世代のV1、V2の最大出力が120kWなので、ほぼ2倍の出力になったことになる。

混雑を避けるため変動価格制を導入

今回の充電器システムの開放にあたりマスク氏は「スーパーチャージャーの最大の制限は、充電器が占有されている時間であるため、車の充電速度が非常に遅い場合、これらの所有者はより多くを支払うようになる。またスーパーチャージャーで電力をよりスマートに使用するため混雑時の充電はより高価になる」と述べた。いわば、充電する車が多数いる時間には充電料金を引き上げるダイナミックプライシング(変動料金制)をスーパーチャージャーで活用しようというわけだ。なお、現時点で、このシステムを導入している充電料金制はまだ存在しない。

テスラ以外の所有者の使用にあたっては、テスラのアプリをダウンロードし、スーパーチャージャーのどの台にいるかを指定して使用することができる仕組みにするという。具体的には、使用者が自分のアプリを起動して、近くの充電器をアクティブにした上で、充電する必要がある電力量を決める。これらの動作は任意のメーカーの車両で動作する必要があり、課金においても、アプリを通じてテスラアカウントにサインアップし、そのアカウントにクレジットカードを追記して、充電セッションを管理することになる。

充電にあたっては、北米においてはCCS1およびCHAdeMOとの互換性を保つため独自のアダプターを使用するが、盗難の恐れがある問題が解決すれば、スーパーチャージャーにアダプターを残すことも視野に入れているという。

バッテリーの事前温度温めで充電時間を短縮

このような充電器の開放に対し、テスラオーナーは、充電する自動車の台数が増えることによるデメリットを享受するだけなのだろうか。意外にもテスラはその点へも対策を施していた。テスラの車両には別のメリットを用意しているということだ。

これは、車両認証を介さないコネクテッド機能により、充電口にさすだけで充電ができるテスラのメリットを生かした「バッテリー充電」の準備だ。これはテスラが2019年3月に発表した「オンルート・バッテリー・ウォームアップ」という機能で、ナビゲーションを使って充電ステーションに向かっている間、車両が到着に合わせてバッテリーを充電に最適な温度に温めて充電をしやすくするというものだ。この機能により平均充電時間を25%削減することができ、テスラ車以外の車両より同時間でより多くの充電ができるようになる。

日本での効果は限定的か

今回のテスラによる充電器開放は、日本で設置されている「スーパーチャージャー」にも影響があるのだろうか。現状では、CHAdeMOには車両認証や課金システムを持たないため、課金はアプリに頼ることになる。また、テスラ独自ケーブルとCHAdeMO充電器のアダプターが必要になり、制作は他自動車メーカーの開発に依存せざるをえない。

国内急速充電器の数をみると、CHAdeMOで7,839台あるのに対し204台しかないテスラの充電器のために資金をかけてアダプターを製作する自動車がすぐに現れるかは疑問だ。日本での効果は限定的になるだろう。

田中茂
田中茂

産業アナリスト。日常生活に欠かせないエネルギー使用のあり方について、制度・ビジネスの観点から調査・研究しています。

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