EVが持つ脱炭素化のポテンシャルを活かす アークエルテクノロジーズ株式会社 宮脇良二CEOインタビュー | EnergyShift

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EVが持つ脱炭素化のポテンシャルを活かす アークエルテクノロジーズ株式会社 宮脇良二CEOインタビュー

EVが持つ脱炭素化のポテンシャルを活かす アークエルテクノロジーズ株式会社 宮脇良二CEOインタビュー

2021年04月15日

前編では、電気事業の脱炭素化に対するデジタル化の必要性や、ダイナミックプライシングが持つ優位性などについて、代表取締役CEOの宮脇良二氏に、話をおうかがいした。中編では引き続き、電気自動車(EV)が持つ可能性について、モデル事業を通じての発見なども含め、おうかがいしていく。

(全3回 第1回はこちら

EVによるゼロカーボンに向けた課題とは

― 経済産業省の「令和2年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」についてお伺いします。

宮脇良二氏:EV十数台で、4~5ヶ月間の実証試験を行い、ダイナミックプラインシングによるユーザーの充電の行動様式の変化をモニタリングしました。ダイナミックプライシングのメニューは完全な市場連動型です。託送料金に市場価格を上乗せしたものを、毎日メッセージアプリのLINEで通知しました。対象車種は、EVではリーフとテスラ、PHEVではプリウスとしました。

メッセージはユーザーの行動特性によって変化を持たせました。例えば、夜型のユーザーと昼型のユーザーとではメッセージを送信する時間帯を変えるなどです。

この実証試験でわかったことは、まず、ダイナミックプラインシングになっても車に乗ることそのものの行動様式は変わらないということでした。

一方で、充電に対する行動様式は変わるユーザーと変わらないユーザーに分かれました

ダイナミックプライシングに反応し、スマートな利用方法をとったユーザーは、大幅な電気料金の削減に成功しました。行動を変えたユーザーは自宅の電気の使い方も見直し、市場価格の高騰のさなかにあっても、電気料金への影響を低く抑えることができました。


経産省資料より

― 実証試験の中で、課題も見えてきたかと思います。

宮脇氏:多くのモニターの方々から「EVの充電プラグを差すだけで、自動的に安い時間帯に充電できるようにしてほしい」というご要望をいただきました。現在のEVでも、タイマーを設定して何時から何時までといった設定は可能です。しかし、操作が面倒なため、ほとんどのユーザーが帰宅後は充電プラグを差し込んで終わりといった状況です。

一方、EV充電には8~10時間かかります。そのため、ダイナミックプライシングによる電気代の安い時間内に充電が完了せず、高い時間帯に入ってしまうこともあります。その辺りの問題点も制御方法によって解決できれば、より効率的な電気の使い方が実現できるでしょう。

今回の実証試験では、ダイナミックプラインシングに対して反応するユーザーが一定層存在することがわかりました。今後の課題としては、プライシングシグナルをユーザーに対してどのように示していくと、より効率的な行動を促せるのかを探っていくことです。今年はLINEを使いましたが、別の手段も検討したいと考えています。

また、PHEVユーザーは外出先では充電しないなどという行動特性も把握できました。高速道路サービスエリアではPHEVの充電を控えるような掲示があるほか、EVと比べて充電量が少なくコスト意識が働きにくいなどの背景が考えられます。

今回は、行動様式の把握やデータの蓄積ができたことが大きな収穫でした。今後のサービスを検討するうえで、大きなインプットになると考えています。次年度も、公募があれば参加し、季節によって異なる行動パターンなどをより多くデータとして残していきたいと思います。さらに、それによって得たデータを電気料金の開発や、我々が目指す充電機器周辺のIoT開発に活かしていく構えです。


アークエルテクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 宮脇良二氏

V2Hの持つ大きなポテンシャルを

― EVについては、充電システムとしての使い方もあります。

宮脇氏:V2H(EVから住宅への電力供給)については、次年度以降、力を入れて取り組みたいと考えています。

EV充電は、どの家電よりも多くの電気を使います。家庭用EV用充電器は3kWもしくは6kWですが、充電時の電力データをみると、1時間あたり3kWhの使用量が増加する様子がよくわかります。

EVを大容量の家庭用蓄電池と捉えると、V2Hの大きなポテンシャルを秘めていることがよく理解できました

EVの蓄電池は定置型よりも寿命が短いと考えられますから、充放電回数とバッテリー劣化の関係は注意深く観察する必要があります。現時点では、家庭用の定置型蓄電池よりも大容量のV2H機器の方がコストパフォーマンスはよいのではと考えています。

例えば、家庭用の定置型蓄電池でもっとも容量の大きいテスラのパワーウォール(13.5kWh)のものと比較してみましょう。本体価格は90万円ですが、施工費を合わせると150~160万円程度になると言われています。

一方で、すでにリーフ等のEVを所有している消費者であれば、V2H機器が120万円程で導入できれば、より経済性が高いと考えられます。移動手段としてのEVのコストは除いて考慮した場合です。

(第3回は明日4月16日に掲載予定  第1回はこちら

(interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:清水裕美子)

宮脇良二
宮脇良二

一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。アクセンチュア株式会社(1998年4月-2018年6月)、1998年4月アンダーセンコンサルティング入社(現アクセンチュア)。2009年9月パートナーに昇進(現マネジングディレクター)し、2010年9月電力・ガス事業部門統括に就任。 アークエルテクノロジーズ株式会社を2018年8月、代表取締役として立ち上げる。九州・アジア経営塾指導パートナー(2011年〜現在)、スタンフォード大学客員研究員(2018年9月〜)。電力・ガス、新電力、エネルギー関連テクノロジー企業、スマートシティ関連企業を中心に活動を広げる。専門はIT・デジタル戦略、営業・マーケティング戦略、組織風土改革、大規模プロジェクトマネジメント。

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