2021年度調整力公募 電源Ⅰ・Ⅱの必要量とは 第50回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」後編 | EnergyShift

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第50回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」後編

2021年度調整力公募 電源Ⅰ・Ⅱの必要量とは 第50回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」後編

2020年07月08日

審議会ウィークリートピック

前回に引き続き、「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」における調整力をめぐる報告、およびこれからスタートする需給調整市場の特に三次調整力②につながる電源Ⅰ´をめぐる考え方等について、お届けする。

2021年度向け調整力公募 電源Ⅰ・Ⅱの必要量の考え方

前編では、第50回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」で報告された2020年度調整力の確保に関する計画の取りまとめをテーマに、現状(需給調整市場開始前)における調整力の区分や電源Ⅰ・Ⅱの確保量等を紹介した。後編では、2021年度向け調整力公募に向けた課題整理、電源Ⅰ・Ⅱの必要量はどのような考え方に基づき算定されているのか、等をご紹介したい。

調整力を広域的に調達・運用するための新たな仕組みとして、需給調整市場が2021年度から順次開設される予定である。
まず、「三次調整力②」という商品区分が2021年度から広域的な調達・運用が開始される。逆に言うと、これ以外の商品(電源Ⅰ等)は、従来通り調整力公募にて確保する必要がある。なお、三次調整力②については後述する。

また2024年度から容量市場の受け渡しが開始されることにより(初回のメインオークションは2020年7月に開催される)、電源Ⅰ(a、b、ダッシュ)のkW価値の調達機能は容量市場に引き継がれることとなる。電源Ⅱについては容量市場の「余力活用契約」に引き継がれる。一定の調整機能「有」と登録した電源は、余力活用に関する契約を一般送配電事業者(以下、一送)と締結することがリクワイアメントとされている。

前回述べた調整力の区分を別のかたちで表したのが、以下の図1である。
周波数制御機能の有無、指令・制御方式の違い、契約形態の違いにより、6つの商品区分に分かれている。前編の表1も参照願いたい。

2021年度向け調整力公募に向けた課題整理について 2020年6月11日 第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料より(P3)

2021年度の電源Ⅰ、電源Ⅰ´必要量の考え方についてまとめたのが以下の表1である。
大半は2020年度と同様だが、2021年度から変更される項目は赤字で表している。

出所:第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料をもとに筆者加筆

以下、表1の必要量の考え方を補足説明する。

電源ⅠはkW価値とΔkW価値を同時に調達するものであることから、電源Ⅰ必要量は「必要予備力確保の観点」と「実需給断面で必要となる調整力の観点」から算定されている。

本来はすべての小売電気事業者が必要な供給力を確保すべきだが、容量市場が開始されるまでの間は、一送が少なくとも「必要供給予備力の量」(=偶発的需給変動*対応の必要供給予備力の量)をエリア内で電源Ⅰとして確保する、とされた。

実需給断面において一送は、確保した電源Ⅰとゲートクローズ後の電源Ⅱ余力を活用して対応することとなる。しかしながら、H3需要(最大3日平均電力)など高需要時には、電源Ⅱ余力が生じにくい(電源Ⅱ余力に期待できない)と考えられる。この残余需要の高い時間帯でも問題なく対処するために、電源Ⅰによる「上げ調整力」の必要量を算定している。
上げ調整が必要となる事象「時間内変動対応」、「電源脱落対応」、「需要予測誤差対応」のイメージは以下のとおりである。

2021年度向け調整力公募に向けた課題整理について 2020年6月11日 第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料より(P14)

第50回委員会では、2019年度実績をもとに、H3需要など高需要時に必要な上げ調整力を試算している。試算結果はH3需要の8~9%となっており、電源Ⅰで確保しようとしているH3需要の7%を上回る(つまり、調整力確保量が不十分であることを示唆する)結果となっている。

ただし第50回委員会では、現実には電源Ⅱ余力がうまく活用出来ているとの評価を示し、電源Ⅰ調達量を、現状の7%から「増やす必要があるとまでは言えない」、との結論を下した。

*偶発的需給変動とは、短期的かつ偶発的に発生する需給上の変動として、気温・気象条件などによる需要変動、電源の計画外停止、出水変動等による需給変動のこと

FIT特例制度における再エネ予測誤差

通常の火力等の発電所の場合、発電事業者(発電契約者)自身が、発電計画を作成・提出しているのに対して、FIT電源はFIT特例制度を活用することが可能である。

FIT特例制度①③では発電事業者に代わり、一送が前日朝6時までに再エネ出力(発電量)を予測して各事業者に配分し、その発電計画値は実需給まで計画の見直しを行わないこととなっている。(これにより、FIT発電事業者等はインバランスリスクを負わない、という特例制度である)

太陽光・風力の自然変動電源の場合、前日に作成された発電量予測・計画値は、当然ながら実需給までに一定のズレ(予測外れ)が生じることとなる。
FIT特例①③では、「前日から実需給の予測誤差」は一送が対応するズレであり、2020年度までは電源Ⅰ・Ⅱにより対応していた。
需給調整市場の開始に伴い、主にこのFIT変動電源のズレに対応する日本独自の調整力として設計されたのが、三次調整力②である。
先述のとおり、三次調整力②は2021年度から開始される。

三次調整力②必要量の考え方について 2018年11月13日 第7回需給調整市場検討小委員会資料より(P8)

ただし、一送が電源Ⅰで対応すべき「再エネ」の予測誤差は、FIT特例制度①③起因のものだけではなく、全ての再エネ予測誤差である。新たな三次調整力②の導入により、2021年度における電源Ⅰで対応すべき再エネ予測誤差は、「(ゲートクローズ時点予測値-実績値)の3σ」という算定式で表せられる。

三次調整力②の導入により、一見、電源Ⅰの確保量を削減できるように見えるが、もう一度、表1を眺めていただきたい。

電源Ⅰの必要量は「予備力」と「調整力」の両面から規定されている。三次調整力②は調整力削減の観点では有効であるが、2021年度時点では、予備力の観点で最低限確保すべき量として、従来通り7%が確保されることとなった。

なお2020年度までは、FIT特例制度①③予測誤差に対応するため、前日スポット市場後の電源Ⅱ余力が不足することが予想される場合に限り、一送が「電源Ⅱを事前予約」することにより必要な調整力を確保することを許容している。予約された電源はJEPXスポット市場に投入されることは無いため、スポット市場での需給バランスが悪化して、取引価格にも影響を与える可能性がある。よって事前予約した場合には、事前予約が必要不可欠であったか否かについて、電力広域的運営推進機関(具体的には本委員会)による事後検証が必要とされる。 なお、三次調整力②が開始されれば、「電源Ⅱの事前予約」は不要となることが確認された。

電源Ⅰ´必要量

電源Ⅰ´の主な確保目的は、「過去10年の中で最も猛暑・厳寒であった年度並みの気象を前提とした需要(厳気象H1需要)において、平均的な電源トラブルやそれを一定程度上回る供給力低下が発生しても、国からの特別な要請に基づく節電に期待する(場合によっては計画停電に至る)といった状況に陥らないようにすること」とされている。

電源Ⅰ´必要量は、夏季と冬季のそれぞれについて、次式により算定する。

電源Ⅰ´=厳気象H1需要×(1-需要減少率)×103%
-{(最大3日平均電力×101%+電源Ⅰ必要量)×(1-計画外停止率)-稀頻度リスク分}

夏季と冬季の供給力の差は、以下の点を考慮して評価されるが、(a)と(c)については、2020年度と同様である。

  • (a)計画停止量の差
  • (b)再エネ(太陽光発電、風力発電、一般水力)の供給力の差
  • (c)ガスタービン発電設備の供給力の差

(b)再エネについては、2020年度まではL5出力で算出していたが、2021年度分からは調整係数を用いることとなった(設備容量×調整係数)。
再エネの供給力評価については別稿「確率的手法で、再エネの供給力評価がどう変わる? 2020年度夏季の電力需給検証報告書について」で概要を紹介している。

一送等の電気事業者が広域機関に提出する「供給計画」に用いる、エリア別の具体的な調整係数はこちらの資料で公表されている。

調整力公募そのものは、2023年度までの制度である。需給調整市場・容量市場の開始後は一旦その使命を終えるが、調整力の必要量の考え方等は一定程度普遍的なものであると考えられる。

本稿が調整力を理解する一助となれば幸いである。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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