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カーボンプライシング

カーボンプライシングとは?日本でも炭素税が導入される

2021年06月12日

国際的に脱炭素化が進められるなか、カーボンプライシングに注目が集まっています。ここでは、カーボンプライシングの概要と導入目的、メリットやデメリットについてご説明します。昨今、話題にのぼる「炭素税」や「排出量取引」について理解を深める際、本記事をお役立てください。

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、温室効果ガスの排出量に価格を付ける仕組みです。カーボンプライシングを適用することで、企業や家庭は排出量に応じた金銭的な負担を負うこととなります。カーボンプライシングは、明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングの2つに大別されます。

カーボンプライシングの意義

出典:環境省「カーボンプライシングの意義」

 

明示的カーボンプライシングは、温室効果ガスの排出に直接的なコスト負担を設けるものです。温室効果ガス排出にともなう社会的費用の負担を強いることで、企業や家庭が自発的に排出量削減の対策を講じることを促進します。対策を講じた際の経済的メリットが、従来通り温室効果ガスを排出し続けた場合のメリットを上回るよう設計することで、社会全体が排出量削減に努めるものと予想されます。

一方の暗示的カーボンプライシングは、排出量削減につながる事業に税制優遇を適用したり、化石燃料等に広く課税したりする間接的な仕組みです。ただし、暗示的カーボンプライシングに分類される施策は局所的な対策に過ぎないため、明示的カーボンプライシングに比べて排出量削減の効果は限定されます。

両者に優劣はなく並行して進めていくべき施策ではありますが、とくに昨今は明示的カーボンプライシングに該当する「炭素税」や「排出量取引」が注目されています。

炭素税の導入目的とメリット・デメリット

炭素税は温室効果ガスの排出量に応じて課税し、炭素に価格を付ける仕組みです。炭素税による税収の使途については現在検討が行われており、2021年に公開された環境省の「炭素税について」では「税収もカーボンニュートラル達成のために活用してはどうか」と記述されています。具体的には、下記の領域に税収を活用することが提案されています。

  • 脱炭素事業創出など、供給サイドの構造転換
  • 脱炭素技術の普及・消費喚起など、需要サイドの構造転換
  • 低炭素・脱炭素な代替技術の開発支援などの支援策
  • 国民への直接的な還元

炭素税導入によるメリットは、温室効果ガスの排出量削減が期待できることと、経済問題や環境問題へ充てられる税収を確保できることです。デメリットとしては、多量の温室効果ガス排出がともなう鉄鋼業や化学工業など、一部産業の成長の鈍化が懸念されることです。

排出量取引の導入目的とメリット・デメリット

排出量取引とは、排出可能な温室効果ガスに上限を設ける制度です。ただし、排出量取引では上限を超える排出枠を別途購入できます。たとえば、企業に対して排出量取引制度を適用した際、上限を超えて温室効果ガスの排出枠を取得したい企業は、ほかの企業から排出枠の余剰分を買い取ることが可能です。

上限以上の排出枠取得に金銭的負担が生じる仕組みとすることで、適用対象は自力削減に努めるようになります。排出枠が余れば余剰分を取引によって換金できるため、自力削減に努めることのインセンティブもあり、全体としての温室効果ガス排出量を低減する効果が期待できることはメリットです。

デメリットとしては、特定の事業者に排出量の上限を設ける場合、妥当性のある公平な設定が難しいことにあります。仮に特定の領域にのみ重い負担が課せられることになれば、強い反発が予想されるほか、早急に対処しなければ当該領域の競争力が損なわれる懸念もあるでしょう。

世界ではすでに導入されている?

世界的な潮流としては「脱炭素化のためにカーボンプライシングは必須である」という方向へ向かっています。とくに炭素税を設けている国・地域は多く、昨今ダボス会議では炭素税を「累進制度」として、より多く温室効果ガスを排出している対象の税率を高めることが議論されています。

以下は、日本を含む諸国における炭素税率の推移です。グラフのうちスウェーデンやスイスなど顕著な上昇を見せる地域があるなか、地べたをはっているように見える赤点が日本の炭素税率を示しています。

炭素税率の推移

出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ「国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆」

まとまった税収を得ている地域では、税収を低所得者への経済的な支援、環境プロジェクトに対する資金として用いるケースが見られます。グラフには反映されていませんが、フランスのほかにもアイルランドやカナダは中長期的に炭素税の積極的な引き上げを行う見込みです。

排出量取引に関しても、欧州や米国カリフォルニア州、カナダ・ケベック州など、特定の事業者を対象として排出量取引制度を設けている国・地域は複数あります。ただし、現状では炭素税ほど広範囲の取り組みとして導入されている事例は少なく、2005年からEUを中心としてスタートし、2021年に第4フェーズを迎える「EU-ETS」が精力的な枠組みの先駆けとなっています。

諸外国のカーボンプライシングによる収入の使途

環境省の「カーボンプライシングの効果・影響」にとりまとめられた、各地域におけるカーボンプライシングにより得た収入の使途をご紹介します。概ねいずれの地域でも、カーボンプライシングにより得られた収入は適切性があると思われる再分配、社会的に意義のある領域に投じられていることが読み取れます。

国・地域使途
スウェーデン
(炭素税)
法人税や所得税の引下げ等に活用
ドイツ
(エネルギー税)
企業の社会保険料負担軽減等に活用
フランス
(炭素税)
一般会計から競争力・雇用税額控除、交通インフラ資金調達庁の一部、及び、エネルギー移行のための特別会計に充当
チリ
(炭素税)
一般会計から政府の教育改革資金等に充当
欧州排出量取引制度
(排出量取引)
収入の半分を気候変動対策に利用することが推奨されているが、最終的には各国の裁量
米国北東部州地域GHGイニシアチブ
(排出量取引)
各州の裁量
米国カリフォルニア州温室効果ガス削減基金への拠出等

出典:環境省「カーボンプライシングの効果・影響」

日本でまだ導入に至っていない理由

「日本はカーボンプライシングの導入に至っていない」といわれる場面もありますが、日本でも2012年10月から地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)と呼ばれる制度が段階的に施行されています。地球温暖化対策税は、化石燃料の利用に対して広く公平に負担を求めるものです。

また東京都は2010年、埼玉県は2011年に排出量取引を導入しており、2013年にはJクレジット・JCMなどの関連制度が整えられました。早期から脱炭素化へ精力的に働きかけている諸外国と比較すると、日本に遅れが見られることも事実ですが、決して何も取り組みが進んでいないというのは誤解です。今後、カーボンプライシングを本格的に導入するにあたっては、政府側に決断力や国民への説明を求めるばかりでなく、私たちからカーボンプライシングに対して賛同の意思を示す姿勢も重要になると考えられます。

活動の良し悪しはともかく、2021年6月にイタリアで起こった「政府に対する温暖化対策の不十分さ」を理由とする集団訴訟からは、国民側が高い環境意識を持っていることが読み取れます。そこには、カーボンプライシングによる税負担増加などの短期的な懸念より、気候変動によってもたらされる環境汚染など長期的な問題を深刻視する姿勢があらわれているのです。これはイタリア国民が環境問題について正しく認識していることを示しており、決して当事者意識が高いとはいえない日本では見られない風潮です。ですから、環境問題への取り組みが先行している欧州と同等以上の水準へ至るためには、私たち国民の意識改革も必要だといわざるを得ません。

おわりに

カーボンプライシングは脱炭素化のために必須な取り組みとして認識されつつあり、世界的に見ても日本より精力的に制度を整える国・地域は複数あります。日本の抜本的な改革が遅れている理由は複数ありますが、脱炭素化の難航を「政府側の責任」として受け身な姿勢でいるままでは環境先進国に後れを取るばかりです。今回ご紹介した炭素税や排出量取引を始め、カーボンプライシングを積極的に理解する意識を持ち、施行内容を吟味して賛否の意見を持つ姿勢が求められつつあります。

EnergyShift編集部
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