ネクスト・クラフトヴェルケの再エネ電力VPPが系統を安定化させる:スタートアップ・インタビュー | EnergyShift

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ネクスト・クラフトヴェルケの再エネ電力VPPが系統を安定化させる:スタートアップ・インタビュー

ネクスト・クラフトヴェルケの再エネ電力VPPが系統を安定化させる:スタートアップ・インタビュー

2020年04月21日

欧州最大のVPP(仮想発電所)事業者が、ドイツのNext Kraftwerke(ネクスト・クラフトヴェルケ)である。同社は、デジタル技術を用いて数千の再生可能エネルギー発電設備と柔軟な大規模電力消費者からなるプールを作り、系統安定化サービスを提供してきた。まさに再生可能エネルギーが大きなシェアを占める未来の電力システムを、どのように運営するかを描き出している。
ドイツのエネルギーニュース専門サイト、“Clean Energy Wire”による、ネクスト・クラフトヴェルケの共同創業者でCEOを務めるヘンドリック・ゼーミッシュ(Hendrik Sämisch)氏のインタビューを、環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員の古屋将太氏の翻訳でお届けする。

VPP:分散型再生可能エネルギー発電設備、柔軟性をもつ電力ユーザーや蓄電池をプールする。|図:ネクスト・クラフトヴェルケ

ドイツのエネルギー政策は停滞しているが・・・

―ドイツのエネルギー転換の現在の進捗をどのように見ていますか?

ヘンドリック・ゼーミッシュ氏:私たちは異なるレベルを分けて考える必要があると思います。一方には技術と経済があり、もう一方には政策があります。政策に限って言えば、いまのドイツにはあまり動きがありません。支援プログラムの改革や系統増強についての多くの議論がありますが、私たちが現在事業をしている市場の制度は再生可能エネルギーで成り立つ世界に必要な要素が十分に機能するようにはなっていません。いまのドイツはダイナミズムに乏しく、他国のほうがより強い決意を持って前進し、問題により建設的に取り組んでいることを理解しなければなりません。ドイツでは発展が停滞しているように見えるでしょう。ビジネス拠点を標榜する国としては悪いニュースです。

対照的に、再生可能エネルギーの技術や経済は政治をはるか後方に置き去りにして大きく前進しています。私たちはターニングポイントに来ています。つまり、大量の再生可能エネルギー導入は地球を救うためというよりも、安いから導入されるようになったのです。多くの国がこのポイントに到達していて、他の国々も到達しつつあります。これはきわめて重要です。政策の役割はもはや普及を促すことではなく、市場でおこっていることへの対応へと変わりつつあります。

ドイツでも、電源技術によってはこのポイントに到達しています。経済支援なしの初めての大規模太陽光発電と風力発電が建設されています*1

ネクスト・クラフトヴェルケ ヘンドリック・ゼーミッシュCEO

―どういった規制の変更がもっともエネルギー転換を進めるとお考えですか?

ゼーミッシュ氏:公平なカーボンプライスの導入が包括的な解決策になるだろうことは明らかです。しかし、それはとても大きな課題なので、具体的な政策要望とは呼べないでしょう。また、私たちは市場の運用レベルで活動しているため、別のテーマを選びましょう。
私たちは系統のボトルネック(系統混雑)が巨大なコストの要因であるという問題に非常に批判的ですが、これは見過ごされがちです。なぜならドイツは統一価格エリアの幻想に固執しているからです。

しかし、実際には西から東へ、北から南へ、数億ユーロが送られています。電力価格を国内で同一に保つためです。私たちは、国内に大量に再生可能エネルギーを生産するエリアと大量に電力需要が存在するエリアが併存する状況に対応する方法を見つけなければなりません。
発電所のオン/オフの切り替えに多額の資金を費やすことは、この問題に対する適切な回答にはなりません。私たちは系統増強も含めて、統合された欧州電力市場を必要としています。一時的な地域毎の価格差は問題ではないのです。これは、市場設計の詳細の多くに関する中心的課題です。

もし、再生可能エネルギーが高いシェアを占める電力市場を、白紙に描くことができれば、今日のものとはきわめて異なって見えるでしょう。非常に安い再生可能エネルギー電力が1年の多くの時間で利用可能であり、一方でそれらが不足する時間もあるということを、市場も早期に理解するべきです。市場はこれら両方の事態に対処する投資を促すシグナルを必要としています。例えば、電力が不足する時間に電力価格が非常に高価になれば、ガス火力発電所は年に数百時間稼働するだけで収益を上げることができ、投資が促進されるでしょう。

*1: Energy company BayWa Re to build Germany’s first zero-support solar farm(Clean Energy Wire 2019.5.10)

政策にかかわらず止まらない再生可能エネルギーのブレイクスルー

―ドイツはいまだにエネルギー転換の先駆者であるとお考えでしょうか?

ゼーミッシュ氏:ドイツは1998~2005年の間に、再生可能エネルギーのコストを下げるために非常に大きくかつリスクのある賭けに出て、それが驚異的に上手くいったことから、すばらしい飛躍を遂げました。しかし、一貫性をもって第二、第三のステップを踏むことはしませんでした。
ただ、少なくとも家計にかかるエネルギー転換の負担は数年で減少に転じます。経済大臣にとってはやりがいのある仕事です。私たちは、再生可能エネルギー賦課金が年々下がっていく*2一方、さらなる普及拡大が進むことを目のあたりにするでしょう。

ドイツで私たちが取り組んできたこと、上手くいったこと、上手くいかなかったことは、いまも海外から大きな関心を集めています。ドイツが先駆けて経験したことは、いまだに価値があります。しかし他の国々はすばやく追いつこうとしています。私は専門家ではありませんが、多くの国々でたくさんの動きがあります。中国を見るだけでも、彼らがどのようにして太陽光発電のコストを下げたのかは信じがたいほどです。彼らが同じことを蓄電池でやったらどうなるか、想像してみて下さい。

他の多くの国々でも再生可能エネルギーは採算が取れるようになり、導入が急速に進みつつあります。多くの市場で、もはや政策が再エネのブレイクスルーを止めることができないことは明らかです。政府が必ずしも気候変動対策に熱心ではない現在のアメリカを考えてみてください。
再生可能エネルギーは世界規模のトレンドであっても、大規模なテクノロジー企業はまだこの分野ではそれほど活発ではありません。私たちにもそこにはまだ多くの機会があります。

ケルンのネクスト・クラフトヴェルケ電力トレーディングフロア|写真:ネクスト・クラフトヴェルケ

―ネクスト・クラフトヴェルケの今後のもっとも重要なマイルストーンは何でしょうか?

ゼーミッシュ氏:私たちはすでに欧州の市場に進出しています。再生可能エネルギーに市場アクセスと発電量予測を提供しています。また、系統安定のために再生可能エネルギーを制御し、今後数時間に電力市場で起こることを理解するためのソリューションの需要が高まっていることを感じています。

再生可能エネルギーの普及拡大は多くの国の系統運用者に多くの質問を投げかけています。電力はどこから来るのか? どこに行くのか? 4時間後に何が起こるのか? といった問いの答えが求められています。そして、私たちは「まさにこの瞬間に、系統の各送電端でどれだけの再生可能エネルギーが発電されているかを伝え、プロセスを可視化し、今後4時間の間に起こることを予測」し、喜んで彼らを支援します。あらゆる国で、今後5年の間にこうした課題はますます重要になるでしょう。私たちのテクノロジーでそれらに答えを提供したいと考えています。

―もっとも重要な競合は誰でしょうか?

ゼーミッシュ氏:私たちはいくつかの市場セグメントで活動しているので、答えるのは難しいです。しかし、別の方向から答えるとすれば、既存のエネルギー産業は真の競合にはなりませんでした。
私たちが取り組んでいることは彼らにとって重要ではありません。彼らにすれば、私たちはテクノロジーであり、気象学なのです。それこそが、私たちが興味深いテクノロジーの発展に目を向け続ける理由です。

この分野はまだぼんやりとした競争にすぎませんが、私たちは向き合わなければならないでしょう。例えば、私たちの気象予測を改善するには機械学習とアルゴリズムが必要です。私たちは良いアイディアを注意深く捜しています。新聞を読んでいても、Google Alpha(Googleの最新AI)が巨大な気象データの取り扱いを理解するのにそれほど時間がかからないだろうことはわかります。それは、長い目で見れば競合他社が現れるということです。

しかし現在、より運用に近いレベルでは電力トレーダーや電力会社、エネルギー業界のテクノロジー企業が主な私たちの競合になります。例えば、ジーメンスやABBといった企業がいます。

「Next Box」は再生可能エネルギー発電設備とNext Poolの中央制御システムをつなげる|写真:ネクスト・クラフトヴェルケ/Jennifer Braun

*2 What German households pay for power(Clean Energy Wire 2020.1.24)

日本市場はポジティブな雰囲気で興味深い

―すでに欧州のさまざまな国に展開していますが、欧州外の市場に参入する計画はありますか?

ゼーミッシュ氏:はい、すでに欧州外でも「VPP-as-a-service(サービスとしてのバーチャルパワープラント)」のプロジェクトを行っており、電力会社やその他のアグリゲーターにVPPインフラを構築しています。ドイツが数多くの再生可能エネルギー発電設備を導入した最初の国だったこともあり、私たちがドイツでのVPP運営を通じて多くの経験と技術を蓄積してきたことは、本当にボーナスでした。この経験が私たちに優位性をもたらし、私たちはそれを世界に届けたいと考えています。

公式には、日本と韓国でのプロジェクトに言及していますが、基本的には世界中どこでも進出できます。日本はエネルギー転換政策を立ち上げたばかりで、技術連携に非常に前向きなので、大変興味深い国です。いまのところ非常にポジティブな雰囲気があります。

私たちは、アジアの他の国々にも多くの機会を見ていますし、アフリカや北米、南米も同様です。これは私たちにとって大きな組織的課題であり、多くの新しいことに取り組んでいるところです。商業的な視点から見れば、これらの機会には期待がもてます。

脱炭素への投資に向かう石油メジャー

―(シェルのような)石油メジャーがネクスト・クラフトヴェルケのような企業の専門性にビジネス機会を見出して、小さな企業を飲み込みながら急速に拡大しはじめていることへの懸念はありますか?

ゼーミッシュ氏:最初の問いは、なぜシェルはこれを実行したのかを問わなければなりません。マーケティングやグリーンウォッシュ、もしくは競合を抑え込む試みなど、さまざまな動機が思い浮かびます。しかし、正直なところ、これらは当てはまらないと私は考えます。

シェルのような大きなグループ企業はそういったことにわざわざ悩む必要がありません。そのため、決定的な要因は、中期的に石油やガスで収益を上げることができなくなることにあると私は考えます。 今日、彼らがこれらの(石油)業界で途方もない収益を上げていることを考えれば、その資金をいつか取って代わるだろう、しかも今は比較的安価な分野(再エネ業界のこと)に注ぎ込まないわけがありません。おそらく、これらの動きの背後には冷静な経済的検討があり、シェルはいまや断固としてその道を進んでいるように見えます。以前にもこのような動きがあったことは事実ですが、BPのスローガン「石油を超えて(beyond petroleum)」をみれば、今回は真剣なのではないかと私は見ています。

さらに、いくつかの重要な問いが投げかけられています。私たちは、かつての溝を埋め、最善のソリューションを求めて力を合わせるのでしょうか? こうした展開は、他の新興再生可能エネルギー企業の環境を変えてしまうことも事実です。

私は、シェルの企業文化が経営判断と同じレベルまで変化しているとは思いません。既存の石油とガスの世界は、再生可能エネルギーの世界とはまったく違うのです。私は彼らと対峙したくはありませんが、CO2の排出の上に成り立つビジネスモデルは正しくなく、遅かれ早かれなくなっていくべきものだという確信をもっています。
しかし、そこ(再エネの世界)に私たちがたどり着くために、大規模排出事業者が投資を通じてよりクリーンなソリューションをもつ企業を支援することは選択肢になりえないのでしょうか? それは見てみないとわかりません。

現状では、少数株主としてオランダのグリーンエネルギー事業者と協働することは大歓迎です。そこには共通のスピリットがあることに気づくでしょう。つまり、エネルギー転換を実現したいと願う人たちとの協働です。

いずれにしろ、これらの動きをポジティブに捉えることもできます。CO2を排出して数十億ユーロを稼いでいる企業が、ビジネスモデルを変えるために収益を使っているのです。これは世界にとっては良いニュースです。そして、それはシェルだけでなく、(フランスの石油資本メジャーである)トタルも同じことをはじめています。米国の石油メジャー以外は、みんなが取り組みはじめています。

―ネクスト・クラフトヴェルケが活動する分野の前途に控えているもっとも重要な展開は何でしょうか? 例えば、大規模エネルギー貯蔵技術が大きな影響を与えることを期待していますか?

ゼーミッシュ氏:私たちはエネルギー貯蔵が必要なのですが、(電気自動車など)電動モビリティの到来によってそれが急務となりました。地域の系統混雑のせいでエネルギー貯蔵もうまくいかないと懐疑論を述べる人も多くいます。たしかにそれらの課題は解決される必要がありますが、私たちは対応できる自信があります。それはワクワクしますが、深刻な技術的問題にぶつかることを恐れてはいません。また、そこには無数の新しいビジネスモデルがあります。

―電動モビリティはネクスト・クラフトヴェルケのビジネスに直接影響を与えますか?

ゼーミッシュ氏:場合によりますが、私は今後数年で起こるであろうことを楽しみにしています。近いうちに、電気自動車がディーゼル車の価格と航続距離に並ぶポイントに到達します。おそらく5年以内です。ひとつ確かなことは、私は絶対にもう内燃機関自動車を買わないということです! そして、すぐに誰もが同じように考えるでしょう。

ネクスト・クラフトヴェルケにとっては、取り扱う柔軟性が増えることを意味します。数百万台の自動車が夜間に充電し、朝までにだいたい80%ぐらいに貯める必要があるとしましょう。そこに制御可能なエネルギー貯蔵設備が多数現れます。これが私たちの選択肢になるのでしょうか?

これは、私たちが家庭分野に直接参入することを意味します。とはいえ、私たちが直接参入するべきなのか、それともこの分野を得意とするパートナーを見つけ、後方から彼らにサービスを提供するのがいいのでしょうか? 私たちは、これらの戦略的な問いに取り組まなければなりません。

しかし、ドイツでは実際にはまだ電気自動車の台数が多くないので、地理的には不利な状況にあります。対照的に、ノルウェーやオランダではすでに多くのビジネスモデルがあります。私たちは、電気自動車の可能性を理解するために、Jedlixと組んでオランダでのプロジェクトをすでに開始しており、そこでは、私たちは調整力を提供しています。それでも、ドイツの状況はすぐに抜本的に変わるでしょう。私たちは新しいパートナーを注意深く捜しています。例えば、自動車メーカーは電力分野に参入することもありえます。

―スタートアップの拠点としてのドイツをどのように評価していますか?

ゼーミッシュ氏:この国は、私たちにとってはとても良いと思っています。それでも、資金調達については他の市場と比べると課題が残ります。全体として、スタートアップを立ち上げ、育てる上で、複雑な手続きが問題だと感じたことはありません。また、ドイツの政治システムは安定していて、インフラも良くできています。どこでも行きたい場所へ行き、インターネット接続も信頼できるものです。それ以外に必要なものがありますか?

Next Kraftwerke(ネクスト・クラフトヴェルケ)

解説:「デジタル・ユーティリティ」であり、「発電所をもたない発電事業者」

ネクスト・クラフトヴェルケは、自社を「デジタル電力会社(ユーティリティ)」や「発電所をもたない発電事業者」と呼んでいる。同社は、8,700件を超える再生可能エネルギー発電所(合計約7,500MW)をデジタルに束ね、欧州最大のバーチャルパワープラント(VPP)として、ドイツと周辺国の商業・産業消費者と再生可能エネルギー電力のバランスをとっている。また電力取引事業者でもある。
2009年に設立され、現在約150人のスタッフが働いている同社には、2018年には6億2,770万ユーロの売上があり、売り上げの割合は電力取引がもっとも大きい。
同社のVPPは、どのように再生可能エネルギーが大きなシェアを占める電力システムを運用できるのかを示しており、CO2の削減に大きく貢献している。それは大規模な石炭火力発電所2基分に相当し、さらに、VPPは電力系統にアンシラリーサービスを提供している。
ネクスト・クラフトヴェルケは、再生可能エネルギー電力システムへの移行におけるデジタル化の可能性も描き出している。

インタビューでは、石油メジャーによる出資について言及されているが、その背景には、2017年にネクスト・クラフトヴェルケの株式の34%を取得した、オランダの再生可能エネルギー電力会社Eneco(エネコ)がシェルに買収される可能性があったことによる。しかしエネコは2020年3月25日に、三菱商事と中部電力による買収が完了している。
また、日本では、2019年より東北電力と共同でVPPの実証試験を行っている。

(Interview: Sören Amelang (Clean Energy Wire記者)、Translated:古屋将太)

翻訳オリジナル掲載:Energy Democracy “ネクスト・クラフトヴェルケの再エネ電力VPPが系統を安定化させる” by Clean Energy Wire, 2020年4月2日

元記事:Clean Energy Wire “Start-up Next Kraftwerke's renewable virtual power plant stabilises grid” by Sören Amelang, Jun 12, 2019. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

古屋将太
古屋将太

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程開発・計画プログラム修了、PhD(Community Energy Planning)。地域参加型自然エネルギーにおける政策形成・事業開発・合意形成支援に取り組む。著書に『コミュニティ発電所』(ポプラ新書)。共著に『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする』(学芸出版社)。

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