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ENEOS:これからのサービスステーションの役割は、地域エネルギー事業の拠点

ENEOS:これからのサービスステーションの役割は、地域エネルギー事業の拠点

2021年02月22日

ENEOSでは、カーボンニュートラルに向けてエネルギーを効率的に使っていく技術として、VPP(バーチャルパワープラント)の実証を進めている。何より、同社のVPP事業が特徴的なのは、全国に展開するSS(サービスステーション、ガソリンスタンド)を拠点の1つとして考えていることだ。実際にどのようなサービスを考え、そこに向けてどのような実証を進めているのか電気事業部電気事業開発1グループマネージャーの岡部純一氏にうかがった。

全国約1万3,000ヶ所のサービスステーションがENEOSの優位性

― 最初に、2020年末から2021年にかけて起きた、電力需給ひっ迫に関連した形で、質問させてください。今回のひっ迫は、LNGの供給不足が主要な原因であると報道されています。しかし、VPPの普及が十分ではない、ということも指摘できるのではないでしょうか。

岡部純一氏:直近の電力需給ひっ迫と、日々の需給変動は別に考える必要がありますが、JEPX(日本卸電力取引所)の価格やインバランス価格の高騰に対応する手段として、VPP(バーチャルパワープラント・仮想発電所*1 )および蓄電池の活用は有効です。

従来行ってきた実証試験では、需給調整市場をターゲットとしたVPPを中心に検証が進められていると認識しています。当社ではこれに加えて、小売・発電における需給変動に対応する手段としてのVPP構築を目指し、実証を進めています。

― 御社が描くVPP事業の特長の1つに、SS(サービスステーション、ガソリンスタンド)を活用した、地域エネルギー事業としての姿があると思います。あらためて、SSを活用していく点において、御社の優位性はどのようなものなのでしょうか。

岡部氏:当社は全国に約1万3,000ヶ所のSSを有しており、これそのものが当社の優位性になると考えています。SSというリアルアセットをエネルギー供給の新たな拠点として再構築できれば、将来の様々な事業展開につながっていくと期待しています。

具体的には、SSに太陽光発電や蓄電池を設置し、エネルギー利用を最適化する実証を進めている他、EV(電気自動車)カーリースを含むEV充電拠点としての整備や、石油・ガス・電気を一体とした供給の拠点とする構想などがあり、これらを個々の自治体のニーズに合わせて展開していくことを検討しています。

エネオスの考えるSSとVPPの形
VPPとサービスステーション 提供:ENEOS

VPPによるインバランス回避で小売電気事業の収益性向上も

― SSに設置したものだけではなく、地域には多くの分散型エネルギー資源(DER)があると思います。これらを統合して運用していく、いわゆるアグリゲーションビジネス*2 は、新たなエネルギー事業として期待されています。

岡部氏:地域との連携としては、静岡県静岡市(清水地区)の次世代型エネルギー供給地点の構築や、東京都東村山市におけるエネルギーコスト低減と環境負荷低減のための協業検討などを進めています。こうした取り組みによって、VPPやDR(ディマンドレスポンス*3)等による、地域の需給安定化とレジリエンス(回復力・強靭性)向上を実現することが可能だと考えており、アグリゲーションビジネスは有効なソリューションの1つだと認識しています。

―それぞれの地域エネルギー事業はどのようなものなのでしょうか。

岡部氏:静岡市では、ENEOSが所有する清水製油所跡地を中心に、次世代型エネルギーの供給地点とネットワーク(次世代型エネルギー供給プラットフォーム)を構築するというものです。

具体的には、製油所跡地と静岡市内の住宅、ビル、工場などに太陽光発電を中心とした地産地消による自立型エネルギーの供給体制を整備するとともに、蓄電池などを活用し、地域内のエネルギー需給の安定化・効率化に取り組むというものです。これにより、災害時でも一定量の電力供給が可能になります。併せて、モビリティを含めた新たなサービスや水素の活用も検討していきます。

また、東村山市でも、太陽光発電事業や再生可能エネルギー由来の電力の調達、VPP事業、災害対策としての非常用電源の整備などを検討し、2025年までに実現していくことを目指しています。

― 提供されるサービスの具体的なイメージはどのようなものなのでしょうか。

岡部氏:現在は構想中の段階ではありますが、当社が構築するVPPは、小売電気事業者や発電事業者としてのインバランス回避の機能を有することになります。こうしたVPP機能を地域新電力等に提供することで、収益性の向上につなげることもできると考えています。

将来的には、アグリゲーションビジネスを通じ、お客様へ何らかのインセンティブを還元できるようなサービスを検討しています。

エネオスの考えるVPPの形
各エネルギー源と供給プラットフォーム 提供:ENEOS

LNG在庫などの可視化で電力卸売市場の安定化を

― これまでのVPPの実証試験は、どのようなことを行ってきたのでしょうか。

岡部氏:2020年度は4つのカテゴリーで実証を進めています。

1つめは、SSにおける太陽光発電の発電量を有効に活用するような、蓄電池の充放電、制御最適化の実証です。これは、大阪府内の3つのSSで実証を行っています。

2つめは、製油所などで保有する自家発電設備の稼働余力の活用です。DRと自家発を組み合わせ、当社の電気事業の需給管理と連携することで、需給バランス調整や電力取引の収益化を目指しています。

3つめは、EVと充電器の最適な制御です。EVと建物の間で電気の相互供給に対応した普通充電器やV2Xに対応した充電器を通じて、遠隔による充放電制御を行います。

4つめは、産業用蓄電システムを活用した実証になります。遠隔操作で需給バランスの制御や市場価格に連動した充放電制御を行っています。

エネオスの考えるVPPとEV
VPPとEVの将来像 提供:ENEOS

― 次年度以降、新たに着手するVPPの実証については、どのようなものをお考えでしょうか。

岡部氏:これまでのVPP実証は、どちらかというと需給調整市場を想定した内容が多かったものと認識しております。今後は小売電気事業者としてインバランスの最適化などを目的とし、需給管理システムと連携する実証も進めていこうと考えています。

― 将来に向けて、さらに開発をすすめていく必要がある技術として、どのようなものがあるのでしょうか。

岡部氏:周波数制御などを含む、より高速な制御技術や、インバータによる疑似慣性力の創出などが必要だと考えています。

― 電力システムをより効率的なものにしていくために望ましい政策措置として、どのようなものがあるでしょうか。

岡部氏:電力卸売市場の市場価格に影響する情報、例えばLNG在庫等の情報について、これらを可視化することは、インバランスの最小化につながり、小売電気事業者にとって有益な施策だと考えています。政府にも、こうした施策をご検討いただきたいと思います。

(Interview & Text:本橋恵一)

*1 VPP(仮想発電所):需要家側エネルギーリソース、電力系統に直接接続されている発電設備、蓄電設備の保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御(需要家側エネルギーリソースからの逆潮流も含む)することで、発電所と同等の機能を提供すること(経済産業省)。
*2 アグリゲーションビジネス:VPPやDRを用いて、一般送配電事業者、小売電気事業者、需要家、再生可能エネルギー発電事業者といった取引先に対し、調整力、インバランス回避、電力料金削減、出力抑制回避等の各種サービスを提供する事業のこと(経済産業省)。
*3 DR(ディマンドリスポンス):需要家側エネルギーリソースの保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させること(経済産業省)。

EnergyShift編集部
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