テキサスとカリフォルニアの現在:コロナショックが直撃した米エネルギー産業 シェールガス企業の破綻と続く脱炭素 | EnergyShift

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テキサスとカリフォルニアの現在:コロナショックが直撃した米エネルギー産業 シェールガス企業の破綻と続く脱炭素

テキサスとカリフォルニアの現在:コロナショックが直撃した米エネルギー産業 シェールガス企業の破綻と続く脱炭素

2020年06月01日

新型コロナウイルスの感染が広がり、世界的に外出や渡航の制限が続く中、感染者160万人超と最も多いアメリカは深刻な影響が多方面で顕在化し始めている。最新の月別雇用統計では全州の失業率が上昇、多くの州で過去最悪を記録した。特にカリフォルニア、ニューヨーク、テキサスに集中し、この3州だけで失業者の4分の1超を占める。この3州は同時に、再生可能エネルギーをはじめとするクリーンエネルギーの導入が進む州としても知られている。
先般の記事「都市封鎖続くニューヨーク:コロナウイルスでストレスフルな現場、感染で死亡の報道も」で主にニューヨークの状況を書いたが、今回はカリフォルニアとテキサス、それぞれの今をニューヨーク在住、南龍太氏のレポートでお届けする。

全米最多、カリフォルニアで230万人失業の衝撃

2020年5月22日に発表された全米における4月の非農業部門の雇用者数は3月から2,000万人余り減り、1930年の大恐慌以来、最悪の減少幅を記録した。中でもカリフォルニア、ニューヨーク、テキサスの3州で計500万人を超え、カリフォルニアは約230万人と最多だった。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月4日に非常事態宣言を出したカリフォルニアは、5月上旬に小売業など一部の業種に限定して経済が再開した。しかし人々は感染が再び広がる「第2波」に怯えながら綱渡りの生活、企業活動を続ける。

米国50州は、それぞれ独自の憲法、法制を持つ。気候風土や歴史といった土地柄、エネルギー産業や自動車産業などの経済基盤、そして民主、共和各党の支持層の割合によって、州ごとに政府の方針は大きく異なる。特にカリフォルニアは人口4,000万人超と全米一多いこともあり、影響力は大きい。

国、連邦政府としてはトランプ政権がパリ協定を離脱するなど、地球温暖化対策をめぐる国際協調路線から逸しているものの、その方針に異を唱える州も少なくない。

その筆頭がカリフォルニアだ。全米きってのクリーンエネルギー先進地域で、州が排出する温室効果ガスを、2030年までに1990年比で40%削減する目標を掲げている。2018年には2045年までに州内の全電力を再エネなどのクリーンエネルギーで発電することを義務付け、関心を呼んだ。

事実再エネの比率は、州の公表値によると、2010年に13.90%から2015年に21.90%、2018年には31.36%と年々着実に上昇してきている。

Source: CEC-1304 Power Plant Owners Reporting Form and SB 1305 Reporting Regulations.  In-state generation is reported generation from units one megawatt and larger.
Contact: Michael Nyberg, Michael.Nyberg@energy.ca.gov Data as of June 24, 2019
カリフォルニア州エネルギー委員会より抜粋(上図)、作成(下図)

クリーンエネルギー分野も失業者最多

こうした背景から、カリフォルニアでクリーンエネルギー関連産業の仕事に就く人は多く、その分、今回のコロナ危機で失業した同産業の関係者は大勢いた。他州に先駆けてその影響が出て、また人数も桁違いだった。

米労働省のデータを基に、再エネ関連事業を手掛けるエンバイロメンタル・アントレプレナーズ(Environmental Entrepreneurs:E2)などがまとめた報告書によると、エネルギーの高効率化や再生可能エネルギーや蓄電、EV(電気自動車)といったクリーンエネルギーに携わる全米の労働者は、3月に15万人弱、4月に45万人弱が職を失った。2019年末には全米で336万人いたとされる労働人口は、この半年未満のうちに2割近く目減りしたことになる。

3月に失職した約15万人のうち、カリフォルニア州は2万7583人と、1万人未満だった他の49州と比べて突出していた。4月はさらに8万人近く増え、3、4月の合計で唯一10万人を超え、米国全体の失業者の17%を占めた。

E2の報告書「Clean Energy Employment Initial Impacts from the COVID-19 Economic Crisis, April 2020」より、3月は調整値

シェールオイル大打撃のテキサス

4月の失業者がカリフォルニアとニューヨークに次いで3番目に多かったテキサス州は約130万人が失職した。

3、4月のクリーンエネルギー関連の失業者も計3万人を超えて全州で2番目だったが、同州のもうひとつの特徴は伝統的に石油産業が盛んな土地であることだ。近年はシェール革命の中心地のひとつとして知られ、多くのシェール関連企業が集積している。

そのシェールオイルは原油の国際価格の指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で1バレル50ドルが採算ラインと言われていた。しかし3月にOPEC(石油輸出国機構)の盟主サウジアラビアと非加盟のロシアの不和により減産合意が決裂したのをきっかけに、原油価格が暴落、シェール事業の継続性に黄信号がともっている。

それが一部では既に赤信号へと変わった。最初に表面化したのは4月、シェール開発を手掛ける米中堅石油企業のホワイティング・ペトロリアムが、連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。
しかし、このシェール企業の倒産よりも先、油価が暴落する前から、テキサスを本拠地とする他の石油事業者の経営難は鮮明となっていた。石油開発のパイオニア・エナジー・サービシズが3月1日、トリポイント・オイル・アンド・ガス・プロダクションが同16日に、それぞれ連邦破産法11条の適用申請をしていたのだ。コロナウイルスによる外出規制、工場の停止などの影響が他国に先んじて出ていた中国で原油需要が激減したことも背景に、事業に行き詰まった。

コロナウイルスの影響が世界に広まった今、需要減はいかほどか。それを推し量る指標のひとつに、石油・天然ガスを掘削するリグの稼働数がある。その調査データで知られるベーカー・ヒューズによると、米国内のリグ稼働数は、5月22日に318基となり、1940年の統計を取り始めて以降、最低水準を更新している。1年前の983基から3分の1以下にまで落ち込んだ。
この減少分665基の過半はテキサスにあるリグだった。もともとテキサスは全米の石油・天然ガス生産量の約5分の1を占める一大生産地だが、リグ数だけを見れば343基と全体の半分強に上った。

ベーカー・ヒューズのサイトより

テキサスとニューメキシコ両州にまたがる米国有数の油田地帯のパーミアン盆地には、エクソンモービルが手掛ける主要なシェール事業がある。しかし昨今の原油安を踏まえ、生産の伸びを10%ほど抑えるとエクソンモービルは表明した。スーパーメジャー(国際石油資本)さえ、シェール開発を手控える動きがある中、中小のシェール事業者の苦境は推して知るべしであろう。

もともと大半のシェール企業は、採算に見合う量の油を回収できるか、採算割れするかのリスクとのせめぎ合いの中で事業を行ってきた。中小規模の会社はリスクマネーを調達しづらく、高い金利でお金を借りていたため、資金繰りに行き詰まりやすい素地があった。

油価は3月の急落後もさらに下値を探る動きが続き、シェール各社は戦々恐々とする。4月20日にはニューヨーク原油先物市場でWTIの5月限が暴落し、前週末比55.90ドル安の1バレル=“マイナス”37.63ドルで取引を終了、WTIがマイナス価格となる前代未聞の事態が起きた。取引時間中にはマイナス40ドル超まで下げる場面もあり、市場関係者は肝を冷やした。

やはりというべきか、ホワイティング・ペトロリアムに続きシェール企業の倒産が相次いでいる。4月27日にダイアモンド・オフショア・ドリリング(DOD)が、また5月15日にはブラックストーン・グループのシェールオイル会社、ガビラン・リソーシズが連邦破産法第11条の適用を申請した。いずれもテキサスに本社のある会社だ。

足もとのWTI原油価格は1バレル=30ドル台まで値を戻してはいるものの、シェール開発に見合う水準には遠い。石油各社にとって厳しい経営状況が続く。

行政は手を差し伸べるべきか、自由経済の淘汰に任すべきか

WTI原油先物がマイナスで取引を終えたのは、1983年の上場以来はじめてのことで、市場関係者、石油産業従事者には動揺が走った。

11月に控えた大統領選を意識してか、トランプ大統領の行動は早かった。翌4月21日にはツイッターで「米国の偉大な石油・天然ガス業界を決して失望させない。将来にわたって非常に重要な会社と雇用が守られるよう、資金支援の計画を作るよう指示した!」と投稿、シェールをはじめとするエネルギー関連企業の救済に乗り出した。

https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1252591306028785667

地元テキサス州当局も、シェール企業の懸念を共有する。州の石油生産やパイプライン輸送を所管するテキサス州鉄道委員会(TRRC)は、生産量の割当制を求める声が企業から上がっていると説明、半世紀ほど前に行われたことのある生産調整をめぐり、今後の対応が注目される。

一方で生産調整はすべきでないとの考えも、体力のある大手を中心に根強い。2015年から2016年にかけて原油価格が低迷した際には、多くのシェール企業が経営破綻に陥ったが、その淘汰によってシェール業界のエコシステムが再構築、強化されることともなった。

ただ、繰り返しになるが世界的な原油需要の急減に見舞われる今、2015年当時とは大きく情勢が異なる。行政的、公的に関与するべきか、それとも自由経済の淘汰に任すべきか、難しい局面を迎えている。

エネルギー産業は、それでも脱炭素を続けていく

今の原油の需要減がコロナウイルスに伴う全人類的な移動制限や経済停滞という特殊要因であることを加味しても、エネルギー産業の大きな方向性として、脱炭素は加速していく。この流れは今回のパンデミックの前も後も変わらない。

化石燃料関連の企業から投融資を引き揚げる「ダイベストメント」の動きは、2010年代以降、金融機関の間で強まっている。引き揚げを見込む機関投資家の運用資産は11兆ドルを超え、2014年の520億ドルから200倍以上になっているとの試算もある。クリーンエネルギー産業での分野での失業は深刻ではあるものの、潮流は変わらない。

これを受け、カリフォルニア州は直接、間接に脱炭素の道をひた走る。3月下旬、州内で感染者が急増していたさ中だったが、州の公共事業委員会(CPUC)は電力業界による地球温暖化ガス排出量の目標を新設、クリーンエネルギーによる発電能力を今後10年で倍増させる計画を明らかにし、脱炭素の旗幟を鮮明にした。

州は年明けからクリーンエネルギー導入を加速させていた。州内の主要都市、ロサンゼルスは年初にガス火力を50億ドルで建て替えることはせず廃止し、代わりに2035年までに供給力3,000MWの大規模エネルギー貯蔵施設の導入を表明した。
また3月には、太陽光パネルのファースト・ソーラーが州内で手掛ける出力100MWの大規模太陽光発電所(メガソーラー)に20MWのエネルギー貯蔵が併設されるプロジェクトの電力購入契約を結んだと発表、完成する2022年を見据えた長期の取り組みとなる。

金融機関のダイベストメントではないが、間接的な脱炭素の動きがさまざまに進む。同州を代表する企業グーグルは今月、化石燃料の採掘を手掛ける企業向けにカスタマイズしたAI(人工知能)ツールや、マシンラーニング(機械学習)システムの提供を取りやめることを宣言した。

https://twitter.com/NBCNews/status/1263095650662612993

脱炭素を進める一方、州内最後の原発は2025年までに閉鎖を迎える。
今や、天候や時間帯によっては発電供給量の6割を再生可能エネルギーが賄う時もある。

2020年5月25日午前11時半時点のカリフォルニアの電力供給に占める各電源比率、California ISOのサイトをもとに編集部作成

新型コロナウイルス感染拡大を受け、オンラインによる自宅での仕事や授業が増えたが、その普及を支えたGoogle MeetもZoomも、カリフォルニア企業のサービスだ。
エネルギー産業、テック産業、行政が知恵を絞るカリフォルニアの現状は、コロナ後を見据えたエネルギーの未来、ひいては生活の在り方を示唆するヒントとして、今後も注目を集めそうだ。

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南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。

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