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電化率99%を目指すインドネシア マルク諸島ではマイクログリッドのプロ育成に力を入れている

電化率99%を目指すインドネシア マルク諸島ではマイクログリッドのプロ育成に力を入れている

2021年03月15日

国土が1万をこえる島々で構成されているインドネシアでは、島単位で独立した送電網、いわゆるマイクログリッドを構築する取り組みが進められている。再エネ利用と人材育成というメリットももたらすこの取り組みについて、YSエネルギー・リサーチ代表の山藤泰氏が解説する。

連載:世界の再エネ事情

空港で先進的に導入されているマイクログリッド

限られた地域で電力を供給するシステムであるマイクログリッドは、送電系統が国土をカバーしていない地域に適しているとよく言われるが、実際に実現しているのは先進国からになっている。

米国のペンシルバニア州ピッツバーグにあるハーツフィールド・ジャクソン国際空港が、必要な電力を自給自足できるマイクログリッドになったことをきっかけに、全米の空港が次々にマイクログリッド化している。

最初の事例になったジャクソン空港の場合、マイクログリッドに移行するにはきっかけがあった。2017年12月、送電線から電力を受け入れる電気設備に火事が起き、2つの変電所が大きな損傷を受けた。このため11時間もの間、停電となり、空路1,200便が欠航をやむなくされたのだ。これが直接のきっかけとなり、マイクログリッド化の構想が始まったということだ。空港には太陽光発電パネルを設置できるスペースが豊富にあるということも有利に働いている。

2005年の愛知万博では、先行的なマイクログリッドの利用がなされている。日本でも具体化事例は増えるだろう。

2021年電化率99.9%が目標だが、簡単ではないスパイス諸島

途上国についてはどうかと思っていたところに、インドネシアの事例を知る機会があった。

インドネシアは世界最多の島から構成された国であるため、全土に電力網を拡充するのには極めて不利となる。名前がついている島の数が13,346だが、世界2位のフィリピンの島数が7,109だから、島それぞれに電気が使えるようにする難しさも理解できる。

インドネシア政府は、2021年には電化率を99.9%にするという目標を掲げている。2014年の電化率は84.35%だったのが、2020年の数字が99.20%になったというのは政府の奨励策が極めて有効に働いたと言えるが、21年の目標を達成するのはかなり難しいかも知れない。

インドネシア政府は、国営電力事業PT PLN(Persero)に送電網の拡充をさせようとしているが、そのプロジェクトの中心になるのが、マイクログリッドの設置運用となっている。これは、災害の多い国の対応策としても有効な物だと認識されたためだ。また、同政府は、2023年に再生可能エネルギー比率を23%にする目標を掲げているが、これにマイクログリッドが大きく貢献することは確かだろう。

インドネシアの地図
インドネシアは1万3千以上の小さな島々で成り立っている

だが、マイクログリッドをインドネシアの東部にあるマルク州にある1,422の島とそこにある1,200の村に設置を進めている事業者の状況を知ると、簡単な話ではないことが分かる。地図で分かるように、首都ジャカルタからの距離は極めて遠く、事業者がマルク諸島へ行くこと自体に日数がかかり、危険が伴うこともある。

この地域はスパイス諸島とも呼ばれており、いろいろな香辛料になるナツメグなどを育てる農家が多い。このような農漁業者170万人に、再生可能エネルギーを利用したマイクログリッドからの電力を使えるように作業をしているのはニュージーランドのInfratec社だ。しかし、必要資材を送り込む難しさを克服してマイクログリッドを設置したとしても、その後、制御システムも含めた全体の維持管理をする人材がいないことが次の課題となる。

マイクログリッドのプロフェッショナルを育成

こうした課題に今後対応するために行われようとしているのが、マルクのAmbonにあるPattimura公立大学のキャンパスにミニグリッド・トレーニング・ラボを開設するという取り組みだ。このプロジェクトはニュージーランド政府の支援で行われている。

ちなみに、Pattimuraは、マルク出身のインドネシアの英雄の名前だそうだ。ラボでは、村にある5軒の家屋を想定した負荷を6kWの太陽光発電パネルと15kWhの蓄電池に結ぶが、系統から受電することもできるようになっている。

中古の太陽光パネルで実習 Pattimura University students, led by Lecturer Antoni Simanjuntak, currently learn from old PV panels that they’ve gathered. | Image credit: NZMATES

新型コロナウイルスのパンデミックによって、プロジェクトのスタートは遅れているが、このトレーニングに参加すれば、大学工学部の単位も貰えることになっている。大学の講義で電気工学の理論を学んだ学生が、実際のモデルを自分の手で組み上げ、制御システムの設定方法を実地に試して経験することができる。

この若者達に期待されているのは、卒業後、実務を知るエンジニアとして、再生可能エネルギーを基盤としたマイクログリッドをマルクの島々に定着させるプロフェッショナルとして活躍して貰うことだ。

このトレーニング・ラボが実績を出せるようになると、地域のエネルギー・プロバイダーも社員を派遣して学ばせるということも起こり、大学の事業として収入を生み出すことが出来るようになる可能性もある。これが具体的な成功事例として育ち、実績が知られるようになれば、インドネシアに留まらず、アジア・アフリカの途上国に再生可能エネルギーを利用したマイクログリッドを普及させるだけの影響力を持つことが期待される。

(この連載は月1回更新です)

山藤泰
山藤泰

1961年大阪ガス株式会社入社。1980年代に40kWリン酸型燃料電池のフィールドテスト責任者、1985年ロンドン事務所長、1994年エネルギー・文化研究所長を経て2001年退社。2006年YSエネルギー・リサーチ代表。 最近の訳書に「スモール・イズ・プロフィタブル」(省エネルギーセンター 2005年) 「新しい火の創造」(ダイヤモンド社 2012年)。最近の著書では、「よくわかるスマートグリッドの基本と仕組み」(秀和システム2011年改訂)など、訳書・著書多数。

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