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出光興産も生産撤退 日本は太陽電池製造の使命を終えたのか

出光興産も生産撤退 日本は太陽電池製造の使命を終えたのか

2021年10月14日

出光興産は10月12日、太陽電池の生産から撤退すると発表した。100%子会社のソーラーフロンティアは日本国内で唯一、大規模な生産拠点を持っており、太陽電池製造の最後の砦と言われていたが、中国メーカーとの価格競争に敗れ、撤退に追い込まれた。市場からは「日本は太陽電池製造の使命を終えたのではないか」という声があがっている。

一時は世界展開を狙ったソーラーフロンティア

ソーラーフロンティアは世界市場の9割以上を占める結晶シリコン系太陽電池とは異なり、銅(C)、インジウム(I)、セレン(S)を発電層に使ったCIS太陽電池の製造を手がけてきた。CIS太陽電池は結晶系太陽電池と比べ、kWあたりの実発電量が高い。また発電層の厚みを約100分の1程度にでき、原材料の使用量が少ないといった特徴を持つ。

旧昭和シェル石油は、独自開発したCIS太陽電池の事業化に向け、2006年、昭和シェルソーラー(現・ソーラーフロンティア)を設立し、2007年から商業生産を開始する。同社は大量生産によるコスト削減を目指し、宮崎県の国富工場の生産体制を増強し、2011年には約1GWの体制を構築。2012年にスタートしたFIT制度(固定価格買い取り制度)を追い風に販売量を大きく伸ばしていく。

さらなる大量生産、そして海外展開を見据えて、2015年には宮城県に年産150MWの東北工場を稼働させ、「グローバルプレーヤー」としての地位を確立すると意気込んでいた。

しかし、FITの買い取り価格は2015年度を契機に引き下げ額が大きくなり、マーケットは転換期を迎えていた。そこに中国メーカーによる価格競争が加わって、急速に収益が悪化。2016年度の決算において107億円の特別損失を計上する。2017年9月には東北工場の生産を休止し、国富工場に集約。太陽光パネル事業の立て直しを図るも、販売量は伸び悩み、2021年3月期には電力・再生可能エネルギー部門の損失が173億円にのぼり、生産撤退をまぬがれることはできなかった。

かつてソーラーフロンティアの社長をつとめ、オンラインで記者会見した平野敦彦出光興産取締役は「中国勢の規模拡大のスピードに追いつけなかった」と述べ、2022年6月をめどに国富工場での生産を停止し、今後は中国など海外メーカーによるOEM(相手先ブランドによる生産)の調達に切り替えるとした。

経産省はFITを起爆剤に日本企業の挽回を図ったが

日本の太陽電池メーカーは1990年代から高性能を売りに世界を席巻しはじめ、2000年代にはシャープ、京セラ、三洋電機(現・パナソニック)、三菱電機の日本4社の世界シェアは50%を超えていた。

しかし、2010年代に入り、中国勢が太陽電池生産に本格的に参入しはじめると状況が一変する。巨額投資による大量生産で一気にコストを低下させた中国勢が世界市場を席巻しはじめたのだ。中国勢との価格競争に敗れて、日本企業が撤退に追い込まれることを懸念した経済産業省は、「FIT制度で国内市場をつくり出し、日本企業の太陽電池部門を黒字化させ、大型投資を実施させることで、世界シェア奪還を狙っていた」とされている。

ところが、日本企業の多くは「FIT制度が終われば市場は縮小する。需要が急落することがわかっている中で、なぜ、大型投資をしないといけないのか。足りなければ中国勢から買ってくればいい」と判断したという。市場関係者は当時について、「液晶パネルや原子力発電所など、日本の電機業界が実施した大型投資はことごとく失敗して、巨額赤字を抱えていた。負け戦ばかり体験した当時の経営者は太陽電池への投資に尻込みした」と振り返る。

一方、中国メーカーの思想はまったく異なり、「コストを半分にしたら、2倍売れるんじゃないか」という考えで毎年、生産能力を拡大させていったという。

日本から消えた太陽電池メーカー

その結果、日本勢の世界市場は今や1%程度だ。かつてのドル箱だった日本市場においても、太陽電池の出荷量シェアが2019年度ついに5割を切ってしまう。2021年度第1四半期では海外シェアは58%だ。

日本の太陽電池メーカーは、次々と撤退や事業売却に追い込まれており、三菱電機は2020年3月末で太陽電池の生産から完全に撤退した。パナソニックも2021年に完全撤退を余儀なくされた。京セラはかつて国内3ヶ所、海外4ヶ所(中国、メキシコ、チェコ、アメリカ)に生産拠点を持っていたが、集約を繰り返し、滋賀県の野洲工場と中国・天津工場の2ヶ所を残すのみとなった。シャープも自社生産を続けてはいるが、JPEA(太陽光発電協会)の統計によると、2020年度の国内出荷量5,128MWのうち、国内生産量は796MWにとどまる。京セラ、シャープともに販売の中心は、すでに中国メーカーからのOEM製品になっている。

そして今回、ソーラーフロンティアが生産撤退を表明したことにより、事実上、日本から太陽電池メーカーが消えることになった。中国メーカーの日本法人幹部は今回の報道を受け、「残念だが、日本は太陽電池そのものをつくるという使命を終えたのではないか」と述べている。

Text:藤村朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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