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北米の熱波の影響、ニューヨークでは節電要請、日本の夏は大丈夫?

北米の熱波の影響、ニューヨークでは節電要請、日本の夏は大丈夫?

2021年6月末から、北米では熱波に襲われている。カナダのブリティッシュコロンビア州では気温が50℃近くを記録し、死者が数十名に上っている。米国シアトル州では需給ひっ迫により、計画停電が行われた。熱波は西海岸だけではなく東海岸にも及んでおり、ニューヨーク市では電力の急増で設備が過熱し、電力会社が節電を呼びかける事態となっている。日本でもこの夏は電力需給ひっ迫の可能性が指摘されており、他人事ではない。

1,000年に一度の熱波で対応を迫られる電力会社

北米では週末から高気圧におおわれ、特に北西部は異常な熱波に襲われている。報道によると、カナダのブリティッシュコロンビア州リットンでは、50℃近い気温に達しているという。また、同州ではこの暑さによって数十名の方が亡くなっている。元々寒冷で、夏でも涼しく、エアコンが普及していない地域であるため、暑さへの対応をしきれなかったのかもしれない。

今回の北米の熱波は、別の報道によると、1,000年に一度の暑さだとも言われている。米国でもワシントン州やユタ州などが熱波で40℃を超える気温を記録している。

一方、北東部でも北西部ほどではないにせよ、やはり熱波の影響を受けており、ニューヨーク州ではやはり40℃近い気温となっている。

熱波は電気事業にも大きな影響を与えている。急増する電力需要に対し、電力会社は節電を呼びかけているが、さらに計画停電や電圧を下げる措置なども行っている。

日本でも猛暑と発電所の計画外停止が重なれば、この夏にも需給ひっ迫の可能性がある。そうしたことを念頭に置きながら、米国の電力会社の対応をお伝えする。


[Data/Image] from Climate Reanalyzer (https://ClimateReanalyzer.org), Climate Change Institute, University of Maine, USA.

15億ドルの投資でも不十分だったニューヨークのConEdison

ニューヨーク市に電力を供給している電力会社のConEdisonは、今年の夏について電力需要の増加に対応して、変圧器や送電線の増強など、15億ドルの投資を行ってきた。こうしたことに加え、再生可能エネルギーへの接続を増やし、蓄電池についての増設も行っている。さらに顧客に対しては、省エネをよびかけていた。特に32.2℃を超えると節電をよびかけることになっていた。

熱波は6月最後の週末からニューヨーク市を襲った。27日にはすでに対応と顧客へのよびかけを行っている。

顧客に対しては、「暑さ、湿度、およびエアコンによる電力需要増のため、送配電線が過熱し、停電につながる可能性がある。今後数日は雷雨をもたらす可能性もあり、送配電システムに影響を与え、停止を引き起こす可能性がある」としている。

しかし日曜日以降、実際に停電が発生し、30日の段階で累計約3万3,600人が影響を受けた。7月1日の段階でもなお、約1,900人が停電の影響を受けている。

通常の電力供給が難しくなったことから、ConEdisonでは29日に、一部の地域で電圧を5%下げる措置をとった上、デマンドレスポンスのプログラムも発動した。電力の供給を強制的に減らすというものだが、これは日本では通常は考えられない対応だろう。しかしこれでも十分ではなく、30日には一部のエリアで電圧を8%下げるということまで行っている。

7月1日のConEdisonのツイート「作業員が機器の修理を行っている間、クイーンズの一部の地域の電圧を8%下げました。また、ニューヨーク市およびウェストチェスター郡全域のお客様に、猛暑の中での節電をお願いしています」

こうした対応にもかかわらず、30日には電力需要が昨年のピークだった1,174万kWを超えて1,230万kWに達した。

猛暑にもかかわらず、エアコンが十分に使えない状況に対し、ConEdisonは30日、ブルックリンでドライアイスを配布することまで行っている。

ConEdisonが対応しているのは熱波による猛暑だけではない。熱波と高い湿度がもたらす急激な暴風雨への準備もある。送電線が切断されれば、即座に復旧にあたることになる。

ただ、嵐が過ぎれば熱波もおさまるのではないかとも見られている。

6月30日のConEdisonのツイート「本日、ブルックリンのグリーンポイントにあるモーガン・アベニューの角近くにある274 Nassau Ave.にて、猛暑の影響で停電したお客様にドライアイスを配布いたします。」

熱波による山火事対策も

ワシントン州とアイダホ州で電力を供給しているAvistaもまた、熱波の影響を強く受けている。

6月25日の段階で、最初に取り組んだのが、送電線の運用だ。熱波と乾燥の影響により、山火事の危険性があるためだ。これは、猛暑で電力需要が伸びることが予想されるにもかかわらず、送電線が十分な運用ができない可能性を示すものだ。

28日には、猛暑による電力需要の急増を受け、計画停電を実施した。これも供給力の問題ではなくシステムの運用の問題ということだ。基本的には、平日の午後1時から午後8時にかけて、1時間単位で地域ごとに計画停電を行っていくというものになる。とはいえ、停電していない場合でも需要増を抑制するため、Avistaは該当する時間帯での節電をよびかけている。暑さに対応するためには、冷房温度を上げるだけではなく、午前中に強い冷房を入れた上で、午後に停止させることで、暑さを乗り切る、という提案をしている。

計画停電で影響を受けたのは、29日には約2万2,000人に達している。

6月28日のAVISTAのツイート「気温の上昇に伴い、電力使用量が大幅に増加しています。7月1日(水)の午後1時から8時までの間、お客様に節電をお願いしています」

電力会社の節電対策にも注目

ConEdison、Avistaともに、顧客に対しては積極的な節電をよびかけている。需要を抑制しなければ、広範囲な停電にもつながりかねないからだ。ConEdisonの場合、通常時から、エネルギー効率の高い機器への買い替えやLED照明の導入、中小企業向けのエネルギー診断などのプログラムを提供している。

こうしたことに加え、夏の対策として、エアコンの温度設定、オーブンや洗濯機などの早朝ないし深夜の利用、カーテンなどによる断熱、留守時の電化製品のスイッチオフとタイマーの利用による帰宅30分前のスイッチオンなどだ。また、ホームページを開くと、「熱波の間は大型の電化製品やエアコンの複数台の利用は避けてください」というお願いが示されている。

さらに、スマートサーモスタットの導入にあたっての割引など、夏に向けたプログラムも追加している。

Avistaもまた、顧客に対して同様の節電を提案している。特にユニークなのは、レンジを使用するかわりに、屋外バーベキューの使用まで提案していることだ。見方によっては、そこまでして節電しなくてはいけない、ということになる。

今回の熱波は1,000年に一度だという見方もあるが、今後、さらに地球が温暖化すれば常態化する可能性もある。その意味では、地球の将来を暗示しているのかもしれない。

日本にとっても、他人事ではない。毎年のように最高気温が更新される一方、ピーク電源の不足によって供給力が不足し、需給がひっ迫する可能性がある。電力会社も消費者も、少なくともそうした認識を持つ必要があるだろう。

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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