コロナウイルスに揺るがされるSDGsと国連 各機関の対応と日本の現状は | EnergyShift

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コロナウイルスに揺るがされるSDGsと国連 各機関の対応と日本の現状は

コロナウイルスに揺るがされるSDGsと国連 各機関の対応と日本の現状は

世界的なコロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも影響を与えている。コロナウイルス感染拡大の防御はそのままSDGs達成にもつながる。同時に、目標達成に程遠い脆弱な立場にある人々が取り残されているという現状もある。先進国ですら感染が拡大している状況は、SDGsが途上国だけの課題ではないことも示している。そして、日本の現状はどうなのだろうか。
国連の取り組みを中心に、コロナウイルスとSDGsについて検討する。

国連とコロナウイルスとの戦い

国連はSDGsを採択した立場からも、コロナウイルスによる影響に積極的に対応する立場だ。ウェブサイトにはトップページからコロナウイルスの情報が並んでおり、危機感が伝わってくる。また、コロナウイルス・コミュニケーション・チームを組織し、情報を提供している。2020年3月23日、SDGsに関連した記事が公開された。いくつかのSDGs目標に対応する形で、コロナウイルス対策を示したものだ。以下、その概要である。

目標3:すべての人に健康と福祉を
世界保健機関(WHO)の医療専門家が各国政府の対応をサポートしているのは当然だが、ユニークなのは、国際サッカー連盟(FIFA)と協力してキャンペーンを展開していること。曰く、「防御するだけではサッカーの試合に勝つことはできない」。

FIFA TV 公式ビデオより

目標4:質の高い教育をみんなに
国連教育科学文化機関(UNESCO)によると、3月20日の時点で、世界中で約12億5,000万人が、コロナウイルスの影響で学習に影響を受けているという。言うまでもなく、休校が続く日本も例外ではない。UNESCOは遠隔教育、科学的協力、情報支援のために政府を支援しているという。

目標5:ジェンダー平等を実現しよう
国連女性機関(UN Women)は、各国政府にコロナウイルスに関するチェックリストを送付した。ヘルスケアをはじめとするケアワークなどで、女性は社会の中で役割を担っており、女性と女児の権利を守ることを支援している。
これには、女性の比率が高い看護師の置かれた立場に関する不平等や、コロナウイルスに起因する女性や子供への暴力への対応が求められている、という背景がある。

目標6:安全な水とトイレを世界中に
コロナウイルスの感染を防ぐためには手を洗うことが効果的だが、そもそも世界で30億人が自宅に手を洗う設備がないという。こうした状況の改善を加速させる必要がある。

目標8:働きがいも経済成長も
国際労働機関(ILO)は、コロナウイルスにより、約2,500万人が職を失う可能性があると予測している。ILOのシニア・エコノミストのJanine Berg氏はブログで、非正規雇用は必要な社会的保護を受けられないであろうことを警告している。さらにコロナウイルスによる危機は、各国が基本的なレベルの社会保障をすべての人に提供する絶好の機会だと強調している。国連の4月8日の記事では、ILOのコメントとして、最大1億9,500万人の雇用が「うしなわれる」としている。

目標10:人や国の不平等をなくそう
コロナウイルスによる危機は、女性や子供、障害を持つ人、疎外された人や避難民を含む脆弱な人たちに集中する。3月24日、アントニオ・グテレス(António Guterres)国連事務総長は、難民キャンプなどへの支援を訴えている。また、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、国境管理が必要だとした上で、難民の安全管理も必要だとしている。

目標16:平和と公正をすべての人に
感染拡大と戦うためには、即時世界的な停戦を求める、グテレス国連事務総長はそのように訴えている。

目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsのすべての目標を達成するには、政府、民間部門、市民社会組織を含むすべての参加が必要であり、コロナウイルスとの戦いも例外ではない。

コロナウイルスを打ち負かし、よりよい世界に:世界が今、必要としているのは連帯です

2020年3月31日には、国連はコロナウイルス対策の計画を発表している。その中には、コロナウイルスからの復興のための基金設立も含まれており、最初の9ヶ月で10億ドルを必要としているということだ。

3月31日のグテレス国連事務局長のブリーフィング UN Photo/Mark Garten

グテレス国連事務総長は、コロナウイルスが人々の生命と生活を奪っているという認識を明確にしている。対策には、世界のGDPの10%から数十%に達する規模の(経済への)刺激策が前提となっている。
特に優先するのは、最も脆弱な立場にいる人々に対する財政刺激策、中小企業や働きがいのある仕事、そして教育への支援だという。

グテレス国連事務総長は「世界が今、必要としているのは連帯です」と強調している。感染拡大に対する有効性は「単一の政府ではなく、グローバルな調整」によってもたらされ、「新しいタイプの世界的および社会的協力の始まり」の可能性を結論づけている。

4月8日の国連の記事では、グテレス国連事務総長が「WHOが絶対的に重要」だとする一方で、WHOのテドロス・アダノム(Tedros Adhanom)事務局長は「コロナウイルスを政治化する必要はない」と述べている。これは言うまでもなく、WHOへの資金の拠出停止について言及する米国のドナルド・トランプ大統領を念頭に置いたものだろう。

各国連機関の動き

国連機関ではWHO以外にも、さまざまな機関が連携している。

国連開発計画(UNDP)は、途上国における感染拡大の危機に対応している。途上国で、2,200億ドルの損失が予測される中、UNDPのアヒム・シュタイナー(Achim Steiner)総裁は危機について、健康に対する危機だけではないとした上で、「生命だけではなく、権利、機会、尊厳が、世代全体から失われます」と述べている

パレスチナにも感染が拡大している UNDPウェブサイトより

また、国連経済社会局(UN DESA)は、コロナウイルスに対して脆弱な人々として、高齢者、障害者、若者、先住民族をあげ、5つの重要なアクションとして、以下に示した

  • COVID-19によって深刻な影響を受けている人々に社会的保護と経済的救済を提供します。
  • 公衆衛生、特にCOVID-19に関する情報をすべての人がアクセスできるようにします。
  • 公衆衛生に関する情報が、人々への敬意と差別のないものであることを確認してください。
  • 新しいテクノロジーとデジタルツールを宣伝して、孤立した人々をサポートする。
  • COVID-19の緊急対策と緩和策が包括的であることを確認します。

リュウ・ジェンミン局長は、「社会全体の健康は、最も貧しい人々の健康にかかっている」と述べている。

先進国・日本とSDGs

国連が懸念しているのは、主に発展途上国における感染拡大だ。
とはいえ、数字の上では、深刻な感染拡大に陥っているのは、米国をはじめ、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、英国などの先進国だ。これら先進国でさえも、SDGsに向けた課題を抱えていたということが言えるだろう。例えば、医療体制の不備であり、あるいは、米国の感染者の割合がアフリカ系米国人に多いといった、人種と貧困の問題がある。

では、日本はどうなのか。先の、国連の取り組みに即して検討する。

まず、指摘したいのが、「目標4:質の高い教育」だろう。広い地域で、2020年3月から5月6日の連休明けまで、休校となっている。この間、教育活動については、ほぼ何もなされていないといっていい。
だが、残念なことに、日本では休校と学習の問題を指摘する声は少ない。むしろ目立つのは「子供を預かってもらえないと働けない」「給食以外に満足な食事がとれない子供はどうすればいいのか」といった指摘だった。

実は日本は、「目標1:貧困をなくそう」「目標2:飢餓をゼロに」という課題を抱えていたことが明らかになってしまった、ということではないだろうか。

目標8:働きがいも経済成長も」という面でも、課題があった。多くの人が職を失う可能性に対して、政府は無策のように思われる。それだけではなく、ILOのJanine Bergシニア・エコノミストの指摘「非正規雇用は必要な社会的保護を受けられないだろう」は、日本にもあてはまっている。逆に言えば、日本も「システムの再構築の機会」となるのだろうか。

目標10:不平等を減らす」という点ではどうだろうか。女性、子供、障害者などにとって、平等な社会となっているのかどうか、これらについても、あらためて問われるべきだろう。元々、日本は受け入れている難民は少ないとして、その背後に、外国人に対する不平等はないか。
SDGsの思想には「誰も置き去りにしない」ということがある。では、日本はこうした思想に合致した政策、行動がとられているのだろうか。

目標17:パートナーシップ」においては、政府、民間部門、市民社会組織などすべての参加が必要だとしているが、それぞれのパートナーシップが適切なものとなっているのかどうかについても、問われるべきだろう。

気候変動とコロナウイルス

最後に、「目標13:気候変動に具体的な対策を」にも触れておく。

2020年4月5日に、国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン(Inger Andersen)事務局長は、コロナウイルスの影響でCO2の排出削減が起きたとしても、これを環境への恩恵とは見なさないように警告している

むしろ、この機会に、エネルギーをよりクリーンでグリーンなものにしていく必要があるという。そうした変化がなければ、CO2排出削減は、一時的なものになってしまう。

もっとも、報道によれば、カナダ産オイルサンドや米国産シェールオイルなど、高コストの原油は、原油安によってこれまで以上に競争力が下がっている。あとは、原油安によって、感染拡大が去ったあとの世界で、原油の需要拡大が起こらないようにしていく必要があるだろう。

これもすでに報道されているが、気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)を含む、さまざまな会合が延期となっている。こうした会議で、あらためて、気候変動がコロナウイルス以上の長期的課題であることが強く認識されるようになるのかどうか、こうした点も問われている。

参照

(Text:本橋 恵一)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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