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宮古島:第三者所有モデルを起爆剤に官民共同でエネルギー自給率を上げる

宮古島:第三者所有モデルを起爆剤に官民共同でエネルギー自給率を上げる

2019年12月20日

沖縄県の宮古島は2050年にエネルギー自給率48.85%という目標を盛り込んだ「エコアイランド宮古島宣言 2.0」を打ち出している。ちょっと無謀にも思える目標ではあるが、離島であるがゆえ、輸送費が大きい石油による発電はコストが高い。逆に太陽光発電のほうが安いのが実情で、これを伸ばしていくことでエネルギー自給率を向上させていくことは可能だ。自給率向上の第一歩としてスタートしたのが、第三者所有モデルを用いて家庭に無料で太陽光発電システムを設置していくという官民連携した手法だ。実際どんなことをしているのかを藤本健氏が詳しく紹介する。

第三者所有モデルで、多くの住宅に無料で太陽光発電と蓄電池を

「宮古島は新空港ができたこともあり、観光に沸いていて浮足立っている側面もあります。でも地域のエネルギーにかかる費用は大きく、すべてのエネルギーを島外に頼っているとせっかくの観光収入もみんな外に出ていってしまいます。やはり地域循環することの意義は大きく、改めてエネルギー自給率の向上を市民のみなさんとともに進めていきたいと考えています」と語るのは宮古島市 企画政策部 エコアイランド推進課 エコアイランド推進係 係長・三上 暁氏。

宮古島市 企画政策部 エコアイランド推進課 エコアイランド推進係 係長・三上 暁氏

その具体的な方法として進めだしていることの一つが、宮古島市内のベンチャー企業である株式会社宮古島未来エネルギー(以下MMEC)による第三者所有モデルの推進だ。

第三者所有モデルとは、住宅などの屋根に載せる太陽光発電を住民ではなく、第三者が設置するというもの。これにより住民は設置費用を負担することなく屋根に太陽光発電システムを設置することができ、そこで発電された電気を使うことができる。ただし、その電気利用料を設置者に支払うというもので、宮古島に限らず全国でいろいろ展開されてきた手法だ。

ただしMMECが行う第三者所有モデルは、従来のものとはいろいろ違う点がある。

最大の違いはFITでの売電収入を目指した事業ではないこと。エネルギーコストが高い離島だからこそ、グリッドパリティが実現できており、それなりの価格で沖縄電力に売電できるだけでなく、できる限り自家利用を促す形にしているという点が大きく違う。

また、スタート当初はエコキュートとのセットが基本となっており、現在は蓄電池とのセットが基本で、それも含めて無料での導入が可能になっているのだ。

前回の記事でも触れたとおり、宮古島は台風の影響で停電することが頻繁にあり、停電に備えるための蓄電池のニーズは非常に高いのだ。さらに電気利用の基本料金は0円で、電気代は税抜29円/kWhと従来の電気代と同じか、やや安い価格設定になっている。

宮古島未来エネルギー資料より

市民の関心向上が課題

これだけのものが無料で設置できるのだから、宮古島市の住民全員が即、導入したがるようにも思うが、実際にはそうスムーズにはいっていないようだ。

設置の条件として戸建て住宅であること、太陽光発電分として35平方メートル以上の屋根の設置面積が必要であること、20年間の契約が必要で途中解約すると解約金が発生すること……、といったハードルがある。

しかし、それ以上に市民の関心が低いことが課題だ。比較的高齢な住民が多く、新しいことへの不安が先に立つということがあるのかもしれない。

「2050年に48.85%という目標は掲げたものの、住民の感度が低いのです。エコ・環境という文脈以上に、地域経済の活性化に役立つということを理解してもらおうとワークショップなどを展開しているところです。一過性のワークショップで終わることなく、多くのキーパーソンを巻き込んで対話も進めています。それと同時にSDGsの考え方や地域経済の捉え方が人によってバラバラなので、その言語を共通化しつつ、宮古島みんなで進めていけるようにしたいと考えています」(三上氏)。

この第三者所有モデルは市営住宅への設置からスタートした。現在の戸建てに設置するタイプと比較するとパネルなども小さいが、多くの家庭でエコキュートとセットとした形で、設置し、今年春から稼働している。

市営住宅の屋根上ソーラーパネル
戸建て用の屋根上パネル
戸建て用のエコキュート

調整力のためのエネルギーマネジメントシステム

第三者所有モデルでのMMECの展開は、蓄電池と併設で無料というところだけが珍しいのではない。より大規模なエネルギーシステムへ発展させていくための、さまざまな取り組みを同時に行っているのだ。実はMMECの代表取締役である比嘉直人氏は、宮古島市などから委託を受けて再エネ普及のための実証実験などを行う株式会社ネクステムズの代表取締役も兼ねた人物。そして、MMECの第三者所有モデルにおいても、蓄電池、エコキュートなどを利用しながら、大規模で展開していけるような仕組みを構築しつつあるのだ。

株式会社宮古島未来エネルギー代表取締役 比嘉直人氏

「単純に太陽光発電をどんどん増やしていくだけでは、沖縄電力からの系統電力とバランスが取れなくなってしまいます。いかに調整力を高めるかが問われており、沖縄電力とも常に協議をしつつ、進めています」と比嘉氏は話す。

つまり、蓄電池を設置しているのは系統電力とのバランスをとることが大きな目的となっているのだが、単にピークカットの実現といったレベルではなく、非常に強力な調整力の実現を目指した実証実験をさまざまな方向から行っているのだ。

具体的なもののひとつが、太陽光発電のすり切り運用だ。

「太陽光発電は、出力の急な変動が問題とよくいわれています。確かに発電した電気すべてを系統に流そうとすると、変動幅は大きいのですが、短時間だけ大きく出力されるものはすり切ってしまうことで、出力を安定させることができます。また、エコキュートを活用した調整ということも行ってきました。つまり昼間発電した電気を、そのまま系統に流すのではなく、電力需給状況を監視しつつ、ヒートポンプでお湯を沸かすことに利用すれば調整力として活用することができます」と比嘉氏は解説する。

株式会社ネクステムズの資料より

さらに、EV充電器追加プランも用意し、昼間の太陽光発電による電力をうまくEVの充電に活用するといった取り組みも行っている。

今後の調整力の実現のための取り組みとして試験運用中なのが、農業用水のくみ上げにかかる電力利用時間をズラすこと。前回の記事でも紹介した通り、宮古島の主な産業はサトウキビ栽培などの農業であり、そこで使う農業用水は、すべて地下ダムで貯められた水のくみ上げで賄っており、そのくみ上げに大きな電力を要している。

「島内のほとんどの農家は兼業農家であるため、帰宅時間にスプリンクラーを回して水まきを行っています。そのため、日没くらいに山の上の貯水池=ファームポンドが空になり、夜間にくみ上げを行っています。できるだけ利用する農業用水を偏りなく利用できるようにするため(電力利用の調整のため)、各農家ごとに水を撒く曜日を設定していますが、さらにその時間を効率よく管理できればと考えています」と三上氏。

島内のスプリンクラー

「それを実現するための簡易的な装置を開発し、現在試験運用を行っているところです。これは、信号を受信するとバルブを開けたり、閉めたりできる装置で、それに使う電力も小さな乾電池一つで実現できるようになっています。これを遠隔地から制御できれば、大きな調整力になると考えています」(比嘉氏)

このように、調整力にもさまざまな工夫を凝らしつつ、エネルギー自給率48.85%を目指してスタートしたばかりの宮古島。

戸建て住宅への第三者所有モデルだけでなく、事業所への設置もスタートさせており、老人ホームなどへの設置も始まっている。次回は、現在の課題や、ここから先の展開、さらには全国へどのように広げていくかといった点について見ていく。

藤本健
藤本健

DTM、デジタルレコーディング、デジタルオーディオを中心に執筆するライター。インプレスのAV WatchでもDigital Audio Laboratoryを2001年より連載。「Cubase徹底操作ガイド」(リットーミュージック)、「ボーカロイド技術論」(ヤマハミュージックメディア)などの著書も多数ある。趣味は太陽光発電、2004年より自宅の電気を太陽光発電で賄うほか、現在3つの発電所を運用する発電所長でもある。

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