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「売電収入が2割減るかも」太陽光発電事業者が悲鳴、4月から九州で発電停止が急増 新ルールの影響か

「売電収入が2割減るかも」太陽光発電事業者が悲鳴、4月から九州で発電停止が急増 新ルールの影響か

EnergyShift編集部
2021年04月23日

主力電源化を目指す再生可能エネルギーにとって、普及を妨げる課題が改めて浮上している。再エネが急拡大する九州で、4月から太陽光発電事業者に対して発電停止を求める回数が急増しているという。なかには19日間のあいだで12回も発電停止を受けた事業者もおり、「売電収入が2割減るかも」といった悲痛な声があがっている。事業者たちは、4月から変更された発電停止ルールが原因ではと指摘する。

2021年度は発電停止回数が95回に!?

太陽光発電を中心に再エネが急速に普及する九州では、昼間の電気が余って、大規模な停電が発生する恐れがかねてより指摘されてきた。九州電力は大規模停電を防ぐため、2018年秋、日本で初めて太陽光発電の発電停止を求める「出力制御」に踏み切り、それ以降、断続的に太陽光発電事業者に対し、発電停止を要請している。

2018年度の発電停止回数は26回だったが、2019年度は74回まで増加。ピーク時平均で112万kWの発電が止まった。112万kWはおよそ原子力発電1基分に相当する。制御率は年間4.1%であった。2020年度は70〜80回程度になる見込みだ。

ところが、2021年度の発電停止を予測した九州電力によると、年間制御率こそ4.6%と微増を予測するものの、年間停止回数が95回に増加するという。この予測結果から、「出力制御」ルールの見直しが指摘されるとともに、売電収入が減ってしまう事業者からは「収益への影響」を不安視する声があがっていた。

電気が余りすぎても停電は起こる

そもそもなぜCO2を排出せず、しかも燃料費がタダの再エネ電気の発電を止めなければならないのか。

電気は発電する量と使う量のバランスが崩れると、周波数が乱れる。周波数が乱れると、発電所などが壊れてしまう可能性がある。そのため発電所などは故障を防ぐため、自動的に停止するよう設定されており、次々と発電所が自動停止してしまうと最悪、大規模停電が起きる恐れがある。

しかも、停電は電気が余りすぎても、需給バランスが崩れるため起こってしまう。

電気が余って需給バランスが崩れる危険性がもっとも高いのが九州だった。

再エネで発電した電気を固定価格で買い取る制度が始まって以降、日照時間が長い九州では太陽光発電の導入ラッシュが起き、その導入量は2020年9月時点で998万kWと、2012年度末に比べ約9倍まで増加した。今後も導入は加速し、九州電力では2030年までに約1,500万kWまで拡大すると予想している。1,500万kWといえば、原発15基分だ。

さらに九州では、鹿児島県の川内原発と佐賀県の玄海原発の4基が順次再稼働し、安定して多くの電気を発電するようになっている。

その一方で、電気を使う量は、過ごしやすい春や秋は冷暖房があまり使われず、特に休日などは工場が止まるため、使う電気の量が大きく減ってしまう。九州エリアの最低電力需要は880万kW程度で、すでに太陽光発電の導入量が上回っており、春や秋の昼間は電気が余るようになっていた。

2018年10月、太陽光初の発電停止

そこで九州電力では、需給バランスをとるため、まずは出力を調整しやすい火力発電所の発電量をギリギリまで絞り、さらに揚水発電所で昼間の余った電気を使って水の汲み上げを行う。それでも電気が余る場合は、九州と本州を結ぶ送電線を使って、余った電気を本州に送ってきた。

しかし、それでもなお電気が余ってしまう場合は、太陽光発電や風力発電などの発電を止める「出力制御」を実施することが、ルール上認められている。

九州電力では、このルールに則り2018年10月、初めて太陽光発電を止める出力制御に踏み切っていた。

ただその当初は、太陽光発電所に遠隔地からオンラインで発電停止させる機能が備わっていなかったため、停止要請を受けた事業者はわざわざ発電所に出向いてスイッチを切る必要があった。そのため、九州電力は実施前日に対象事業者に電話とメールで発電を停止するよう要請、さらに同じ事業者ばかりが停止要請を受けないよう輪番制とし、割り振ってきた。

ところが天気は読めない。前日夕方に指令を出しても、当日天気が悪化すれば、必要以上に発電停止をさせてしまう可能性がある。

経済産業省では出力制御を効率的に、そして公平に実施するため、新たに参入する発電事業者に対し、出力制御の可能性を示すとともに、発電停止を遠隔操作できるようオンライン制御装置の導入を条件とする。オンライン制御であれば、実施当日2時間前の需給や天候予測をもとに、停止要請の可否を判断できるため、効率的な出力制御ができるからだ。

徐々にだが、この条件に承諾し再エネ事業に参入した事業者は増えつつある。だが、すでに太陽光発電の導入量は1,000万kWに近づき、昼間の電気がさらに余る中、経済産業省では2020年末、出力制御のルール見直しに動いていた。

発電停止が急増、事業者「4月の発電量は前年の6割」

これまですべての事業者を対象に輪番で停止するルールから、アナログ制御しかできない事業者で前日対応しつつ、オンラインで発電停止ができる事業者に対して、「当日2時間前指令、1%刻みで発電量を減らす」一律パーセント制御に変更することで、きめ細やかな出力制御を図るというものだ。

九州電力ではこの4月より、新ルールの運用を実施している。

ところが、この新ルールの運用が始まると、オンラインで発電停止ができる事業者への停止要請が急増しているという。九州で太陽光発電事業を実施する事業者によると、4月19日までの間に受けた停止要請は12回にのぼっているという。

4月某日の発電停止の様子

もっとも発電する昼間だけ完全停止しているのがわかる。

出力制御は国が決めたルールであり、制度上、発電できなかった分の補償はない。

事業者は「4月の発電量は前年の6割程度にとどまるかもしれない」と不安を口にする。また別の事業者からは「4月末から始まるゴールデンウィーク中はずっと発電停止が続くのでは」「今秋の発電停止も急増する」という声すらあがる。さらに「こんなに発電停止が急増すると、売電収入が2割減ってしまう」「太陽光発電だけでなく、九州は風力発電も増加している。発電停止回数が増えることはあっても、もはや減ることはない」という見方すらある。

2020年4月(下図)と2021年4月(19日まで・上図)の発電量比較


2020年4月は天候が悪い日以外は順調に発電していたが、2021年4月は一転、天候が悪い日以外、ほとんど発電停止を受けているという。

出力制御で事業者の投資意欲が減退

政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」の達成を表明し、その実現に向け、再エネを最大限導入するとしている。折しも4月22日からは気候変動サミットが開催されており、菅総理も出席。国際社会から2030年までの再エネ導入量や温室効果ガスの削減量について、野心的な目標数値の上積みが求められている。

ある再エネ発電事業者は、「電力需要がもっとも多い東京電力でも、オンラインで発電停止ができるよう制御装置の導入が求められ始めた。出力制御は日本全国で起こってもおかしくない」と語ったが、北海道や四国などでも発電停止が起こる可能性がある。そうなればますます行き場のない再エネ電気が増えるだろう。

それだけに出力制御で事業者の投資意欲が削がれないようにする対策が急務だ。

日中、太陽光発電でつくった電気を蓄電池に貯めたり、あるいは水素製造などに利用する。また九州や北海道と本州をつなぐ送電線の増強などもさらに考えていかなければならない。

政府は脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金を創設した。この基金は次世代蓄電池の研究開発にも使われる見込みだが、脱炭素の実現はこうした技術開発の動向いかんにかかっている。

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