テスラのものづくり魂「メガキャスティング」 モデルYフロント・リア部のアンダーボディを一体成形 | EnergyShift

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テスラのものづくり魂「メガキャスティング」 モデルYフロント・リア部のアンダーボディを一体成形

テスラのものづくり魂「メガキャスティング」 モデルYフロント・リア部のアンダーボディを一体成形

2021年06月22日

テスラの巨大自動車製造工場は、ギガファクトリーとよばれている。なかでも、「ギガプレス」とよばれる、車体を一体成型できる巨大ダイキャストマシンは、同社のものづくり能力の高さを示すものとなっている。導入の背景や運用状況について、ジャーナリストの田中茂氏が解説する。

テスラ・ウォッチャーズ・レポート(5

モデルYフロント部のアンダーボディを一体成形

テスラ関連のニュースサイトTESLARATIは5月26日、テスラがテキサス州で建設中の「ギガファクトリー5」において、「モデルY」のフロント部アンダーボディ(車の下回り)を大型のダイキャストマシンを使用して生産している模様が撮影された動画を掲載した。

また、5月31日には、カリフォルニア州フリーモントにある「テスラファクトリー」にて、同じく「モデルY」のフロント部アンダーボディが工場内の敷地に保管されている様子が、ユーチューバーのGabeincal氏によるドローン空撮映像で掲載された。


出所:IDRA

フロント部アンダーボディを生産しているのは、長さ64フィート(19.5m)、高さ17フィート(5.3m)、締付力6,000tのイタリアの鋳造機械メーカーIDRA社製の「ギガプレス」だ。テスラは、2020年5月に1台目の「ギガプレス」の設置準備作業を「テスラファクトリー」で開始。9月からの試運転を終え、モデルYの「リア部アンダーボディ」を「ギガプレス」で製造していた。

「ギガプレス」が行うダイキャストとは、金型鋳造法のひとつで、アルミニウムや亜鉛、マグネシウムなどの金属を高温で溶かし、金型に流し込んで製造する。今回のニュースでモデルYでは、車全体の3分の2にあたるフロント部・リア部のアンダーボディが鋳型成型されることになるが、リア部のアンダーボディにおいては、「ギガプレス」導入前は、70回に渡るプレス加工、押出成形、鋳造を経て作られていた。



出所:Tesla

アンダーボディのシンプル化を徹底

かつてからテスラCEOのイーロン・マスク氏は、「モデルY」のベース車両となっている「モデル3」において、後部のトランク部分に約100個の部品を組み合わせて製造していたことを問題視しており、軽さや製造にあたるロボット・作業員のコスト削減の観点から、できる限りシンプルなつくりにしようと考えていたという。

この点についてマスク氏は、自動車の分解調査を行うMunro & Associatesの創設者であるMunro氏とのインタビューの中で、このように話している。「シングルキャスティングになることで、隙間埋めやシーリングの必要がないし合金もいらなくなった。モデルYではリア部アンダーボディをキャスティングしただけで、ボディ工場のサイズを30%削減できた。実際モデルYのボディラインでは約1,000台のロボットがいたが、300台削減した。前部をボディキャスティングしたら、さらに300台減らせるだろう」

また、前部、後部と接続する中央部では、バッテリーパックでボディーシャーシを一体化する製造法をあげ、次のように述べている。「多数あるバッテリーをハニカム状になっている芯材に合わせて配置する。そうすると、上からみた際、車の重心が中央に集まるため、慣性モーメントが低くなり、車のコントロールがしやすくなる。同時に剛性も保たれるので一石二鳥だ」

つまり、マスク氏は、車のアンダーボディはできる限りシンプルに設計することを心がけており、その一つの解決策がIDRA社製の巨大ギガプレスの導入であり、ハニカム状の芯材を使用したバッテリーパックとボディーシャーシの一体化なのである。

さらに広がりを見せる鋳型成型

このような流れは、モデルYを製造する他国にある工場にも波及している。3月21付のTESLARATIによると、ドイツ・ベルリンに建設中の「ギガファクトリー4」でIDRA社製締付力6,000トンの「ギガプレス」が2台据え付けられたという。テスラは、既に同工場で8台の「ギガプレス」を設置すると書面で公表している。

また、2020年の10月からIDRA社製締付力6,000トンの「ギガプレス」を使用している上海にある「ギガファクトリー3」では、すでにモデルYの「リア部アンダーボディ」の製造を開始しているが、6月10付のTESLARATIでは、テスラとNioのサプライヤーであるWecanが、ダイキャストマシンを製造している中国の企業Lijin Technology社から、締付力6,000トンの力を持つ「ギガプレス」2台、同4,500トンを3台、同3,000トンを1台、同2,800トンを1台注文したことが、テスラオーナーのTwitterで取り上げられたことをあげ、中国の企業もダイキャスト製造市場に参入している傾向が表れてきているとしている。


IDRA社YouTubeより

IDRA社製の「ギガプレス」は、モデルY以外の車両でも動き始めている。4月1日付のTESLARATIによると、IDRA社が締付力8,000トンの「ギガプレス」を受注したという。

受注先と用途はまだ公表されていないが、大方はテスラが発注者との味方が強く、「サイバートラック」のような大型車やSUVのシャーシを製造するように設計されているという。また5月10付のTESLARATIでは、IDRAの親会社であるLK Techが、9,000トンを超える力の「ギガプレス」を製造中だとしている。

Munro氏とのインタビューの中でマスク氏はダイキャスト技術について、冷めるときに熱変形する問題をあげ、熱処理がうまくいかず大型の部品が作れなかった苦労を話した。

しかし、現在ではその問題も解決され、モデルYでのリア部アンダーボディにおいては、100個の部品構成から、2ピース、1ピースと成長し、現在はフロント部でも1ピース製造を進めている。そしてその技術はモデルYよりも大型の「サイバートラック」まで広げようとしている。マスク氏の際限ない問題解決への探究心が現在のテスラの成長を支えているといえそうだ。

田中茂
田中茂

産業アナリスト。日常生活に欠かせないエネルギー使用のあり方について、制度・ビジネスの観点から調査・研究しています。

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