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サステナビリティ経営の将来は、大きな三方良しで PwC Japan 坂野俊哉氏、磯貝友紀氏にきく

サステナビリティ経営の将来は、大きな三方良しで PwC Japan 坂野俊哉氏、磯貝友紀氏にきく

EnergyShift編集部
2020年11月13日

企業が経営の中心に据えるべきサステナビリティ・アジェンダは、環境と社会の各分野に複数ある。環境ひとつをとっても、気候変動問題だけではなく、水や廃棄物に加え、今後は生物多様性への対応が必要となってくる。企業がいかにしてこうしたアジェンダに対応していくのか。前回に引き続き、PwC Japan グループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリードである坂野俊哉氏と磯貝友紀氏に話をおうかがいした。(全2回)

前編 企業のサステナビリティを「見える化」する はこちら

気候変動の次は、生物多様性が注目される時代へ

―サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスは、PwC Japanグループのさまざまなプロフェッショナルによるサービスを横串でつないでいくということですが、確かに、企業経営、M&A、法務、財務などさまざまな分野でサステナビリティは問われます。クライアントにサービスを提供する際の具体的なイメージをお聞かせください。

坂野俊哉氏:クライアントとは、いろいろな分野でさまざまな議論をしています。サステナビリティだけを分離したアジェンダはありません。例えば、中期経営計画にどこまでサステナビリティを入れていくのか、どのように連動させていくのか、人材育成はどうするのか、といったあらゆるアジェンダについて支援しています。あるいは、オペレーションを効率化したり、デジタル化を推進した結果、環境への影響やバリューチェーンの人権はどうなるのか、こうしたテーマをこちらから投げかけていきます。

サステナビリティは、部門を超えた共通のテーマとして議論されなくてはなりません。また、日ごろからクライアントの声に耳を傾け、課題の把握に努めていく必要もあります。


PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス 坂野俊哉氏

―現在、どういった分野の取り組みが大きいのでしょうか。

磯貝友紀氏:サステナビリティ・アジェンダには大きく分けて7つのテーマがあります。環境課題は「CO2・気候変動」、「水」、「廃棄物と資源循環」、「生物多様性」の4つです。社会課題は人権問題として、「身体的人権」、「精神的人権」、「社会的人権」の3つがあります。

サステナビリティ課題とは


出典:PwC

環境における4つのテーマは互いに結びついています。気候変動は重要な課題として、多くの企業が真剣に対応するようになってきました。資源循環については、そもそも多くの資源は使いすぎると当然枯渇します。それを置き換えていくのがバイオマスなどであり、繰り返して使うのがサーキュラーエコノミーです。プラスチックの問題もこの分野に入ります。

水は日本ではあまり問題視されていませんが、2050年には世界人口の44%が必要な水にアクセスできなくなります。水をどのように有効に使い、適切に人々にいきわたらせるか、グローバル企業はそこに意識を合わせています。

PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス 磯貝友紀氏

磯貝氏:生物多様性はビジネスとの関連性が低いように見えますが、これも大きな課題です。気候変動も水も資源循環も最終的には生物多様性に影響します。3つの課題の帰結として生物多様性があるということです。

実は、TCFDと同様に、生物多様性をテーマとしたタスクフォースTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)については、2021年の正式な検討機関の設立に向けて準備が進んでおり、先進的なグローバル金融機関はすでに高い関心を持っています。

実際に、林業や農業、医薬品などさまざまな産業がバイオマスに依存しており、今後、食品会社などは生物多様性を毀損していないか投資家から問われることでしょう。このように生物多様性については3年後から5年後に、気候変動と同じ波が来ると考えています。

サステナビリティトランスフォーメーション支援


出典:PwC

―生物多様性についても、気候変動と同じく、生物多様性条約がありますが、多くの人にとっては理解が進んでいない分野のような気がします。

坂野氏:生物多様性というと、マグロの資源保護などのイメージがありますがそうではなく、生態系そのものが毀損されないようにするということです。

そもそも、人類の食料は生態系に依存しています。例えばワインが好きな方は多くいらっしゃいますが、平均気温が上昇するとワインの品質にも影響します。それは気候変動の問題だけではなく、それによって生態系が毀損されているからです。

気候変動はすでに対応が必要な段階まできています。それを受けて、企業もネットゼロを実現しよう、そのためにビジネスを変えよう、というところまできています。しかし他のテーマについては、まだリスクがあると考えられる段階であり、行動段階までには至っていません。

部門長クラスの理解を得ることがブレイクスルー

―日本のサステナビリティ経営の将来像をどのようにお考えですか。

坂野氏:現在、外圧やソフトローに対応するため、サステナビリティに対応せざるを得ないといった相談は増えています。内発的に変革し、サステナビリティで世界をリードする日本企業はまだ少ない印象です。そこで外発的な圧力を使いながら、内発的な変革に転換させていくことが重要になってきます。

磯貝氏:会社の中をよく見ると、内発的にサステナビリティに取り組まなければならないと考える人が出始めていると思います。昔は(環境やCSRなどの)担当者からの相談が多い印象でしたが、今はCEOが、エクスポージャー(リスクにさらされている割合)が高いと指摘しても組織が動かないといった悩みが多く聞かれます。

坂野氏:サステナビリティ経営には、社長を含めた経営層が組織にコミットすることが求められます。しかし、社長がやろうとしても部門長などが壁になり、集団的な意思決定ができない場合があります。したがって、部門長などとのアライメント(調整)をどうするかが鍵となってきます。

社長は経営全体を見ますが、部門長は自分が所管する事業を中心に考えます。社長になってはじめて、サステナビリティの重要性を理解する方が多いのですが、このことが部門長にはなかなか伝わらない。部門長含め経営層全体で理解を深めていくことが、サステナビリティ経営のブレイクスルーになるでしょう。

磯貝氏:その際に非財務情報の数値化は重要な役割を果たします。部門長は日々の利益にフォーカスしています。それに対し、サステナビリティは、今日の取り組みの結果が出るのは3年後となるような中長期にわたるものです。したがって、事業部の利益との間にタイムラグが存在します。

私たちは、そうした点も含めて非財務情報が自社の財務に与える影響を「見える化」し、サステナビリティのKPIを設定して評価の対象にしていくことを考えています。

欧州では、サステナビリティのターゲットを設定し、その達成度に応じて報酬をもらう仕組みになっている企業があります。サステナビリティで利益を出し、これが報酬につながる、この構造を日本企業にも取り入れたいと考えています。

10年単位で未来を考えた経営を

―中期経営計画だけではなく、メガトレンドに合わせて10年単位で考えていくことも、企業には必要かもしれません。

坂野氏:これからの10年は現在の延長ではありません。ディスラプティブ(破壊的)に変化する将来が待っています。そのドライバーの1つがテクノロジーです。したがって、10年後にどのような世界になるのかを想定し、そこからバックキャスティングで考えなくてはいけません。

サステナビリティもテクノロジーと同様に、何を達成しなければならないのか、そのギャップをどのように埋めていくのか、KPIをどのように設定し経営に反映させるのか、またそれらをどのように評価していくのか、などを踏まえて、10年間の経営の方向性を検討していくことが必要になっています。

―経営の在り方が大きく変化するということですね。

磯貝氏:かつて、日本には「三方良し」に誇りを持つ経営がありました。三方は、社会、顧客、自社の3つで、それは日本の良い伝統でもありました。しかし、今となっては、この三方では小さく、この三つを包含するようなより大きな「三方良し」が求められています。

未来はグローバルな「三方良し」を必要としています。現代的なシステムとして、サステナブルな「三方良し」を内発的に実現する、そういった経営が求められます。

(Interview & Text:本橋恵一、安達愼、Photo:関野竜吉)

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プロフィール


坂野 俊哉(ばんの としや)

PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス、エグゼクティブリード
20年以上の戦略コンサルティング経験を有し、企業の経営戦略、事業ポートフォリオ、事業戦略、海外戦略、アライアンス/M&A(PMIを含む)、企業変革などのプロジェクトに多数携わる。
特に、企業の経済的価値に加え、環境・社会的価値を向上させるためのサステナビリティを軸にしたトランスフォーメーションを支援。対象とする業界は、総合商社、保険を中心に、エネルギー、化学、自動車、産業機器、電気電子、消費財、流通、公共など多岐にわたる。生命保険会社、ブーズ・アンド・カンパニー、PwCコンサルティングStrategy&を経て現職。東京大学経済学部卒、コロンビア大学MBA。


磯貝 友紀(いそがい ゆき)

PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス、テクニカルリード
世界銀行をはじめとした公的機関において民間セクター開発専門家として勤務した経験を有し、開発途上国ビジネス市場に関して幅広い知識を持つ。サステナビリティ部門の国際開発チームをリードし、国際協力機構(JICA)、世界銀行グループ国際金融公社(IFC)などのインクルーシブビジネス、インパクトインベストメントなどの官民連携プロジェクトを主導。リスクの高い途上国市場への日本企業の参入を、官民連携スキームを活用して促進する。インクルーシブビジネス事業戦略策定、市場分析、事業計画策定、モニタリングと評価の分野におけるアドバイザリーサービスの提供に従事。

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