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線状降水帯

最近続く大雨は「線状降水帯」かも!?発生原因や事前の備えを紹介

2021年10月03日

線状降水帯は、近年頻繁に発生し、大きな被害をもたらしています。この記事では、線状降水帯について、その発生メカニズムや発生の予測が難しい理由などを説明し、線状降水帯による集中豪雨による被害から身の安全を守るためにできることなどについて解説します。

線状降水帯とは?発生のメカニズム

近年頻繁に発生する急な大雨はもしかしたら「線状降水帯」かもしれません。線状降水帯の用語については、専門家の間でもさまざまな定義が使われています。ここでは気象庁の予報用語による説明を紹介します。

それによると、「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域」と説明しています。

細かく言えば、気象庁が2021617日から発表している「顕著な大雨に関する情報」の中では、線状降水帯の基準を、「前3時間積算降水量が100mm以上の分布域の面積が500平方km以上」、その形状が「長軸・短軸比2.5以上の線状」、前述の「領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上」などと定められています。

線状降水帯の発生メカニズムについては、未解明な点が多いとされていますが、日本で多く起こるのはバックビルディング(後方形成)型と呼ばれる線状降水帯で、形成のメカニズムは次のように考えられています。

(1)暖かく湿った地上付近の風が、山地や寒気にぶつかって上昇気流が起き、積乱雲が発生する

(2)発生した積乱雲は激しい雨を降らせながら上空の風で流されて一方向に移動する

(3)風上側の最初に積乱雲が発生した場所で新たに積乱雲が発生する

(4)この積乱雲は上空の風に流され、前に発生した積乱雲と同じ方向にゆっくり移動する

(5)このような積乱雲の形成と移動が繰り返されて、線状降水帯が形成される

線状降水帯はいつから発生するようになった?

日本では、1990年代から気象レーダー画像に線状の降水域が見られると指摘されていたものの、統計的な調査はされていませんでした。そこで、気象庁気象研究所では1995~2009年の4~11月の期間のレーダー観測の分析を行ったところ、台風による直接的な事例を除いて261事例中の約6割の168事例で、線状の降水域が確認されました。

日本で線上降水帯が一躍注目されるようになったのは、広島市で2014年8月に発生した豪雨で、70人以上の犠牲者が出ました。

線状降水帯の寿命は「1時間」

線状降水帯の寿命は1時間程度といわれています。積乱雲は、地上付近の暖かい湿った空気が上昇して、空気中の水蒸気が凝結して積乱雲として成長します。積乱雲の雲粒は雨粒にまで大きくなると、雨となって地上に降ります。積乱雲の寿命は、この雲粒が発生し、雨となってなくなるまでの時間なので、その時間は1時間程度になります。

これに対して、雨が降る時間は、雨粒が高度数千kmの上空から落ちてくるのに一定の時間がかかるので、雨を降らせる時間は積乱雲の寿命の半分程度になります。しかし、1つの積乱雲の寿命が1時間程度でも、別の積乱雲が次々とできるので、同じ場所に長時間の雨を降らせ、集中豪雨となります。

線状降水帯とゲリラ豪雨の違い

線状降水帯は積乱雲が連続して発生し、長さ50km~300km、幅20km~50kmという広範囲で長時間に大雨が降るのに対して、ゲリラ豪雨は、気象用語では局地的大雨と呼ばれていて、10km四方程度の狭い範囲で小さな規模で突発的に起き、ほとんどは1時間程度で止みます。

5月や晴れた夏の日の夕方に発生することが多く、太陽の強い日差しで地面が熱せられて地表近くの空気の温度が上がると、上昇気流によって積乱雲が成長して局地的に短時間に強い雨を降らします。都市部ではヒートアイランド現象でゲリラ豪雨が発生しやすく、竜巻や突風、ひょうなどの激しい気象現象を伴うこともあります。

事前に予測することが難しいため、降り方によっては中小河川の急な増水や氾濫、アンダーパスの冠水、地下街の浸水などによって大きな被害が発生します。また雨が降っていない地域でも、上流でゲリラ豪雨があると川の水位が急に上がることもあるので注意が必要です。

線状降水帯の発生事例

線状降水帯が発生した場合、どのような被害をもたらすかについて、2014年の広島豪雨と2020年の球磨川の氾濫の二つの事例で見てみましょう。

広島豪雨の事例

2014年8月19日夜から20日1時~4時に広島市安佐南区から安佐北区にかけて、積乱雲群が発達して線状降水帯が形成され、停滞しました。この線状降水帯は横軸幅10~15km、長軸幅は最大約100kmに及び、3時間降水量が200 mmを超える局地的豪雨をもたらして、同時多発的に大規模な土石流が発生しました。

土砂災害は、がけ崩れ59か所(36%),土石流107か所(64%),合計166か所で発生し、土石流災害としては過去30年間の日本で最多となる死者74名、重軽症44人を含む甚大な災害を発生させました。

そのほか、道路・橋梁、河川堤防等の公共土木施設の被害は1,333件にのぼり、浸水4,100棟以上、停電6,900戸、断水2,662戸、下水道48か所被災などライフラインも大きな被害を受けました。避難所に避難した人は、ピーク時には904世帯2,354人となりました。

球磨川氾濫の事例

2020年に全国を襲った「令和2年豪雨」では、日本三大急流の一つで、国が管理する熊本県の球磨川が氾濫して大きな被害を出しました。

熊本県には7月3日から4日にかけ球磨川流域に線状降水帯が11時間以上という異例の長さで停滞して、3時間に330mmの雨が降る集中豪雨が襲いました。雨量は計画降雨を超過し、24時間雨量(流域平均)は400mmを超え、4日午前6時には「100年に1度」(日降水量が422mm)レベルを超えました。

球磨川流域では、12か所で氾濫・決壊(堤防決壊は2か所)し、人吉市の中心市街地など約1,060haが浸水し、その他河川も含め約7,400戸(棟)の家屋が被災しました。この水害で、65名が死亡、2名が行方不明となりました。このうち14名が亡くなった特別養護老人ホーム「千寿園」のある球磨村では、浸水の深さが最大9mに達しました。

なぜ線状降水帯の発生予測が難しいのか?

線状降水帯は数時間で記録的な大雨が局地的に発生し、大きな被害をもたらします。これは、線状降水帯の発生を予測することが困難であるためで、予測できれば、自治体による避難エリアの指定や避難勧告・指示が可能になり、被害を減らすことができます。

しかし、現気象庁では、線状降水帯を予報するのは、「現時点では困難」としています。その理由として、台風などと比べて局地的な現象であること、予報の根拠となる地表の水蒸気量の観測地点が少ないこと、形や風向きなどによって急に発生することが多いことなどが挙げられています。

そのため、急がれているのが、水蒸気量を計測する技術の開発です。線状降水帯は、太平洋上の暖かくて湿った空気が上昇して次々と積乱雲をつくって雨を降らせます。この線状降水帯が形成されるためには、積乱雲発生のエネルギー源である水蒸気が大気下層に十分に存在することが条件になります。

そこで、水蒸気が大量に存在する場所が確認できれば、線状降水帯の予測が可能になります。現在、水蒸気観測網の整備や線状降水帯の発生予測などに関する研究が国や民間の研究機関で進められており、その成果が待たれています。

線状降水帯に備えて、今出来ること

線状降水帯はいつ、どこで発生するかは予測がつきません。しかし、「備えあれば憂いなし」とのことわざもあるように、あらかじめ、備えることはできます。

線状降水帯に備えて、今できることは、ハザードマップを確認することと、防災グッズを確保することです。そして、日ごろから自然現象や自然災害に関心を持ち、まず身の安全、わが家の安全を守ることを心掛けましょう。

ハザードマップを確認する

市町村では、洪水ハザードマップや土砂災害ハザードマップを作成しているので、自分の住んでいる地域の洪水や土砂災害が起きやすいところを確認するとともに、避難場所も記載されているので、避難方法や避難場所などをあらかじめ確認しておきましょう。

ハザードマップは、国土交通省や都道府県が河川の氾濫や土砂災害から住民の生命を守るために危険な区域を指定し、それに基づいて市町村が洪水ハザードマップや土砂災害ハザードマップを作成しています。

洪水ハザードマップでは、氾濫した場合に浸水が想定される区域を洪水浸水想定区域として指定、土砂災害ハザードマップでは住民の生命・身体に危害が生ずる恐れがあると認められる区域を土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域に指定して、住民の円滑な避難を確保することを求めています。

防災グッズを確保する

災害時に必要になる防災グッズは以下のものです。持ち出し袋に入れて、いざというときに持ち出せるようにしておきましょう。

  • 最低限必要なもの

飲料水、食料品(アルファ米、カップ麺、ビスケット、チョコレート、乾パンなど)、貴重品(現金、印鑑、預金通帳)、防災ずきん、ヘルメット、マスク、軍手、手袋、ナイフ、缶切り、救急用品(ばんそうこう、包帯、消毒液、常備薬、お薬手帳など)、懐中電灯(予備電池も)、ろうそく、ライター、携帯ラジオ、携帯電話の充電器、衣類、下着

  • できれば用意したいもの

毛布洗面用具、使い捨てカイロ、ウェットティッシュ、携帯トイレ、健康保険証や免許証のコピー、タオル、くつ、スリッパ、筆記用具(紙、ボールペン、油性マジックなど)

  • 女性がいる場合に必要なもの

生理用品、防犯ブザー、カップ付きインナー

  • 乳幼児がいる場合に必要なもの

哺乳びん、粉ミルク、離乳食、紙オムツ、おしりふき、おもちゃ、絵本、母子健康手帳のコピー

  • 高齢者がいる場合に必要なもの

老眼鏡、入れ歯、常備薬、介護用品、大人用おむつ

自然現象や自然災害に関心を持つ

自然災害から身を守るためには、普段から自然現象や自然災害に関心を持つことが大切です。台風や低気圧、梅雨前線などは、日本近辺の気象予報図でわかりますが、線状降水帯やゲリラ豪雨のように予知が難しい自然現象もあります。火山噴火や地震、竜巻などの自然現象も予測が難しく、発生すると多くの被害がもたらされます。

自然現象にはまだ予測が困難なものが多くあります。しかし、1人1人が自然現象に関心を持ち、自然災害にどのように適応していけば被害をできるだけ少なくできるかを日頃から考えておくことが大事になります。1人1人がまずわが家の安全、身の安全の確保を心掛けましょう。

まとめ

線状降水帯は1990年代から確認されていましたが、注目されるようになったのは2014年8月の広島市での豪雨からです。その後、線状降水帯の発生によって、「100年に一度」といわれる豪雨がたびたび起き、大きな被害をもたらすようになりました。

線状降水帯は、暖かい湿った空気が上昇して次々と積乱雲を同じ場所に発生させ、長時間にわたって大雨をもたらしますが、その線状降水帯の発生を予測することは、まだできていません。現在さまざまな研究が行われており、その成果が待たれています。

線状降水帯が原因で起きる洪水や土砂災害などから身を守るためには、住んでいる地域のハザードマップで洪水などが起きやすい場所を確認し、避難場所、避難ルートを確認しておくことが大事です。避難に必要な防災グッズもあらかじめ用意して、自らの命を守ることを第一優先に対策を考えておきましょう。

EnergyShift編集部
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