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今次電力需給逼迫を考える 根は制度不備、主因は電源トラブル(第1回)

今次電力需給逼迫を考える 根は制度不備、主因は電源トラブル(第1回)

2021年03月22日

2020年12月中旬から2021年1月下旬にかけて(以下当期)、電力需給は逼迫(ひっ迫)し、卸市場価格は超高値に張り付いた。政府・審議会や民間シンクタンクなどで、今回の事件についての検証が行われている。エネルギー戦略研究所 取締役研究所長の山家公雄氏にも、この事件を検証し、原因を考察していただいた。

1. 今回の需給逼迫要因は、気温の低さでも燃料不足でもない

1.1 主因は電源トラブル

当期の需給逼迫要因を考察してみる。

需要要因は小さい。気温は低かったが、数年来であり異常気象ではない。

供給が問題だったということになるが、当初指摘されていた太陽光は、当該逼迫期間(当期)全体を見ると増えていた。

供給力(kW)は、事前予想そしてエリア間融通後の事後では予備率3%は確保していた。しかし、 事後は微妙である。

エリア間(TSO間)融通を218回実施し、しかもフル出力運転・自家発焚き増し要請、連系線運用容量拡大、電圧低下運用等を駆使しての結果である。特に電圧低下は禁じ手で需要削減の一歩手前の措置である。

電圧低下の根拠について電力広域的運営推進機関は「直ちに電事法における電圧維持義務違反に問われるものではない、という経産省の見解を共有した」としている。

燃料不足によりLNG火力発電の出力が低下したことが最大要因という認識が広がっているが、これは結果である。

LNG調達に1~2ヶ月要することは分っていたことであり、そのLNG火力依存に追い込まれた要因が問われる

LNG以外で燃料制約が低い他電源のトラブルすなわち計画外停止・出力低下が考えられる

実際、西日本を主に大規模石炭火力のトラブルが相次いだ。原発の停止(稼働の延期)は西日本で構造的に効いており、当期においても関電の高浜3号機の稼働延期、大飯4号機の(前倒し?)稼働開始があった。

節目の市場変化は石炭・原子力のトラブルによりおおよその説明がつく。個々のトラブルは累積的にLNG不足に効き、逼迫は長期化する。薄氷の供給力のなかで少しの需要変化は大きく影響する。そこに、2021年1月上旬の気温低下が追い打ちをかけた。

1.2 調整力不足から始まる奇異

供給量(kWh)不足だけでなく、調整力(ΔkW)も当初より不足していた。筆者は、当期逼迫の始まりは12月15日の関西エリアが受けたTSO間の調整力融通だと考えている。

TSO間融通は過去に例がない頻度・規模で行われた。

前述のように、TSOは禁じ手も含め、あらゆる策を講じて調整力調達に走ったが、安定供給のラストリゾートとして相当追い込まれていたのであろう。当期は電力量(kWh)と調整力(ΔkW)の区分する余裕がなく、区別は実質意味をなさず、全国のTSOが所要電力をかき集め、自圏そして西へ送った。

1.3 どうして西日本が不足したか

当期は、西日本が不足し、中部以東が西に送る構図であった。供給不足の象徴はエリア間の調整力融通であるが、12月15日から1月16日までの一ヶ月、計218回、合計3億747万kWhの調整力が融通された。

受電の殆どは(中部を除く)西日本であり、特に関西、中国、四国が多く、関西が終始際立った(図1)。西日本の特徴として冬季への準備不足、再稼働した原発の停止、石炭火力等のトラブル多発等が挙げられる。

冬季需要が多い北海道、東北は一貫して送電側に回った。冬季ピークに備えてメンテナンスを施し、燃料も準備していた。

 

図1.広域機関の一般送配電事業者に対する融通指示実績12/15~1/16

広域機関の一般送配電事業者に対する融通指示実績12/15~1/16
(出所)電力広域的運営推進機関資料に加筆

原発は、これまで9基が再稼働しているが、すべて西日本である(関西、九州、四国)。再稼働後(司法を含め)トラブルが絶えず、当期は2~3基の稼働に留まった。稼働は全て九州である。

また、トラブル停止が多発した。大型設備について時系列でみると、12月下旬に稼働が予定されていた高浜3号機(87万kW)は12月15日に延期が発表された。同仕様の高浜4号機トラブルを受けたものである。

電源開発橘湾1号機(105万kW 12/26)、松浦2号機(100→50万kW 12/29)、松島2号機(50万kW 1/7)が続く。この3基はいずれも石炭火力である。この他、稼働期間の長い(老朽化した)発電設備のトラブルが多く発生している。

西日本は、特に経年火力発電が多く、電源開発の共同利用電源が多く立地し、大消費地関西を主に広域流通圏を形成していることが特徴である。本州と四国の連系線は210万kWであるが、これは北本連系線の90万kWの2.3倍である。

共同利用電源のトラブルは広域におよぶ。共同利用への依存が仇になったようにもみえる。

(明日に続く)

全体目次

1. 今回の需給逼迫要因は、気温の低さでも燃料不足でもない
 1.1 主因は電源トラブル
 1.2 調整力不足から始まる奇異
 1.3 どうして西日本が不足したか
2. 異常事態だった卸取引市場 1ヶ月も売り不足
 2.1「旧一電市場」は主役 「卸取引市場」は脇役
 2.2 旧一電の協力で存在感を発揮した「一送電市場」
 2.3 卸市場と調整力市場の分離 弱かった12月15日の調整力不足シグナル
 2.4 卸価格≠調整力買取価格≠インバランス単価
3. まとめと考察「平時の一ヶ月逼迫」の根本原因は市場支配力放置 (3月24日公開予定)

山家公雄
山家公雄

エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長、京都大学特任教授、豊田合成㈱取締役、山形県総合エネルギーアドバイザ- 1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、食品業界等の担当を経て、2004年環境・エネルギー部次長、調査部審議役等を歴任。2009年より現職。融資、調査、海外業務などの経験から、政策的、国際的およびプロジェクト的な視点から総合的に環境・エネルギー政策を注視し続けてきた。 著書は、「日本の電力ネットワーク改革」2020年、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」2020年、「テキサスに学ぶ驚異の電力システム」2019年、「第5次エネルギー基本計画を読み解く」2018年、「アメリカの電力革命」2017年編著、「再生可能エネルギー政策の国際比較」2017年編著、「ドイツエネルギー変革の真実」2015年、「再生可能エネルギーの真実」2013年、など多数。

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