脱炭素化の手段、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)をどう理解すればよいか? —社会のエネルギーシステムからの視点—(後編) | EnergyShift

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脱炭素化の手段、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)をどう理解すればよいか? —社会のエネルギーシステムからの視点—(後編)

脱炭素化の手段、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)をどう理解すればよいか? —社会のエネルギーシステムからの視点—(後編)

2020年11月06日

連載 気候変動問題を戦略的に考えよう(11)

前回は、CCUSを、CO2排出削減という視点から考えてみた。このとき、CはCO2と合成燃料との間で循環していると捉えることができる。では、エネルギーという視点、あるいはエネルギーシステムという視点から、CCUSを考えた場合、どのようなことがいえるのか。前回に引き続き、松尾直樹氏(公益財団法人地球環境戦略研究機関 上席研究員/シニアフェロー)が、CCUSの「見方」を端緒に、将来のエネルギーシステムを考察する。

主役を取り替えてみよう

前回は、CCUSにおいて、Cに注目し、CO2の排出がどのようにニュートラルになっているのか、という点について述べてきました。そこでは、CはCO2とCH4などの合成燃料との間で循環しているということでした。
このことは、

    • C:物質
    • H:エネルギー(のキャリア)

と理解すればわかりやすいでしょう。われわれが欲しいのはエネルギーであるわけですね。通常の化石燃料では、Cの燃焼がエネルギーを生み出すわけですが、ここではそうではありません。

従来、CCUSやカーボンリサイクルという捉え方のベースには、「C」を主役とした見方があります。ですが、CCUの場合には、CO2削減効果はHをオリジンとしますし、われわれの興味も物質としてのCよりも、エネルギーにあります。

それならば、Cには主役の座を降りていただいて、Hを主役にして考えたらいかがでしょうか?

Hは、物理的には物質ではありますが、エネルギーとの親和性が非常に高いものです。水素エネルギーというカテゴリーとして、さまざまな要素技術の開発がなされてきています。

ただ、すこし扱いにくいところもある物質ですので、用途に応じて、Cを付加して、炭化水素などの合成燃料として用いることが有効なケースも、かなり多いでしょう。

これが、まさにCCUのUの部分そのものですね。Cのオリジンは何でもいいわけです。ただカーボンニュートラルを目指すなら、C源は、「そうでなかったら大気中に存在することになるCO2」に限られます。CCUはそのひとつのオプションに過ぎないことになります。

なぜ合成燃料なのか?

水素は、わざわざCと化合させて合成燃料化せず、H2のまま使う方が、変換効率その他を考えると、ベターであるのはいうまでもありません。カーボンリサイクルなんてしない方がいいわけです。水素の利用技術も日々実証されてきています。たとえば製鉄では、コークスを使う従来型技術より水素還元の方が優れた特性を持つでしょう。

しかしながら、(少なくとも過渡的には)炭化水素、アルコールやアンモニアなどの、より「扱いやすい」物質としての利用が考えられます。それにはどういう意味があるのでしょうか?

それは、「既存のインフラをそのまま使うことができる」というメリットだと思います。

さまざまな用途で、水素を(エネルギーとして)利用するためには、まだ技術開発がかなり必要です。水素脆弱性に起因する容器などの材質の問題もあります。これらの解決を待っていたら、水素エネルギー社会はかなり先になってしまいます。

一方で、既存の化石燃料利用インフラには、まだ投資回収の済んでいない若いインフラが非常にたくさん残っています。それどころか、これからも技術的にはかなり成熟したものとして、世界でたくさん建設されていくでしょう。水素ではムリでも、合成燃料でしたら、既存インフラが「そのまま」利用できるか、すこしの改修で利用できるようになります。

この「現実」を考えると、エネルギー利用インフラを水素に合わせるより、水素の方をエネルギーインフラで使えるように合わせる方が、既存インフラがそのまま使えて、はるかに実用性が高まるでしょう。それが合成燃料化の最大の意味になります。

二次エネルギーシステムという捉え方

水素エネルギーは、さまざまな要素技術が積極的に研究開発・実証されてきています。ところが、水素エネルギー社会という言葉で語られる場合も、それらの要素技術がちりばめられた複合体としてのみ認識されることが多いようです。

エネルギーの分類で、一次エネルギーと二次エネルギーという分類がありますが、水素は二次エネルギーです。今後大きく伸びることが期待されている再生可能エネルギーは、一次エネルギーですね。

そして、再エネ電力を用いた水の電気分解による水素製造は、かなり効率が高く親和性が高いことはよく知られていますし、前述のCCUの議論でもわかるように、そうすることで、CO2削減が大きく進むわけです。

一方で、水素よりもっと重要な(使い勝手のよい)二次エネルギーがあります。それは電力ですね。電力の分野でも、再エネ(とくにVREと呼ばれる太陽光と風力)の大量導入とグリッド安定運用を両立させるべく、さまざまな技術開発がなされてきています。貯蔵の難しさをどうクリアしていくか? が最大の課題です。

よく知られているように、水素→電力の転換には、燃料電池という高変換効率技術があります。電気分解の逆反応ですね。

そうすると、水素と電力を個々に扱うのではなく、二次エネルギーシステムとして統合して扱い、(大量の再エネ電力を一次エネルギー源とした)「最適な二次エネルギーシステムとはどのようなものか?」というテーマ設定をしたくなります(なぜかこのような視点の議論はほとんど見かけません)。

下図は、そのようなグランドデザインのひとつのイメージです。

ここでの二次エネルギーシステムは、相互変換がなされる電力と水素のシステムで、必要に応じて水素から合成燃料が製造されます。VREの出力がコントロールできないというバリアは、水素系燃料に転換・貯蔵することで、クリアできます。

合成燃料の炭素源は、 石炭火力などの化石燃料由来CO2の捕捉・回収と、バイオマスがあります。CCUはここに出てきますね。

燃料としての利用が、合成燃料から徐々に水素で置き換わるのと、二次エネルギーにおける電力の比率が大きくなると想定すると、将来的には、炭素源はバイオマスのみで賄うことができるようになるかもしれません。

興味深いのは、そうするとバイオマスはCO2削減に寄与する一次エネルギーというより、大気中から(追加エネルギーなしで)Cを捕捉・回収して、合成燃料用のCを供給するソースとしての役割になることです。この場合、CO2削減は、水素のオリジンであるVREが担うという解釈になりますね。

最初のCCUに対するナイーブな疑問から、ずいぶん遠くにやってきたようです。個別の研究や議論は、いろいろなところでなされていると思います。ですが、このようにエネルギーシステム全体を俯瞰してみると、われわれが将来目指すべきシステムのあり方がすっきりし、またそれぞれの要素技術の位置づけがはっきりして、取り組み方が見えてきたと思います。

もちろん、前提になっているのは、十分に低コストで大量にVREが提供されるということですが、それが可能になったとしても、それを有効に活用するエネルギーシステムがどのようなものか? という議論は別の問題です。

いかがでしょうか?

連載:気候変動問題を戦略的に考えよう

松尾直樹
松尾直樹

1988年、大阪大学で理学博士取得。日本エネルギー経済研究所(IEE)、地球環境戦略研究機関(IGES)を経て、クライメート・エキスパーツとPEARカーボンオフセット・イニシアティブを設立。気候変動問題のコンサルティングと、途上国のエネルギーアクセス問題に切り込むソーラーホームシステム事業を行う。加えて、慶応大学大学院で気候変動問題関係の非常勤講師と、ふたたびIGESにおいて気候変動問題の戦略研究や政策提言にも携わり、革新的新技術を用いた途上国コールドチェーン創出ビジネスにもかかわっている。UNFCCCの政府報告書通報およびレビュープロセスにも、第1回目からレビューアーとして参加し、20年以上の経験を持つ。CDMの第一号方法論承認に成功した実績を持つ。 専門分野は気候変動とエネルギーであるが、市場面、技術面、国際制度面、政策措置面、エネルギー面、ビジネス面など、多様な側面からこの問題に取り組んでいる。

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