イギリス最大の電力会社は実はガス会社。British Gasの手堅い事業展開  | EnergyShift

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英最大の電力会社は実はガス会社。British Gasの手堅い事業展開 

イギリス最大の電力会社は実はガス会社。British Gasの手堅い事業展開 

2021年02月02日

シリーズ "イケてる"英国の電力会社 その5

意外なことに、イギリス最大手の電力会社はBritish Gasというガス事業者だ。1990年の電力自由化前からの盤石な顧客基盤を武器に、電力・ガスのトップシェアを誇る。親会社のCentricaは、新型コロナで打撃をこうむったものの、脱炭素化の取り組みを緩めることはない。

Centrica傘下、英国トップシェアのBritish Gasとは?

イギリス最大の電力会社は、ガス事業者Centrica傘下のBritish Gasだ。536万世帯に電気を、659万世帯にガスを供給し、イギリスでの市場シェアは電力で19%、ガスに至っては28%だ(2019年)。

新電力の勢力拡大で下落傾向にあるものの、依然としてトップシェアを保っている。イギリスの大手電力6社(Big6)の中でも、もともとガス会社だったこともあり、ガス市場のシェアは群を抜いている。

British Gasの親会社であるCentricaは、国際的なエネルギーサービスを提供する企業で、主に英国、アイルランド、北欧などで事業展開を行っている。2016年11月には、東京ガスとLNGの調達に関する連携協定を結んだことでも知られる。昨今は新型コロナによるガス需要減少の影響を強く受け、2020年7月には、2000年に買収した北米の子会社Direct Energyを米電力大手NRG Energyに36億2,500万ドルで売却することに合意、2021年1月5日には売却を完了している。

British Gasの電源構成は再エネ76%、原子力24%。CO2排出はゼロ

British Gasの特色として、7割以上が再生可能エネルギーの電気ということも挙げられる。

2019年度(2019年4月1日~2020年3月31日)のBritish Gas全社の電源構成は、原子力が24%を占め、残りの76%が再生可能エネルギーだ。すでに石炭や天然ガスといった化石燃料からは脱却し、CO2排出係数はゼロとなっている。

一方、イギリスの全国平均は石炭が4%、天然ガスが39%と化石燃料も含まれ、排出係数は0.205kg-CO2/kWhだ。英国政府は、2025年までに石炭火力をすべて廃止する方針を打ち出している。

British Gasとイギリス平均の電源構成比
British Gasとイギリス平均の電源構成比 British Gas ウェブサイトより

再エネ100%など5種類の料金メニュー

British Gasの家庭向け再エネ100%メニュー「Green Future」では、電力とガスを取り扱っている。同メニューの電源は太陽光発電や風力発電のPPAによるものだ。ガスは、食品や農業による廃棄物を使ったバイオガス由来が4%。残りの96%は、開発途上国におけるカーボン削減活動によって排出量をオフセットしたガスになる。ユニークな取り組みとしては、2019年1月からは、電力とガスの契約それぞれに対し、1年間で5本の植樹も行っている。電力とガスの双方を契約すれば年に計10本の植樹ができる。

Green Futureの料金は、従量料金と1日単位で発生するスタンディングチャージ(固定費)で構成される。スタンディングチャージとは、配電線の接続コストをカバーするものだ。料金単価は契約した月ごとに定額制で決まっており、2021年1月時点では、2022年3月までの定額料金となっている。

2020年12月26日時点での単価は、ロンドンの場合、電気の従量料金が18.563ペンス/kWh、スタンディングチャージが28.647ペンス/日。ガスはそれぞれ3.498ペンス/kWh、31.005ペンス/日だった。イギリスの標準的な家庭の条件でとった見積もりは、電気が月額55.41ポンド、ガスが41.54ポンドだった。合計で月額96.95ポンド、年間1,163.41ポンドだ。

British Gas料金表
British Gas電気料金表 Green Future 2021年2月1日、post code SW1Y 6AXで試算 British Gasウェブサイト

再エネ100%メニュー(Green Future)のほかにも、4つのメニューがある。ボイラーの管理などホームサービスカバー契約者のための「Complete Protection」、電気のみ再エネで固定料金制の「HomeEnergy Fix」、解約手数料がなく変動料金制の標準メニュー「Standard Variable」、プリペイド型の「Safeguard PAYG」がある。

この他に、EV保有者向けに深夜0時から午前5時までが格安の「Electric Drivers」もあるが、こちらは電話で問い合わせる必要がある。これらのメニューはどれもGreen Futureより安く、Standerd Variableでは電気・ガス合計で月額86.30ポンドと、かなりの開きがある。

British Gas料金表
British Gas電気料金表 Electric Drivers  2021年2月1日、post code SW1Y 6AXで試算 British Gasウェブサイト

グループでスマートホーム事業に注力

British Gasのサービスの特色は、単に電気やガスを供給するだけではなく、生活に直結したサービスに力を入れていることだ。

例えば、住宅保険や住宅リフォームなども取り扱っている。というよりも、自社を「エネルギーサービスおよびソリューションを提供する事業者」であると定義している。

数あるサービスの中でも注目されるのは、同じCentricaグループのHiveとともに、スマートホーム事業にも力を入れていることだ。

Hiveは暖房を制御するリモコン装置や、オン・オフの制御が可能なプラグなどのスマートホーム製品を販売している。Hiveアプリではこれらガジェットのコントロールが可能で、家庭の電力消費を最適化できる。また、Hive製品はアマゾンエコーやGoogleホーム、IFTTT、アップル製品のSiriなどとも連携できる。Hiveのユーザーは150万人超だ。

Hiveの新しいサービスでは、定額制で、これまでの利用実績や天候などのデータから、効率的なエネルギー消費を支援し、光熱費を目標設定内にとどめてくれる。

もちろん、スマートホーム向けデバイスはこれだけではなく、防犯カメラやセンサー類などがそろっている。

Hiveサービス案内の動画

ガス事業者らしいホームサービス事業も展開している。24時間対応の暖房やボイラーの更新工事に加え、配管工事や電気工事など、いかにも地元のエネルギー会社といった顔も持ち合わせている。こうしたメンテナンスサービスも、月額で契約することができる。

EV導入や大規模な分散型システム実装で脱炭素化急ぐ親会社Centrica

2020年7月、British Gasは英自動車メーカーのボクスホールに1,000台のEV商用車を発注した。親会社のCentricaでは、2030年までに1万2,000台のEVを導入するという目標を掲げている。一事業者からの1,000台というEVの発注はイギリスでは最大規模だ。

実はBritish Gasは、イギリスで3番目に多くの商用車を使っており、電化による脱炭素化も急ピッチで進んでいる。

それは親会社のCentricaの2050年カーボン・ゼロ目標に沿った戦略でもある。Centricaの2030年までの野心的な目標では、2015年比で25%のCO2排出量の削減に取り組んでいる。

電源開発にも意欲的で、7GWの分散型エネルギーシステム導入も目標に掲げており、これはイギリスのピーク時の電力需要の10%に相当する。2019年には、蓄電池やデマンドリスポンスといったサービスを通して、2.7GWの導入に成功した。

今後も、脱炭素を目指す組織と提携し、生活、仕事、モビリティを変革していくということだ。

British GasのEV商用車
British GasのEV商用車 Centricaウェブサイトより

参照
British Gas
Centrica


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山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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