PwC、2021年のエネルギー業界再編はさらに進むと分析 日本の洋上風力発電は世界の投資家から注目される | EnergyShift

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PwC、2021年のエネルギー業界再編はさらに進むと分析 日本の洋上風力発電は世界の投資家から注目される

PwC、2021年のエネルギー業界再編はさらに進むと分析 日本の洋上風力発電は世界の投資家から注目される

2021年02月23日

世界最大級のプロフェッショナルサービスファームのPwCが、2021年のエネルギー業界のM&Aを予測している。ますます熱を帯びる脱炭素化や新型コロナからの経済復興など、世界のエネルギー業界が激変する中、生き残りをかけて企業はどのような策を取るのか? PwCの見立てはこうだ。

新型コロナが世界のM&Aに及ぼした影響は?

ロンドンを本拠とするPwCは、世界157ヶ国にネットワークをはりめぐらせ、27万6,000人が働く世界最大規模のプロフェッショナルサービスファームだ。2021年1月19日、世界のM&Aのトレンド分析が公表された。

その分析では、2020年下半期のM&A動向や2021年の予想に加え、投資のホットスポットが予測されている。経済全体とセクター別に分析されているが、まずは世界経済全体のM&A動向から紹介しよう。

新型コロナの影響を色濃く受けたにも関わらず、2020年下半期のM&A取引量は上半期と比べ18%、取引額は94%と急増した。取引額の大幅な増加の原因は「メガディール」と呼ばれる50億ドル以上の巨大な取引によるものだ。上半期には27件だったメガディールは、下半期には56件と倍増した。

地域別にみると、北米と南米で20%、EMEA(Europe, The Middle East and Africa:欧州、中東、アフリカ)とアジア太平洋地域でそれぞれ17%の取引量の増加がみられた。

関連記事:サステナビリティ経営の将来 PwC Japan インタビュー

SalesforceによるSlack大型買収 引き金はコロナ

セクター別では、消費者市場、テクノロジー・メディア・通信市場、健康産業市場、製造・自動車産業市場、そしてエネルギー・公益事業の5つのマーケットについて分析されている。もちろんエネルギーマーケットについては詳述するが、テクノロジー・通信セクターにおける取引量の増加にも触れておきたい。

2020年下半期、テクノロジー・メディア・通信セクターの取引量と取引額は、ともに最高記録を更新した。特に、通信分野では3つのメガディールによって取引額が3倍に跳ね上がった。

CRM(顧客管理)システムのリーディングカンパニーである米国のSalesforceによる買収劇は、このメガディールのひとつだ。12月1日、Salesforceはビジネスチャットサービスを手掛けるSlack Technologiesを277億ドルで買収した。これは、Salesforceがこれまで行った最大の買収で、ライバルのMicrosoftが展開するWindows Teamsなどのサービスを意識したといわれている。

PwCによると、新型コロナによるリモートワークへの移行などがこうした取引拡大の引き金になったという。テクノロジー・通信セクターはアフター・コロナの世界においても有望株であり続けると予想している。また、第5世代移動通信システム(5G)の普及により、自動車産業など産業界におけるIoT化が加速するため、このトレンドは2021年も続くとみている。

エネルギー業界でもM&Aが活発化 下期はメガディールも大幅アップ

さて、エネルギー・公益事業セクターにおけるM&Aの動向についてだ。2020年の下半期において、新型コロナがM&Aの取引に及ぼした影響は回復基調に向かっているものの、大手企業を除けば依然として厳しい状況にあるとした。

世界がネット・ゼロへシフトしていることを受け、サプライチェーンを含めたM&Aが加速すると予想されていたが、2020年時点ではこの動きはまだ小さいようだ。しかし、石油価格の変動が落ち着けば、2021年にはこうしたM&Aが増加するとPwCはみている。エネルギー・公益企業は今後、環境負荷を抑えながら顧客にソリューションを提供するバリューチェーンへと進化すると予想されている。

同セクターにおける2020年下半期のM&A取引額は2,590億ドルで、上半期の1,210億ドルから2倍以上に膨らんだ。メガディールの取引額も、上半期の170億ドルから770億へと大幅にアップした。

日本でもエネルギー関連企業の買収のニュースが目立つようになってきた。2020年3月には、三菱商事と中部電力がオランダのエネルギー事業者Enecoを約41億ユーロで買収した。2020年末には、オリックスがスペインの再生可能エネルギー事業会社Elawan Energyを買収し(報道によると、買収額は約1,000億円)、グローバルマーケットにおける存在感を高めている。

Global Energy, Utilities & Resources Deal Volumes and Values

Global Energy, Utilities & Resources Deal Volumes and Values Source: Refinitiv, Dealogic and PwC analysis
Source: Refinitiv, Dealogic and PwC analysis

2021年、M&Aのホットスポットに日本の洋上風力

PwCは、2021年のM&Aのホットスポットとして、日本の風力発電市場を挙げている。

日本政府が主導する洋上風力発電に注目しているようだ。2019年4月からの「再エネ海域利用法」では、洋上風力発電の開発のため発電事業者が港湾を最大で30年間占有することが認められた。こうした日本の動向が世界から注目されている

Eneco保有の洋上風力発電所
Eneco保有の洋上風力発電所 中部電力プレスリリースより

一方、電力小売部門については新型コロナによる需要減の影響で、一層のM&Aが進むとされた。

また、石油・ガス部門では、主に北米において「規模の経済化(economies of scale)」が今後も続くとされた。2020年7月には、石油世界大手の米Chevronが独立系石油ガス開発企業のNoble Energyを約50億ドルで買収すると発表 。10月には、カナダの石油・天然ガス事業会社Cenovus Energyが同業者のHusky Energyを29億ドルで買収することを表明した(2021年1月4日には買収完了を発表)。

ESG投資で変わる資金の流れ

ESG投資の加速はまた、新たな資金の流れを生み出すことも示唆されている。新型コロナの経済打撃により、債務や金利はかつてないほど低くなっている。さらに、多くの銀行や民間投資ファンドらがESG投資に資金を投入している。実際、国連が主導した「Net-Zero Asset Owner Alliance」には、5.1兆ドルの運用資産を代表する機関投資家が参加し、今後もメンバーは増える見込みだ。

関連記事:ビジネスパーソンの理解が進むSDGs、ESG。課題は気候変動以外の取り組み―PwCレポート

売却された石炭火力資産は規模の小さな民間セクターへ

しかし、これは一方で多くのCO2を排出する資産が売却されるという側面も有している。化石燃料への投資引きあげ(ダイベストメント)も進み、すでに石炭火力発電所を売却した大手も多い。

売却された資産は、比較的規模の小さな民間セクターへ流れ着くだろう。そうした中小規模のセクターは大手ほど報告義務が厳しくないことが多い。つまり、CO2を大量に排出するが安価な電源として、経済の中で利用され続ける可能性があるという。

エネルギー業界は今まさに転換の時にある

PwCは、エネルギー・公益事業セクターは今まさに転換の時にあるとして行動の変革を強く促している。費用対効果を可能な限り高めながら資産を維持するか、あるいは完全なビジネスモデルのシフトを通してカーボンニュートラルへの道を歩むのか、決断のときが迫っている。

PwC オーストラリアで、エネルギー・公益事業・資源部門のリーダーであるWim Blom氏は、「(カーボン)ネットゼロへの転換が進むにしたがって、エネルギー、ユーティリティ、および資源関連企業は、環境への影響を最小限に抑えて顧客にソリューションを提供することに焦点を当てた、より統合されたバリューチェーンに向けて動き出しています」と述べている。

参照
PwC:Global M&A Industry Trends in Energy, Utilities & Resources
PwC:Global M&A Industry Trends

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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