すごいとしかいいようがない 市民による市民のための電力会社:カリフォルニア・サクラメント電力公社 前編 | EnergyShift

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すごいとしかいいようがない 市民による市民のための電力会社:カリフォルニア・サクラメント電力公社 前編

すごいとしかいいようがない 市民による市民のための電力会社:カリフォルニア・サクラメント電力公社 前編

2021年03月22日

カリフォルニア州の公営電気事業者、サクラメント電力公社(SMUD)は、決して大規模な事業者ではないが、米国のエネルギー業界の脱炭素をリードしてきたという点では、注目に値するだろう。“米国初”のグリーン施策を数多く輩出しており、気候変動対策をリードするカリフォルニアにおいても突出したその事業展開は、日本の電力会社も大いに見習いたい。 前後編で紹介する。

"イケてる" 米国の電力会社(2)−1

市民による市民のための電力公社

サクラメント電力公社(SMUD:Sacramento Municipal Utility District)は、カリフォルニア州北東部のサクラメント郡の公営電気事業者だ。「公営」とされる理由は、事業計画や料金設定などの決定権が顧客(市民)にあるからだ。

顧客によって選ばれた7人の理事が消費者の代表としてSMUDの意思決定を行う。理事会は公開され、パブリックコメントも受け付けている。まさに市民による市民のための電力公社といえる。

SMUDの紹介動画

SMUDは、公営電気事業者として全米で6番目の規模だ。顧客は150万人にのぼり、家庭や法人向けに再エネ志向の電力や、オリジナルのエネルギー関連サービスを提供している。

供給エリアはサクラメント郡と、隣接するプレーサー郡とヨーロ郡の一部を含む900平方マイル(約2,330平方km)で、東京都より少し広いくらいの面積だ。


SMUDのサービスエリア SMUDウェブサイトより

カリフォルニア州は、米国の中でも再エネへのシフトに力を入れている。2045年までに全電気事業者が再エネ100%調達とすることを州法で義務づけた。しかし、一歩先を行くSMUDは2030年ゼロカーボンを掲げ、米国のグリーン化をリードしている。ちなみに、SMUDは公営電気事業者として全米で初めてFIT制度を取り入れたことでも知られる。

70余年の歴史が裏打ちする省エネ・グリーン思想

SMUDが再エネへのシフトで先駆者となったいきさつを知るには、その歴史を振り返るのがよいだろう。

SMUDは、市民からの発案で1946年に創設された。「エネルギーに依存しない町」を目指すというビジョンのもと、連邦政府のダム事業と並行して水力発電プロジェクトが開始された。

1960年代に入り、カリフォルニアが宇宙産業に沸くと、それまで農業中心だったサクラメントが一変する。急激な人口増加で、SMUDの顧客は数千人規模から一気に62万人に激増した

電力需要の急増に対応するため、SMUD理事会は原子力発電所の建設を決定した。このときに建設されたのが、スペイン語で「乾燥した牧場」を意味するRancho Seco原発だ。

1970年代は第一次オイルショックの影響に加え、干ばつでダムが枯渇したことによって深刻な電力不足に悩まされた。そこで、停電回避のためにSMUDが推進したのが省エネだった。エネルギー効率向上のために投資するダウンサイジング・マネジメントの思想は、脈々と続くSMUDの哲学である。

大きなターニングポイントとなったのが、1979年のThree Mile Island原子力発電所事故だった。事故の翌年、顧客の53.4%がSMUDに原子力発電所の閉鎖を要求した。SMUD理事会はこの要求を受け入れ、翌日にRancho Seco原発を停止した。廃炉になった原発跡地には500MWのガス火力発電所が建設され、SMUDを支える電源として今も稼働している。

2000年から2001年にかけて、後のエンロン事件ともつながったカリフォルニア電力危機においても、7日間の計画停電を実施したのみにとどまっており、経営破綻にはいたらなかった。

SMUDのTwitterより 太陽光発電施設の後ろにあるのが停止したRancho Seco原子力発電所

10年前倒しの「2030 Zero Carbon Plan」

2040年のカーボンニュートラルを目指すSMUDは、2018年時点でCO2排出量の50%削減(1990年比)に成功している。これまでに1億3,000万ドルを投資し、2,900MWの太陽光、風力、地熱、蓄電池といった再エネリソースを増やしてきた。また、屋上設置の太陽光設備やEVの普及にも積極的で、デマンドレスポンス容量は200MWにのぼる。

さらに、2021年3月9日には、カーボンニュートラルの目標年を2030年に前倒しする案を戦略開発委員会で議論しており、3月31日には理事会に提出される予定だ。

ロードマップと位置付けられた「2030 Zero Carbon Plan」では、以下の4分野「Proven clean tech(実証済みのクリーンテクノロジー)」「New tech & business models(新しいテクノロジーとビジネスモデル)」「Natural gas gen repurposing(天然ガス生成の転用)」「Financial impact & options(経済的影響とオプション)」に焦点を当てる。

出典:Presentation for Agenda Item 1 - Strategic Development Committee - March 9, 2021

2020年のSMUDの電源構成は風力、水力、太陽光、地熱などによるカーボンフリー電源、いわゆる再生可能エネルギーが55%を占める。残りの45%はガス火力だ。再生可能エネルギーの割合は、現状では風力と水力が多いが、2030年までに、太陽光や地熱の割合を大幅に増やす方針となっている。

新技術やビジネスモデルの分野では、デマンドレスポンスやVPP、EVの活用などが例示されている。

ガス火力については、大幅に削減した上で、一部について新技術を適用することでカーボンニュートラルな電源として運用することを目指す。新技術として具体的に上がっているのは、バイオ燃料やグリーン水素などに加え、熱利用と蓄電池のハイブリッド、揚水発電、長時間放電可能な蓄電システムなどが挙げられている。

 

(前編終わり。後編はサクラメント電力公社の料金プランやEV等の各種サービスを詳しく紹介する

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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