エネルギー基本計画見直しはじまる 「脱炭素化を実現するために」第32回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会レポート | EnergyShift

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エネルギー基本計画見直しはじまる 「脱炭素化を実現するために」第32回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会レポート

エネルギー基本計画見直しはじまる 「脱炭素化を実現するために」第32回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会レポート

2020年10月26日

日本のエネルギー政策の根幹をなすエネルギー基本計画の見直しが始まった。世界が1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルを目指す中、日本は脱炭素社会を実現するために、いかなる長期ビジョンを掲げ、それを実現する政策をどう設計するのか。2020年10月13日に開催された第32回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会における議論をレポートする。

わが国のエネルギー政策は岐路に立たされている

エネルギー基本計画とは、エネルギー政策基本法にもとづき、政府が策定するものだ。「安全性(Safety)」、「安定供給(Energy Security)」、「経済効率性の向上(Economic Efficiency)」、「環境への適合(Environment)」、いわゆる3E+Sを基本理念とし、エネルギー政策の基本的な方向性を示すものである。

この基本計画はおおむね3年に一度、見直すことが規定されており、2021年には、前回2018年に定めた「第5次エネルギー基本計画」から3年が経過するため、2020年が見直し議論の対象年となっていた。

これまでのエネルギー基本計画では、2030年度の電源構成について、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、火力56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)というエネルギーミックスが目標設定されてきた。しかし、原子力は再稼働が進まず、20~22%の達成が危ぶまれている。さらに非効率石炭火力のフェードアウト議論が本格的に始まった中において、再エネ比率をどこまで引き上げるのか。

長期的な温室効果ガス削減目標として、国は2050年までに80%削減を掲げるが、実現に向けた具体的な達成シナリオの策定や、エネルギーミックス像が定量的に試算されるのか。次期エネルギー基本計画に対する注目度は高い。

経済産業省は10月13日、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会において、次期エネルギー基本計画の見直し議論をスタートさせた。

議論は、梶山弘志経済産業相の発言から始まった。
わが国のエネルギー政策は岐路に立たされています。再エネ大量導入時代、電力完全自由化といった大変革が起こる中、将来にわたり安定供給を確保しつつ、脱炭素化を実現するためにはどうすればいいのか。今世紀後半できるだけ早期に実現するとした脱炭素社会はどのような絵姿になるのか。2050年に向けて、2030年に何を目指し、どのような取り組みを進めていくのか。結論ありきではなく、個別議論を積み重ねたうえで、バランスの取れた方向性を示していただきたい」。


分科会での梶山弘志経済産業相

計画見直しにおける、さまざまな視座

エネルギー基本計画を見直すにあたって、事務局からさまざまな視座が提示された。

まず、米中対立や中東情勢の緊迫化、また、コロナ危機によるサプライチェーンの断絶、そしてエネルギー・資源需要の減少、それに伴う価格の下落などの国際情勢の変化である。こうした国際情勢の変化を受け、エネルギー需給率の向上、資源の安定的かつ低廉の調達、サプライチェーンの再構築により、いかなる状況下でもエネルギーの安定供給を確保する必要があるのではないか。これがひとつ目の視座である。

次が、気候変動問題への危機感の高まりだ。気候変動に起因する大規模な自然災害が世界中で頻発する中、EUでは2050年カーボンニュートラル実現に向けた戦略を策定。中国も2060年カーボンニュートラルを目指すと宣言した。大統領選まっただ中の米国でも、バイデン候補は気候変動対策の強化やパリ協定復帰を公約に掲げる。世界がカーボンニュートラルを目指す動きを活発化させる中、資源の乏しい日本は、安定供給を確保しながら、どのように脱炭素化を目指すべきか。

3つ目の視座が、国内情勢の変化である。わが国でも「過去に経験したことのない」自然災害が頻発する中、電力・燃料のエネルギーインフラは高経年化し、技術者の高齢化も進み、エネルギー供給基盤に揺らぎが生じている。こうした中、自然災害時にも素早く回復する、強靭かつ、エネルギー供給を確保する仕組みをつくっていく必要があるのではないか。

さらに、再エネのコスト低下は進むが、FIT賦課金により国民負担は増大している。また、FITによる再エネ導入拡大などにより卸電力市場での取引価格が下落し、FIT電源以外の電源への投資回収の見通しが立てづらい状況になっている。電力自由化が進む中で、いかに長期的なエネルギー安定供給に必要な投資を確保するべきか。

蓄電池、水素、次世代太陽光など日本が要素技術を持つ分野がある、しかし、世界をリードできる可能性を持つ分野においても、実用化や社会実装がスピード感を持って実現しないがゆえに、他国に先導される危機が顕在化している。そのため、産業政策を通じて、国内外での市場創出を加速し、世界を先導することを目指す取り組みをしていく必要があるのではないか。

気候変動対策は、産業競争力強化の手段である

2021年3月は、東京電力福島第一原発の事故から10年の節目の年にもあたる。エネルギー政策を進めるうえで、福島の原子力災害からの復興を出発点とすべきことが改めて確認された。

このほか、2030年のエネルギーミックスなどの目標に対する進捗状況をどう評価し、目標をどう考えていくのか。さらに気候変動対策を加速させる欧州、中国、米国を念頭に、「気候変動問題は産業競争力の強化、産業政策の側面も持つ」とし、こうした動きに日本はどう対応していくべきか、といった論点が提示された。
多岐にわたる論点を受け、委員からどのような意見・要望があったのか。主要な発言を紹介していく。

松村敏弘 東京大学社会科学研究所教授

2030年というのはエネルギー政策として考えるうえで近すぎないか。2030年断面において、導入目標達成の見込みがついている特定の再エネカテゴリーに対し、「これ以上導入する必要はない」といった発言が別の委員会で出ています。しかし、2050年以降を目指すうえで、2030年断面であっても低コストで合理的に入るのであれば、さらなる導入について本来、検討しなければいけないはずです。基幹送電線や地内連系線への投資も同様です。2030年ではなく、2050年を見据えたネットワーク形成が具体的に必要にもかかわらず、2030年で思考が停止し、その口実として基本計画が使われてしまう。基本計画が近視眼的な議論をする口実を与えるのではないか、非常に懸念しています。

橘川武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授

2050年の方向性が明確になりつつある今、現実に即して2030年目標も変えていくことが大事です。
まず石炭火力ですが、非効率石炭火力はフェードアウトさせ、2030年には電源比率を20%にするべきです。原子力に関して、2050年時点でも選択肢になるといわれても、すべて60年延長しても、2060年には5基しか残っていないわけです。現実的には脱炭素の主要な手段は再エネであり、原子力は補足的な手段だということを明確にすべきです。

2030年のミックスですが、30基が80%稼働しなければ達成できない、原子力20~22%は15%に引き下げ、再エネを30%に引き上げるべきでしょう。2050年の方向性が明確になるよう、勇気を持って2030年のミックスを変えていくことが必要なのではないでしょうか。

豊田正和 日本エネルギー経済研究所理事長

再エネは主要電源たるべきものですが、太陽光パネルはすでに8割以上が輸入です。洋上風力は国内産業を育成できるかどうか。次に考えるべきは、技術自給率が高く、そしてゼロカーボンである原子力です。加えて重要なのが化石燃料の脱炭素化、水素、アンモニア、カーボンリサイクル技術です。エネルギー安全保障においても、再エネに加えて、純国産エネルギーとしての原子力の価値を再度認識すべきだと思います。

安全保障、気候変動という視点から見ると、エネルギーコストは上昇しがちですが、日本の電気代はすでに米国の2倍、アジアの2倍以上ということを認識するべきです。日本の国際競争力維持・向上のためにエネルギーコストの低減を最大限努力していただきたい。

ここでも忘れられないのが原子力の価値です。安全性向上のためにコストアップが生じているのは事実ですが、それでも再エネのコストよりも安い。この点が国民と共有できていないのではないか。

原子力の再稼働がスローだからといって、いたずらに悲観するべきではない。すでに審査申請済みのものも含めれば30基近くあるわけですから、3Eすべてに優れた原子力をしっかりと見据えていただきたい。

隅 修三 東京海上日動火災保険相談役

この2~3年の間で、わが国を取り巻く環境は大きく変化しました。コロナ禍を受け、EUは総額7,500億ユーロ(約94兆円)のグリーンリカバリーファンドを創設し、国家戦略として気候変動問題やエネルギー政策に取り組む。そういった動きがますます顕著になってきています。

欧州はコストをかけ、自国産業に痛みを伴ってでもカーボンニュートラルを実現させるという迫力があります。もはやエネルギーの脱炭素化論議は、環境問題ではなく、国家間の産業競争力、産業政策になっています。
特に欧州は自国が有利になるよう、EUタクソノミーや国境炭素税といった国際ルールを先行してつくり始めています。これに対してわが国ではカーボンニュートラルに向けた投資を加速するという、国民的な合意が果たしてできているのでしょうか。

今、見えている技術を積み上げ、時間をかけて対応していっては、欧米との競争力の差はますます広がっていくのではないか。結果として、後追いとなり、コストも余計にかかってしまう。
こうした危機感を共有して、脱炭素・エネルギー政策についても、DX(デジタルトランスフォーメーション)と並ぶ、我が国の国家戦略として位置づけて欲しい。脱炭素化を達成するという旗印を掲げれば、国民的合意は必ず得られると思います。

村上千里 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 環境委員長

Fridays For Futureに参加する日本の若者たちは、世界の気温上昇を1.5℃に食い止めるための方向性を、日本が打ち出せるのかどうか、注目しています。若い世代における気候アクションが高まる中、この審議会に求められていることは3点あります。

1点目が、次期エネルギー基本計画の検討プロセスを通して、2050年ネットゼロという長期的な目標を設定し、脱炭素に向けた戦略を広く共有できるようにすることです。

2点目は2030年におけるエネルギーミックスの見直しです。経済同友会は再エネ比率を40%、全国知事会は40%以上を求める提言を出しています。2050年ネットゼロに向けた重要なマイルストーンとして、この見直しは欠かせないと考えています。

そして、エネルギーミックスを議論する際には、各電源の発電コストを改めて検証することが必要です。
3点目は原子力発電事業者および原子力行政の信頼回復についてです。原子力を今後も使い続けたいのであれば、(原子力発電事業者は)国に強いリーダシップを求めるだけではなく、まずは第一に信頼回復を行う。これが必要なのではないでしょうか。

澤田 純 NTT代表取締役社長・社長執行役員

NTTは、日本全体の総電力消費量のうち、約1%を消費する電力需要家であり、デジタル化の推進の中で、消費量はさらに増加する傾向にあります。その一方で、2019年の台風15号による千葉県内の停電、あるいは北海道胆振東部地震によるブラックアウトなど、気候災害による大規模停電が続いており、このままでは、私どもの事業が継続できないのではないか、そう考え、経営方針を転換させました。
私どもも再エネに投資し、現在4%の再エネ比率を2030年までに30%に増やすという10年計画を策定しています。

問題はコストです。コスト増加分について、自社のコストダウンで吸収する、ということで取締役会では合意を得ています。しかし、社会全体として、コストアップを許容できるかどうかは、非常に難しい議論になってくると思います。

再エネを導入すると電気代が上昇するという、相反する中において、たとえばためられる電気にできないか。蓄電池を使う、あるいは水素を使う。ためられる電気(直流)と交流のハイブリッドな地域グリッドをつくっていくべきではないか。

脱炭素は避けては通れないテーマ

世界で速度をあげる脱炭素、再エネ転換のうねりに日本だけが距離を置くことは許されない。脱炭素、そして再エネの主力電源化は避けては通れないテーマとして、すべての委員から異論は出なかった。しかし、その一方で、多くの委員から、原子力は不可欠との認識が示されてもいる。

日本の脱炭素政策はどこに向かうのか。次回は2050年の長期ビジョンに関する課題について議論する予定だ。

(Text:藤村 朋弘)

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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