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中国・国家電網はブロックチェーンで個人情報保護を強化する

中国・国家電網はブロックチェーンで個人情報保護を強化する

2021年05月12日

ブロックチェーン技術といえば、デジタル通貨に使われていることで注目されているが、取引の記録にとどまらない、情報管理の技術としても将来性が高いとされている。こうした中、中国では電気事業における顧客データをブロックチェーンで管理しようという取り組みが進められている。日本サスティナブル・エナジー代表取締役の大野嘉久氏が報告する。

個人情報の機密と戦略的データの共有の両立

中国全土の88%に電力を供給する国営の送配電事業会社「国家電網」はかねてからブロックチェーンの研究に注力しており、2019年8月に「国家電網ブロックチェーン技術(State Grid Blockchain Technology)」を、そして2020年7月には「ブロックチェーン技術研究所(Blockchain Technology Laboratory)」を設立して技術力を磨いていた。

なぜなら膨大な顧客データを多くの部門が個別に保管・利用している現状では効率化に限界があり、ブロックチェーンによって情報を部門間で共有することでデータ管理能力を各段に向上させられるからである。

その国家電網が2021年3月30日、内部の厳しい審査を経て、ブロックチェーンにもとづく国家データ管理システムの開発を応募総数十社以上の中からWanchain社(本社・北京)に委託することを発表した。まずは中国東部での導入を進めるが、そこでは部門間で個別に保管されている顧客データをブロックチェーン基盤に統一することで大幅な効率化をはかる他、個人情報の機密を保ちつつ社内で戦略的データを共有できるようになる。


中国北京にある国家電網本社 Ermell, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

Wanchain社はイーサリアムを選択

例えば、これまではマーケティング部門が「ユーザーの電力消費動向を分析するために顧客の請求書を見せてほしい」と営業部門に依頼した場合、「請求書には顧客の氏名や住所などの個人情報が記載されているため共有できない」と拒否してきたため、過去のデータにもとづいた計画を立てることが困難だったという。

ところがWanchain社のプラットフォーム「T-Bridge」であれば個人情報を開示することなく部門間で様々なデータを共有できるようになり、さらにAIを利用することで今まで不可能だった次元の情報活用が可能となる。計画では2021年9月から一部で導入を開始し、年内まで稼働させた上で拡大させるかどうかを判断するという。

このWanchain社は、複数のブロックチェーン・システムを複合的に稼働させる「クロス・チェーン・ソリューション」という技術を中国で最初に開発した企業だが、通常の"ブロックチェーン"が情報のみを扱うのに対して、プログラムを実行させる機能(スマート・コントラクト)も付加した「イーサリアム」という進化型のブロックチェーンを使っている。

加えてモネロ(Monero)やシェイプシフト(Shapeshift)などのプラットフォームも組み入れることで、複数のブロックチェーン間のトランザクションを可能としており、約11億人に電力を供給する巨大電力会社である国家電網には、その拡張性も高く評価された模様である。


Wanchain社はイーサリアムを選択

中国は国家を挙げてブロックチェーン技術を推進

中国政府は2016年からブロックチェーン技術の開発を推進しており、習近平国家主席も2019年にブロックチェーンについて「エネルギー・セクターと産業の再編成にとって需要な革新技術」だと位置づけている。

そして2021年3月5日に開幕した中国の第13期全国人民代表大会(全人代)の第4回会議で発表された2021~2025年の国家計画では「ブロックチェーン」という言葉が初めて5ヶ年計画に盛り込まれた

“デジタル・チャイナの構築”という章において「中国はAI(人口知能)、ビッグデータ、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、そしてサイバー・セキュリティなどのデジタル産業を育て、さらに強化する」と明記しており、今後はブロックチェーンの開発においても世界で最も厳しい競争が繰り広げられるであろう。

というのも今回の国家電網によるWanchain社の採用は国営企業として初めてブロックチェーン技術を導入した事例とされており、これからEV(電気自動車)やAIと同様に多くの企業が参入するであろう。既に金融や通信など他の国有企業でもブロックチェーン技術の研究を進めており、5ヶ年計画に明記されたことで開発競争が加速することは間違いない。

中国の5ヶ年計画では研究開発が年7%ずつ増加する

中国は最新の5ヶ年計画において研究開発費を年7%以上増やすと表明しているが、5年間の合計では4割以上の増加となる。そして国家統計局によると中国の2020年研究開発費は2兆4,426億元(約40兆6,180億円)も確保されているが、それは日本の2020年度国家予算(102兆6,580億円)の約4割に相当する。

これが5年後には4割も増えるのであれば、それほど多額の研究費を充てられない日本をはじめとした諸国の企業には厳しい状況であり、当面は中国の技術覇権が続きそうである。

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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