再給電方式で地内系統混雑管理を開始へ 第2回・第3回「地内系統の混雑管理に関する勉強会」 | EnergyShift

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再給電方式で地内系統混雑管理を開始へ 第2回・第3回「地内系統の混雑管理に関する勉強会」

再給電方式で地内系統混雑管理を開始へ 第2回・第3回「地内系統の混雑管理に関する勉強会」

2020年10月23日

審議会ウィークリートピック

2020年9月4日、電力広域的運営推進機関の第2回「地内系統の混雑管理に関する勉強会」が、10月9日には第3回が開催された。電源の運用にあたって、これまでの先着優先からメリットオーダーに変更された場合、どのような混雑管理となるのかという点について議論され、第3回では中間整理(骨子案)が報告された。

送電線の先着優先の廃止が前提

従来、日本の電力系統は事故時を除く平常時には系統混雑が生じないよう設備形成されている。「系統混雑」とは、送電線の運用容量の制約により、発電所・発電機の運用に制約が生じている状態のことである。

系統の混雑管理とは何か、見直しの背景はどのようなものかは、別稿(第1回「地内系統の混雑管理に関する勉強会」:送電線の利用をメリットオーダーへ)を参照願いたい。

本稿では、第2回「地内系統の混雑管理に関する勉強会」(以下、勉強会)での議論の様子、および第3回での中間整理(骨子案)についてお届けしたい。

仮に「全く」混雑を発生させないという原則を貫くならば、新しい発電所が建設されるたびに無限に送電系統を増強する、もしくは新規発電所は建設させない、という極端な結論にもなりかねない。

よって、一定の系統混雑を許容することが、既存の系統・流通設備を有効活用することにつながる。平時の混雑を許容するということは、系統に接続している発電所の出力を抑制することを意味するため、どの発電所をどのようなルールに抑制するのかという点が最大の争点となる。

勉強会では以下の2点を目指すべき姿として、議論が進められている。

  • 社会便益を最大化するため、電源運用を先着優先からメリットオーダーへと変えた混雑管理の実現
  • 価格シグナルに基づいた事業者自らの選択により、自然と適切な系統に適切な電源が接続される(系統と電源が最適化される)設備形成の実現

勉強会では現在の「先着優先」を廃止することが大前提となっており、議論の中心は、具体的に今後新たにどのような混雑管理方法を採用するか? という点だ。

新たな混雑管理方法選定の観点

すでに諸外国では様々な混雑管理が実施されており、混雑管理方法大枠としてはそれらのいずれかを採用しながら、日本版としてアレンジしていくことになる。
抽象的な説明では分かりにくいので、具体的な混雑管理方法を比較しながらそれぞれの特徴を示したい。

出所:地内系統の混雑管理に関する勉強会資料を元に筆者作成

(参考)

  • 再給電方式:予め混雑送電線を特定することはせず、混雑が発生する(あるいは発生する可能性が高い)と判断した段階で混雑処理を行う
  • ゾーン制:予め混雑送電線を特定し、混雑処理を行う準備を整えた上で、混雑発生時に処理を行う
  • ノーダル制:全ての送電線に対して混雑処理を行う準備を整えた上で、混雑発生箇所に処理を行う

再給電方式はドイツや英国など欧州の多くの国々で実施されており、ノーダル制は米国のPJM(東部の地域送電機関RTO)やERCOT(テキサスの独立系統運用者ISO)などで実施されているように、欧州*と米国で大きく二分されている。

この欧州/米国の違いは、系統利用ルールだけでなく電力市場ルールなど電力制度全般に、大きな違いとなって表れている。

非常に簡略化すると、欧州の多くの国では、日本のBG(バランシンググループ)に近い仕組みをベースとして、TSO(送電系統運用者)が系統の運用を、民間事業者が電力卸取引市場を運営している。これに対して米国では、RTOやISOが送電系統と電力市場の両方を一体的に運営している。米国では原則プール制が採用されており、すべての電源が市場に入札したうえで、市場で約定した電源のみが発電できるルールとなっている。米国に限らずどの国でも電力市場では電源はメリットオーダーで約定されるため、市場開札後の計画断面では必ずメリットオーダーが実現することとなる。

*欧州のすべての国が同じではないのだが、ドイツや英国など主要国で実施されているため欧州と呼ぶことをご容赦願いたい。

まずは「再給電方式」から開始へ

第3回勉強会では、「再給電方式」から開始することが合意された。

どのような混雑処理方法であっても、混雑処理実施のタイミングに関して混雑処理の主体という視点で捉えると、大きくは、卸取引市場(市場運営者)による混雑処理と、TSOによる混雑処理という2段階での処理機会が存在すると考えられる。

出所:地内系統の混雑管理に関する勉強会資料を元に筆者作成

現在の日本の仕組みでは、平常時には原則混雑が発生せず、計画的な工事や事故時に限った混雑処理をおこなっているが、これを大きく捉えると、エリアごとにTSOが主体となり、全ての送電線を対象とした混雑管理がなされていると言える。

2021年度以降はノンファーム接続方式が全国展開されることや、費用便益評価次第では混雑が生じても系統増強しないという判断もあり得ることから、平常時における混雑発生はもう間近に迫っている課題である。

このため、まずは速やかに導入可能な混雑管理を選定することが、現実的に必要とされている。表1の混雑管理方法のなかで、速やかに(とはいえ2~3年程度は掛かると考えられるが)導入可能なものは「再給電方式」である。

よって、将来的には「ゾーン制」との併用や「ノーダル制」への移行も前提としつつ、まずは「再給電方式」を開始することが合意された。

再給電方式のイメージ

混雑を解消するために、どのように調整力を運用するのか、その基本的な仕組みを説明しておこう。

出所:地内系統の混雑管理に関する勉強会資料を元に筆者改変

図3では、送電線の運用容量が100万kWであるところに、右系統から左系統へ110万kWの電力が流れようとしている。このままでは運用容量を超過してしまうため、右系統で10万kWほど出力を抑制する(Iの電源)。

これだけでは左系統で電力が不足するため、電源Cを10万kW増出力させることで、混雑を解消させる。

図3の場合、TSOが各電源の発電費用を事前に把握しておくことにより、高単価なI電源の発電量を減らし、安価な電源Cの発電量を増やすことで、メリットオーダーを実現している姿となっている。しかしながら緊急の場合には、コストよりも系統の安定を優先せざるを得ないため、必ずしもメリットオーダー順に制御できるわけではない。

さらに、この図3の左右の小さな系統の中ではメリットオーダーが実現するとしても、大きなエリア単位で捉えた場合には、I・Cの調整電源を増減させることにより、エリア全体としてのメリットオーダーは崩れることが一般的であると考えられる。

つまり混雑処理をおこなうことは、追加的費用が発生することを意味している。この追加的費用を、誰がどのように負担するかは、大きな論点である。

表1の「G.混雑調整費用」では「一般負担」とされている。つまり、託送料金等を通じて、需要家等が広く薄く負担するかたちである。

一般負担の対極にあるのが、「原因者負担(事業者負担)」である。原因者負担方式であれば、事業者には、混雑を発生させないように努力する経済的なインセンティブが働く。新規電源を建設しようと計画している事業者に対して、明確な価格シグナルを発することが出来れば、新規電源は空き系統を選んで接続しようと考えるはずである(図4)。このことにより、電源と系統がセットとして最適な設備形成が実現すると期待される。

出所:地内系統の混雑管理に関する勉強会資料

これら混雑処理費用の扱いや適切な価格シグナルの確保が、再給電方式の課題と考えられている。英国の例としては、再給電方式に別途「地点別料金制度」を組み合わせることにより、発電所の立地を空き系統に誘導することで一定程度、混雑を解消できている。

日本においても託送料金の発電側基本料金の制度設計が進められつつあるが、これを価格シグナルとして併用することが一案であろう。

「ゾーン制」も短中期的導入候補、長期的には「ノーダル制」か

日本の現状の地域間連系線と、各一般送配電事業者が管理する「エリア」の関係性を考えると、地域間連系線では、エリアを一つの「ゾーン」と捉えたゾーン制の混雑管理がおこなわれていると捉えることができる。表1の「C.混雑送電線」としては、あらかじめ地域間連系線のみが混雑処理対象として特定されているかたちである。

よって、すでに日本には「ゾーン制」が存在することから、勉強会でも、ゾーン制は日本の現状の仕組みとの親和性が高い仕組みであると評価されている。

一方、ノーダル制は複雑なループ系統にも適用可能であり、価格シグナルも適切に発信できるなど、優れた特徴を持つ混雑管理手法である。

他方、混雑管理に必要となる情報(表2)を混雑管理主体が一元的に把握する必要があることから、現在の日本の仕組みからは大きな変更となる。

  • 「対象とする送電線の空容量(どれだけ使えるか)」
  • 「対象とする送電線を利用する電源の利用量(どれだけ使おうとしているのか)」
  • 「対象とする送電線を利用する電源の利用の順番を判断するための情報 (使える量より使う量の方が多い場合にどの電源から抑制するのか)」

このためノーダル制は、長期的な視点で議論を要する選択肢として、国も含め継続して議論していくことが提案されている。

まとめ:短中期的な導入の姿

よって上記の議論をまとめると、現実にスタートするノンファーム接続への対応として、まずは先行して「再給電方式」を導入。そして再給電方式は、一定期間はそのまま継続運用を続ける。そこにやや遅れて「ゾーン制」を部分的に導入し、再給電方式と併用する。

ただし、将来的なノーダル制導入のタイミング次第では、ゾーン制の導入が見送られる可能性も否定できない。

いずれの混雑管理手法が導入されるにせよ、従来は発生しなかった出力抑制が発生することにより、既設/新設いずれの発電事業者に対しても大きな影響を与え得る。制度の方向性が定まらない期間が長く続くならば、発電事業者は新規投資の意思決定を先送りする可能性も否定できず、国の長期的な供給力・調整力の確保にも影響を与える可能性がある。

大変難しい課題であるが、関係者の建設的な議論に期待したい。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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