気候変動時代における主要省庁の2020年度予算 環境省、1,748億円を計上 | EnergyShift

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気候変動時代における主要省庁の2020年度予算 環境省、1,748億円を計上

気候変動時代における主要省庁の2020年度予算 環境省、1,748億円を計上

2020年04月09日

2020年度に入り、各省庁では新たな予算編成のもと、再生可能エネルギーや脱炭素化を目指す政策が始まっている。環境省では、「気候変動×防災」「気候変動×社会変革(テクノロジー、ESG、SDGs)」など、気候変動時代における対応政策などに1,748億円を計上した。再生可能エネルギーの普及・拡大や脱炭素化に向けた取り組みは、環境省のみならず、国土交通省や農林水産省、総務省など省庁横断的に実施されている。
2020年度、各省庁はどのような再エネ、気候変動政策に取り組むのか。主要関連予算をまとめた。

環境省、気候変動の緩和と適応を強化

毎年、気象災害リスクにさらされる日本において、気候変動対策は待ったなしの状態である。環境省では、地球温暖化の進展にともない、2019年経験した台風19号のような気象災害リスクがさらに高まると予測し、「気候変動×防災」という政策テーマを掲げ、気候変動の緩和(温室効果ガスの排出削減)と気候変動への適応(被害軽減)への取り組みを強化する。

なかでも、気候変動×自立分散型エネルギー政策では、大規模災害時でも、エネルギー供給が可能な地域づくりを目指し、再エネや蓄電設備、自営線などを組み合わせたエネルギーシステムの構築を支援する。予算額は2019年度比148億円増となる433億円が計上された。

さらに、「気候変動×社会変革」という政策テーマも掲げる。
脱炭素社会実現には従来までの取り組みの延長ではない、大胆なイノベーションにより、社会のあり方を変革していくことが不可欠となる。そこで気候変動問題への対応をテコに、日本および世界が直面する経済・社会的課題の同時解決を目指し、テクノロジー、ESG、SDGsなど、あらゆる観点から社会イノベーションの促進を図る。
具体的には、窒化ガリウム(GaN)など革新的なCO2削減を可能とする部材や素材の早期社会実装の推進。浮体式洋上風力発電の普及。再エネ由来水素の低コスト化など、水素社会の実現。このほか、2023年までにCCUS(CO2回収・利用・貯留:Carbon dioxide Capture Utilization and Storage)の商用化技術の確立を目指す。

また、途上国の脱炭素社会への移行を実現するため、二国間クレジット制度(JCM)に関する支援も行う。COP25では第6条について合意に至らなかったが、日本はこれまで島嶼国や後発開発途上国を含む17のパートナー国と160件超のJCMプロジェクトを実施しており、2030年度までの累積で1,400万t以上の温室効果ガスの排出削減を見込んでいる。
環境省では、「COP25発の日本イニシアティブ」という政策テーマのもと、JCMにおける経験や知見を活かし、第6条に関する実施ルールにおける議論を牽引したい考えだ。

気候変動対策を中心に、環境省ではエネルギー対策特別会計に2019年度比42億円増となる1,748億円の予算を計上している。主要予算項目は下記のとおりである。

環境省予算参考サイト
気候変動時代における令和2年度環境省予算案のポイント

COP25発の日本イニシアティブ

二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業

2020年度予算額107億円(2019年度予算額91億円)
民間活力を活用し、コスト制約や導入実績がないため導入が進んでいない優れた脱炭素技術等を導入するプロジェクトに対し支援を行うことで、途上国の脱炭素社会への移行等を実現する。これにより、パリ協定の目標達成に必要な途上国を含む世界全体の排出削減を進める。

気候変動×防災

地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業

2020年度予算額116億円(2019年度予算額34億円)
地域防災計画に災害時の避難施設等として位置づけられた施設に再エネ設備等の導入を支援し、平時の温室効果ガス排出抑制に加え、災害時にもエネルギー供給等の機能発揮を可能とする。

建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業

2020年度予算額99億円(2019年度予算額84億円・補正10億円)
災害対応の観点から、停電時にも必要なエネルギーを供給できる機能を強化したZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)に特化した支援メニューを公共性の高い業務用施設(地方自治体庁舎など)向けに創設する。 また、エネルギーの自給自足により災害にも強く、ヒートショック対策にもなるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のさらなる普及も進める。

脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業

2020年度予算額80億円(2019年度予算額60億円・補正6億円)
台風などの大規模災害による停電発生時にもエネルギー供給が可能な地域づくりを進めるため、再エネ設備、蓄電設備、自営線などを組み合わせた面的なエネルギーシステム構築にかかる支援を行う。

地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業

2020年度予算額40億円(新規)
変動性再エネを主力電源化するために、需要側の設備等において、電気自動車(EV)、建物間での自営線、直流給電システム等を活用し、地域の調整力を向上させる体制構築を支援することで、脱炭素化と同時に、レジリエンス強化を目指す。

気候変動×社会変革(テクノロジー、ESG、SDGs)

CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業/革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業

2020年度予算額83億円(2019年度予算額65億円・補正3億円)
脱炭素社会への移行に向けて新たな社会システム・技術の開発・実証を公募型で進め、早期の社会実装を推進する。
また、これまで環境省が開発を主導してきた、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)といった省CO2性能の高い革新的な部材や素材を活用した製品の早期商用化に向けた支援を行い、CO2排出量の大幅な削減を目指す。

浮体式洋上風力発電による地域の脱炭素化ビジネス促進事業

2020年度予算額5億円(新規)
深い海域の多い日本において、再エネのなかでも最大の導入ポテンシャルを有し、かつ台風にも強い浮体式洋上風力発電を普及させ、地域の脱炭素化ビジネスを促進する。

再エネ等を活用した水素社会推進事業

2020年度予算額36億円(2019年度予算額35億円)
再エネ等の多様な地域資源から、再エネ等由来の水素を「つくり」「はこび」「つかう」ところまで一貫した世界に類を見ないサプライチェーンを構築し、水素サプライチェーン全体の脱炭素化につなげる。
さらに既存の再エネを活用し、再エネ等由来水素の低コスト化の実現に向けた実証を行う。

CCUS早期社会実装のための脱炭素・循環型社会モデル構築事業

正:2020年度予算額75億円(2019年度予算額72億円)
CCUS(CO2回収・利用・貯留:Carbon dioxide Capture Utilization and Storage)の早期社会実装のため、2023年までに日本初の商用規模の技術を確立し、脱炭素・循環型社会にシフトする社会への布石を打つ。

SBT達成に向けたCO2削減計画モデル事業

2020年度予算額2億円(2019年度予算額1億円)
SBT(科学的根拠に基づいた排出削減目標:Science Based Targets)認定等の削減目標を設定している企業を対象に、中長期の削減ポテンシャル評価を行い、SBT達成に向けたサプライチェーン全体での削減行動計画の策定を支援することで、企業のパリ協定達成に向けた取り組みを促進する。

地域脱炭素投資促進ファンド事業

2020年度予算額48億円(2019年予算額46億円)
一定の採算性・収益性が見込まれるものの資金調達に苦慮する地域の活性化に資する脱炭素化事業に対し、民間の投融資の呼水として、本ファンドが出資により支援する。具体的には風力発電、中小水力発電、バイオマス発電、地熱・温泉熱発電、非FITの太陽光発電等に対し出資する。

国交省、総務省、農水省による再エネ促進策

再エネの普及・拡大政策は、国土交通省や総務省、農林水産省などでも実施されている。

国土交通省では、CO2排出量の約2割を占める自動車分野での排出量削減を目指し、電動化技術などの開発支援を行う。また、洋上風力発電の普及を目指し、海のドローン(自律型無人潜水機:Autonomous underwater vehicle)によって送電線や係留索などのメンテナンスの効率化に向けたガイドラインの策定なども進める。
総務省では災害時のエネルギー確保を推進するため、地方公共団体の分散型エネルギーインフラプロジェクトのマスタープラン策定を支援する。

2023年までに再エネにかかわる経済規模を600億円、2025年までにバイオマス都市産業における産業規模を400億円に拡大させる政策目標を掲げる農林水産省では、ソーラーシェアリングなど再エネ導入によるメリットを農山漁村の発展につなげる取り組みを実施する。

予算規模は少額だが、再エネ・脱炭素化に向けた政策は省庁横断的に実施されている。各省庁の主要予算は次のとおり。

国土交通省

地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車の普及促進

2020年度予算額5.12億円(2019年度予算額5.3億円)
政府を挙げて省エネルギー、地球温暖化対策等のために次世代自動車の普及を促進している中、地域の計画と連携し、次世代自動車の集中的導入・買い替え促進を支援する。


地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車の普及促進:国土交通省予算概要資料より

産学官連携による高効率次世代大型車両開発促進事業

2020年度予算額2.59億円(2019年度予算額2.77億円)
運輸部門においてCO2排出量の約4割を占める大型車分野に関し、産学官連携のもと電動化技術や内燃機関分野等の開発促進の強化を図り、高効率次世代大型車両の開発・実用化を促進する。

海のドローンの活用による洋上風力発電施設等の操業コストの低減等に向けたガイドライン策定

2020年度予算額96百万円(2019年度予算額102百万円)
洋上風力発電の普及等に向けて操業コストを低減するためには、海のドローンを活用して、送電線や係留索、パイプライン等の関連設備のメンテナンスの省人化・効率化を図ることが有効である。
このため、海のドローンによりこれら設備のメンテナンスを行う際の安全要件等にかかわるガイドラインを策定し、普及促進を図る。

浮体式洋上風力発電施設の建造・設置コスト低減等に向けた安全評価手法の確立

2020年度予算額38百万円(2019年度予算額50百万円)
洋上風力発電の普及に向けては、浅水域に限らず幅広い海域への設置が可能な浮体式洋上風力発電施設の建造促進を図ることが必要であり、そのためのコスト低減が急務となっている。
このため、安全性を確保しつつ、浮体構造や設置方法の簡素化等を実現する新たな浮体形式等の普及促進を図るため、合理的な安全評価手法をガイドライン化する。

国交省予算参考サイト
自動車局関係予算決定概要(P.11〜12)
海事局関係 予算決定概要(P.9)

総務省

「分散型エネルギーインフラプロジェクトの推進」

2020年度予算額9億円の内数(2019年度予算額10億円の内数)
地方公共団体を核として、バイオマス等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を立ち上げるマスタープランの策定を支援する「分散型エネルギーインフラプロジェクト」について、災害時の自立エネルギー確保の観点も含め強力に推進。

総務省予算参考サイト
総務省所管予算の概要 (P.5)

農林水産省

食品ロス削減・再生可能エネルギーの導入等の推進

2020年度予算額1,811百万円(2019年度予算額788百万円)
再エネによるメリットを農山漁村の発展に活用する取り組みの実証やバイオマスを活用した産業化等に必要な施設整備等を支援するとともに、食品ロス削減などの取り組みも支援する。

農水省参考サイト

(Text: 藤村 朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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