木質バイオマス燃料のロジスティクス革命 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

木質バイオマス燃料のロジスティクス革命

木質バイオマス燃料のロジスティクス革命

2020年12月24日

再生可能エネルギーのうちでも、バイオマスエネルギーの場合、他とは異なりサプライチェーンなどにおける課題は小さくない。今回は、木質バイオマスの利用にあたって大きな力となる製品が登場したことを、株式会社sonraku代表取締役の井筒耕平氏が、デモの体験も含めて報告する。

木質バイオマスでは乾燥と物流がイシュー

木質バイオマスを普及させる上で、乾燥と物流は大きなイシューである。

専門家にとっては乾燥が重要であるという認識はあるものの、実際の運用では、丸太で天然乾燥をするか、乾燥させないまま水分率の高いチップ(製材所から排出される場合には乾燥できないことが多い)をボイラーで燃やすことが多いのが現状だ。

水分率が多いチップを使うと、ボイラーが傷んだり、チップ庫からボイラーへの搬送機械装置自体が故障しやすくなる。その結果、バイオマスボイラーの導入をしてもうまく運用できず、最終的には使われていない、あるいは故障をカバーしながらもなんとか使い続けている、という事例が実はいくつもある。

こうした現状に対して、乾燥と物流という両面からロジスティクス革命を起こそう、というのが極東開発工業社(本社:兵庫県西宮市)である。

2020年2月に発売が開始された「乾燥コンテナシステム:Kantainer」は、乾燥コンテナとブロワユニットによって木質チップを乾燥させ、同社の特殊車両である”フックロール車”を用いて、運搬することのできる製品である。


乾燥コンテナシステム:Kantainer

構造としては、乾燥コンテナの床下部に空間があり、床面には小さな穴を開けることで、空間から穴を通して温風が木質チップにあたり、乾燥していくという仕組みである。この温風の流れについて同社では様々な工夫を重ねているそうで、当初は吹き出す温風に偏りがあったものの、現在では一律に温風を当てることができると則武宏昭氏(極東開発工業株式会社 技術本部開発部)は胸を張る。

水分50%のチップを5%まで低減可能

この乾燥コンテナの熱源は、バイオマスボイラー(特に端材ボイラーなどであれば燃料コストが安価)でもよいし、バイオマスCHP(熱電併給)の排熱を当てることができる。

たとえば温風温度が80度程度、熱出力が90kWの場合、水分率50%のチップ(6.7m3)が13-16時間程度で5%まで落とすことが可能であるとのこと(同社調査結果より)。

また、排熱出力やチップ消費量によっては、コンテナを連結させ、乾燥させる量を増加させることも可能。つまり、1つのプロジェクトにおいて、コンテナは1つではなく、複数のコンテナを準備することで、チップ搭載コンテナをぐるぐると回転させることができるのだ。

チップ乾燥が終了したコンテナは、そのままフックロール車に搭載され、バイオマス設備へと運搬することが可能であり、現地到着後、チップはダンプ排出される、という流れになる。貯留、乾燥、輸送を詰め替え不要で1つのコンテナで実現される。

その他、蓋もオプションでつけられ、遠隔監視も可能、大型乾燥コンテナ(19.8m3)も用意されており、今後もユーザーにとっての使いやすさなどの広がりに期待が持てる。

ユーザーにとっては課題と感じる部分もある。乾燥工程では、コンテナ下部のチップから順番に上に向かって乾燥されていくが、コンテナ内に攪拌機能がないため、途中段階では下部と上部の水分率は全く異なる。

上部まで乾燥が終わった際には、水分率は5-10%程度であるため、乾燥チップが必要なCHP設備にとっては適しているが、水分率30%程度のチップが必要なバイオマスボイラーに向けては、均一な水分率を持つチップを作ることができない。

ただ、均一にはできないが、平均して30%程度ということであれば可能であり、ボイラーによっては許容されるとのこと。

新製品は木質バイオマスボイラーの救世主か

今回、筆者らは12月7日・8日に岡山県西粟倉村において、チップ乾燥のデモを拝見した。

西粟倉村では、地域熱供給向けチップ乾燥が課題になっており、現在は村外から乾燥チップを購入している。村内の主要製材所から排出されるチップを利用するためには強制乾燥工程は必須であり、そのための試行の意味がある。

今回のデモにおいて、熱源は灯油ヒーターで行ったが、今後本格導入する場合には、新たにCHPを導入し、排熱を利用する予定だ。今回、11.8時間の乾燥で水分率60→37%(平均値)と落ち、その後地域熱供給のチップサイロに搬入した。

筆者としては、フックロール車との着脱のスムースさに最も目を奪われた。うまくロジが回れば、安定的に低水分率のチップを供給できる体制が整う未来が見えた気がした。

さて、本製品の販売状況についてであるが、2020年11月に東北地方に初めての納品があったばかりとのこと。まだまだ知られていないこのロジスティクス革命の第一歩は、非常に大きな可能性を持っている。

極東開発工業社は、今回ご紹介した乾燥コンテナシステム以外にも、木質ペレットのエア搬送ユニット「JETCUBE」やエア搬送ダンプトラックを開発しており、欧州では常識となっている木質ペレットのエア搬送を実現させている。

全国で、木質バイオマスボイラーの運用に悩む地域は多い。この製品を導入することで、各地で1ヶ所にとどまっていたバイオマス施設導入が、複数導入されていくことの道筋も見え、その先には、多様な規模のCHPや熱利用が組み合わさったような、木質バイオマスのビジネスエコシステムを見据えていける1つのトリガーになり得ると見た。今後のさらなるユーザビリティ向上や新製品開発にも期待したい。

井筒耕平
井筒耕平

1975年生。愛知県出身、神戸市在住。環境エネルギー政策研究所、備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て、2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。神戸大学非常勤講師。 岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」などがある

エネルギーの最新記事