日本も例外ではない 今こそ考えるべき気候変動で変革を迫られる農業と食糧安全保障 COP26を総括する(5) | EnergyShift

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日本も例外ではない 今こそ考えるべき気候変動で変革を迫られる農業と食糧安全保障 COP26を総括する(5)

日本も例外ではない 今こそ考えるべき気候変動で変革を迫られる農業と食糧安全保障 COP26を総括する(5)

COP26の政府間交渉ではたびたび言及されつつも、あまり進展がなかった分野に「農業」がある。気候変動枠組み条約(UNFCCC)の下には、コロニビア共同作業(KJWA)が設置され、気候変動の原因の1つであり、同時に影響を受けやすい農業の改革を進めるとされている。先進国と途上国による、気候変動対策と食糧安全保障に向けた共同作業がどのように進むのかはまだこれからだといっていい。FAO(国連食糧農業機関)主催のサイドイベントでは、その主要な論点について、数日にわたって議論されている。COP26の総括として最後にKJWAをめぐる議論を紹介する。

温室効果ガス排出量の3割は農業由来

ほとんどの日本人にとって、農業は気候変動問題のテーマのうちでもマイナーなものだというイメージがあるのではないだろうか。だが、食糧自給率が低い日本にとって、グローバルな農業生産は極めて重要な問題だ。世界的な干ばつによって穀物価格が上昇すれば、原油高騰以上に暮らしに影響を与えかねない。

農業と気候変動問題は、プラス面とマイナス面を併せて、さまざまな点でかかわりがある。

気候変動による干ばつや豪雨などが農作物に被害を与えるということは想像できるだろう。しかし、農地拡大のための森林伐採は気候変動の原因となっている。適切な農業によって土壌中の炭素が保存されるのであれば、CO2の削減につながる。とりわけ畜産は畜牛が出すメタンガスや牧草地の開墾など、気候変動への影響が大きい。

さらに、先住民の問題や持続可能な農業のための技術、農薬などによる生態系の破壊の回避、サプライチェーンの脱炭素化など、論点は多い上に、多くの途上国にとって農業は基幹産業でもある。

また、農業由来の温室効果ガス(GHG)排出は世界全体のおよそ3割にも及び、パリ協定における各国のNDC(GHG排出削減目標を含む、国別の政策と目標)のおよそ95%において、農業に関する取組みが優先されている。

2011年のCOP17において、農業は議題として検討されるようになり、2017年のCOP23において、農業について実質的な取組みを進めていく、「農業に関するコロニビア共同作業(KJWA)」が設置された。とはいえ、実際には、COP26において、KJWAについての議論が進んだとは言い難い。農業を通じて気候変動を緩和し、あるいは農業を気候変動に適応させていくのは、簡単なことではない。こうした背景から、COP26ではFAO(国連食糧農業機関)主催によるサイドイベントが連日のように開催されたということになる。

「緑の革命」の反省に立ったイノベーションを

11月3日に開催された2つのイベントは、技術と資金にフォーカスしたものとなった。

技術といっても、実は多様なアプローチがあることが紹介されている。ただし、共通するのは「緑の革命」と大きく異なるということだ。緑の革命とは、1940年代から1960年代にかけての取組みで、品種改良や農薬の利用を通じて農業の生産性を向上させるというものだった。しかしこの取り組みは、生態系の破壊などを招いてきた。したがって、これからの技術はこうした反省に立ち、持続可能な農業に資するものとなるということだ。

どのような技術が言及されたのか。例えば、ストックホルム国際水研究所(SIWI)のトーグニー・ホルムグレン氏は、水管理技術、水資源の有効利用について述べている。また、ベルギーのビールメーカーであるアンハイザー・ブッシュ・インベブのエジ・バルシナズ氏は、農業のサプライチェーンについて言及した。農業におけるリスク軽減、農民の主体的な取引のための、モバイル決済サービスや保険について述べられた他、農作物のトレーサビリティを確保するためのブロックチェーンの活用なども話題となった。

こうした技術の活用にあたっては、資金調達も必要となってくる。そのためにも、エジプト外務省のアイマン・サーワット・アミン・アブドゥールアジズ氏は、KJWAをUNFCCCの下に置き、地域における気候変動に対する緩和と適応に関するプロジェクト開発を行なうコンセンサスが高まっていることを指摘。とりわけ小農民の収入を増やすことが適応につながるとした。

農業こそ再エネ利用の拡大を。策を講じなければ甚大な被害が・・・次ページ

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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